表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジッター  作者: 文月 雪花
第1章
2/15

皇帝暗殺事件

 俺は、皇帝暗殺事件のレポートに目を通す。

 犯人はナギ・ブラウンという小柄な女性で、レポートに載っている彼女の顔写真からは、彼女が皇帝を殺害した超特級の政治犯だとは想像できない。

 まるで新雪のように白い肌に、栗色のショートヘアと大きな二重瞼の目は、女性であるにもかかわらず、美少年のような印象を抱かせる。

 彼女は、先の大戦で、旧皇国陸軍の精鋭特殊部隊、第ゼロ分隊に所属していて、彼女を除く分隊長以下全員が戦死を遂げている。

 そして、そのあとの奇妙な記述が、彼女の不気味さを物語っている。

 皇帝暗殺事件の後、俺の所属する組織であるSMPの最高総司令官直属の部隊が、約一個小隊強の編成で、彼女の拘束を試みたが、死者27名、重傷者33名の大損害を被ったことから、彼女が通常の人間ではないことを物語っているのだ。

 そして、俺の目の前にそびえ立つ白い巨大な扉の向こうは、独房になっていて、ナギ・ブラウンが拘束されている。

 扉は、厚さ90センチの特殊合金でできており、核爆発にも耐えられるもので、人力では開けることが出来ず、電子制御で開閉する仕組みになっている。

 彼女がどうして皇帝を殺害したのか、また、彼女がどのようにして精鋭部隊の最高総司令官直属部隊にそれほどの損害を与えることができたのか、尋問したいことは山ほどあった。

 俺は、扉の覗き窓から、ナギ・ブラウンの様子を窺った。

 彼女は、黒いタンクトップにミリタリーパンツという、拘束された当時のままの恰好で投獄されており、独房の隅に座り込み、俯いていて、彼女の細く白い腕には、その腕に似つかわしくない鉄でできた大きく頑丈な手錠がはめられていた。

 彼女は、こちら側を向いて俯いており、微動だにしない。

 栗色の前髪で目元が隠れていたが、髪の間から覗かせる大きな瞳は、独房の蛍光灯の光を反射し、まるで獣の瞳が光っているようにして、こちらをじっと窺っている。

 その眼には、怒りのような感情はなく、無表情であったが、その眼の光には言葉にできない凄みがあり、まるで首元に牙を突き立てられたようだ。

「ご苦労!ウェンスキー中尉。彼女の様子はどうかな?」

 背後から肩にぽんと手を置かれた。

 振り返ると、赤いベレー帽を被ったSMP最高総司令官ユウキ・ロレンツ中将は、いつものように美しく、自然な笑顔でそこに立っていた。

「はっ!それなのですが、相変わらず、一言も発しません」

 俺は、直立不動の体勢をとり、彼女に敬礼した。

「投獄されてから数週間、一言も発せず、か……連邦政府からの通達で、彼女の銃殺が明日に決まったんだ」

 珍しく彼女の笑顔が若干曇った。

「明日ですか?そんな唐突に……」

「殺害された皇帝は連邦政府が擁立したんだ。そいつが狙撃されるのを全世界で生放送されたんだ。連邦政府のメンツは丸つぶれさ。だから、一刻も早く彼女を銃殺して、事件を解決に持っていきたいのさ」

「どうやって口を割らせましょうか……?」

「心配はいらない。まぁ、君はそこで見ていたまえ」

 そういうと、彼女は、後ろに立っていた部下に目配せをした。

 目配せをされた部下が扉の操作パネルを操作しはじめ、巨大な扉がゆっくりと開いていく。

 彼女は、扉に向かってゆっくりと歩き出した。

「あなたが直接!?何を考えていらっしゃるんですか!?危険ですよ!彼女は……」

 俺が叫び終わらないうちに彼女は独房へと入っていき、扉は閉まってしまった。

 大戦中、敵にモズと呼ばれ、恐れられていた連邦政府の軍人の彼女だけあって、あの笑顔の内側で、一体何を考えているのか分からない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ