教会
バートンを担ぎ、レイナの手を引いてたどり着いたのは、教会だった。
高さは数十メートルほどあり、天窓のステンドグラスからは、もうとっくに高く昇っている日の光が赤や緑や青色の光になって広い教会の中を照らしていた。
「ここなら大丈夫だろう……この教会は、連邦政府ともSMPとも独立した組織によって運営されているんだ……」
バートンは、私に肩を担がれながら、肩を大きく上下させている。至る所に銃創があり、流れ出る血が私の手を滑らせ、危うくバートンの手を離しそうになる。
私は、ベンチ型の席にバートンを横たえさせると、内ポケットからマテバを取り出し、銃口をバートンに向ける。
「なぜ私たちを助けた?ふざけた返答をしたら殺すぞ」
「俺は、これ以上仲間を失いたくなかったんだ……いつでも先に死んでいくのはいいヤツばかりだ……怪我をしてナイチンゲイルに送られてくる兵士も、運よく完治しても前線へ帰って死んでいった。そんでこう思ったんだ。俺は、仲間を地獄へ送るために、こうして仲間の治療をしてるんじゃないか?って。今回の任務も、チェンバース准将が直接お前たちを処分するためのものだった……実際会ってみたら、お前たちはいいヤツだったじゃないか……俺のやってることは間違っているんだ」
バートンは、懺悔するように、ステンドグラスに照らされてカラフルに輝いている大きなパイプオルガンを見つめていた。
レイナは、私の袖をぎゅっと掴み、小さく震えていた。その震えは、まるで銃を手にしている私に怯えているようでもあり、母親から向けられた銃口、連邦政府軍のチンピラを殺した私のマテバ、銃そのものに嫌悪し、怯えているようにも感じられた。
「罪の告白をするなら神父さんにでもするんだな」
私は、舌打ちをし、マテバをコートにしまった。
そのとき、目の前の大きな扉が開いた。
扉の先には、修道服を身にまとった少女が立っており、後ろには、教会に似合わないアサルトライフル型のブラスターを抱えた兵士が、5人程控えていた。装備は、連邦政府軍やSMPのものとは異なっている。
「議長……」
振り向くと、バートンが傷口を抑えながら上体を起こし、少女の方を見つめていた。
「ご苦労様です。ジットウイルスはどうしましたか?」
少女は、バートンの状態を目にしながらも、表情筋をピクリとも動かさずに教会の中へ入ってきた。
「SMPの介入があり……入手できませんでした……」
「私は、ジットウイルスを入手しろと命令したはずですが?このお二人はどなたですか?」
少女は、私と、袖を離さないレイナの方へ目をやる。その灰色の目は、冷たい光を放っていて、まるで銃口をイメージさせ、私は、銃口を向けられているような恐怖感を感じ、思わず身震いした。
「二人とも、祝福された人間です。栗色の毛をしたのがナギ・ブラウン。少女の方はレイナです……」
「バートンの手当てをしてあげなさい。それと、お二人を部屋に案内してあげなさい。ここでは寒いでしょう」
少女が手を叩くと、兵士は、ブラスターを背負うと、3人掛でバートンを担いでいった。
「こちらへ」
残りの二人の兵士は、私たちを案内するようだった。
私とレイナは、兵士の後へとついていった。




