居場所
私は、この世にいてはいけない人間。
ママに言われたことから考えると、そういう事になる。私には居場所なんてないんだ。
案内されたホテルのベッドの上で、私は蹲っている。とても静かで、ただ、シャワールームでナギがシャワーを浴びている音だけが聞こえる。
ふと横に視線をずらすと、小さなテーブルの上に、ナギの銃が無造作に置いてある。
私は、それに手を伸ばすと、それをそっと手に持ってみた。銃を持つのは初めてで、その重みがずっしりと手に伝わる。
「それで何をするんだ?」
声のする方へ振り向くと、ナギがシャワーを浴び終え、バスローブを着てじっと私を見つめていた。
「……」
私は、何も言わず、手にした銃を自分の顎の下に突き付けた。
全て終わらせてしまえば、楽になれる。私の居場所はあの世にしかない。
「その銃は、ダブルアクションだ。引き金を引くだけでいい。簡単だろ?」
そう言い放つナギの顔には表情が見えなく、アンドロイドみたいでどこか不気味だった。
私は、銃を持つ手の震えを抑えようと必死だったが、どうしても止まりそうになかった。
けど、こうするしかない。
私は、両目をぎゅっと瞑り、強く引き金を引いた。
銃の音がホテルの部屋中に響き、その低い音が、ズンと私の腹部にのしかかったようだった。
ゆっくりと目を開けると、ナギが、私の銃を持つ手を握っていて、銃の先は、私の顎から外れ、あさっての方向に向いていた。その先の壁には、弾の痕がついていて、そこから微かに煙が上がっている。
私は、死んでいなかった。
「私には、居場所がないの……」
両目から涙が溢れて、頬を伝った。
「居場所なんて、自分で切り拓くものだ」
ナギは、私から離れると、私の握っている銃を取り上げ、それをテーブルの上に置くと、溜息をつき、彼女が着ているバスローブの紐を解き、それを脱いだ。
私は、ナギの身体を見て、思わず目を背けた。彼女のへその下から下腹部にわたって大きな傷跡が残っていた。
「私には、子供を作ることができない。私の小さい頃の話だ」
ナギは、自分の裸を気にすることもしないで、そのまま話を続けた。
「私は、両親と姉との四人で暮らしていた。両親や姉の顔は覚えていない。その後、口減らしのために、私は、売春宿に養子に出された。これは、その時にできた傷さ」
ナギは、視線を一瞬だけ自分の下腹部に移すと、再び話を始めた。
「養子に出されてすぐに、私は、義理の両親にベッドに縛りつけられ、タオルを口に咬ませられると、切れ味の鈍い刃こぼれした錆びたナイフで腹を切り裂かれたんだ。売春相手の子供ができないように、私の子宮を潰すためさ。当然、麻酔なんてしない。私は、意識を失ったり、激痛で意識を取り戻したりしながら、耐えた。その後で私は、義理の両親を殺して、売春宿から逃げ出した。それからは、生きるのに必死だった。密輸、殺人、窃盗……生きる為なら何でもした。ある教会に拾われるまで、この世に自分の生きる居場所を切り拓くために必死だった。居場所なんて自分で切り拓くものさ」
ナギは、話終わると、バスローブを着て、ベッドに座っている私の隣に腰を下ろした。
「さっきも言ったが、私には子供ができない。もし、アンタに居場所ができなかったなら、私が母親になってやる。不器用だからいい親になれるかは分からないが、それまで必死に生きろ。いいな?」
ナギは、私の頭を優しく撫でた。
その時、部屋のドアがノックされた。
ナギは、テーブルに置いた銃を手にして、ドアの方へと向かい、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こうには、一人の年を取った男の人が杖をついて立って、優しそうな微笑みを浮かべていた。
ナギは、銃を向けることもせず、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。まるで何かに驚いているようだった。
「久しぶりじゃのう。ナギよ」
制作秘話②:マテバリボルバー
今作品では、ナギの愛銃として登場しています!
攻殻機動隊のトグサ、メタルギアソリッドVのオセロットの使用している銃でもあります!
マテバリボルバーは、ダブルアクション機構(撃鉄を起こさなくても撃てる仕組み)のリボルバーで、通常のダブルアクション機構のリボルバーと比べ、引き金が軽く、より連射に向いたリボルバーとなっています!
ナギにもってこいの銃ですね!!
また、互換性が高く、カスタマイズに向いたリボルバーです!!




