詮索
「ナイチンゲイルの駐屯地の制圧、完了しました。殺害目標のルカ・チェンバースは消息不明。確保目標のナギ・ブラウン、レイナ・チェンバース両名は、作戦エリアから脱出した模様です」
俺は、端末を耳にあて、作戦完了の報告をしながら、ナイチンゲイルの駐屯地の門を見つめる。
鉄でできた巨大な門は、爆発によりいびつな形に歪んで開いていて、そこからSMPの隊員を乗せたジープや装甲車、機甲歩兵までもが次々に敷地内に入っていく。
「ご苦労!ところで、例の目標は確保できたかね?」
端末から聞こえてくる女性の声は、明るい声であり、赤いベレー帽を被りながら、いつもの笑みを浮かべているのは想像に難くない。
「ええ、確保しています」
俺は、大きな門から視線を手元に移し、右手に持っているアタッシュケースに視線を移す。
ケースは、見たところ厳重なもので、小さなテンキーがついている所を見ると、どうやら電子制御によってロックしてあるようで、テンキーの上には、バイオハザードマークのシールが貼られているのが目につく。
中身の詳細については知らされていないが、恐らく中身はジットウイルスで間違いないだろう。
ロレンツ中将によるナギの尋問のあと、俺は、独自の調査でジットウイルスというウイルスにたどり着いた。ジットウイルスは、核に代わる戦略兵器として、旧皇国軍の特殊医務部隊ナイチンゲイルによって秘密裏に開発が進められていたもので、連邦政府に接収されたナイチンゲイルは、開発したウイルスを全て破棄したことになっていたが、それ以上の情報は得ることができなかった。
調べれば調べるほど謎が深まるばかりだ。なぜ全て破棄されたはずのジットウイルスが存在しているのか?ロレンツ中将はウイルスを手に入れて何をしようとしているのか……?
「ウェンスキー中尉」
端末から俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、俺は、思考から現実に引き戻される。
「何でしょうか?」
「余計な詮索はやめたまえ。君は私のもとにそれを持ってくるだけでいいのだよ。私は君を殺したくはない」
端末から聞こえる声は、明るいままであったが、背中にナイフを突きつけられるような悪寒に襲われる。
「わかりました……今からそちらに向かいます……」
俺は、端末から耳を離し、通話を切ると、コートのポケットに端末を突っ込み、傍らに停めてあった戦闘指揮車両の後部座席に乗りこむ。
「本部まで頼む」
俺は、運転席と助手席の間から顔を出し、運転手にそう指示を出した。




