再開
バートンに案内された部屋には、連邦政府軍の制服を着た若い女性、恐らく私より少し年上で、ユウキと同じ年齢と思われる女性が、机の向こうに座ってこちらをじっと見つめている。その瞳は、深い青色をしていて、不気味なほどに澄み切っていた。
女性は、長い金髪を後ろで束ねると、立ち上がり、こちらへとゆっくりと向かってきた。
この女性がレイナの母親だというのだろうか?それにしてはあまりにも若い気がする。
「ママ!」
レイナは、私の手を繋いでいた手を解くと、女性の方へと寄っていった。
女性は、レイナの肩に手を置き、優しく頭をなでているが、その手は微かに震えていて、女性の瞳はどこか寂しげに輝いている。
「彼女が、ルカ・チェンバース准将。レイナの母親だ」
隣に立っていたバートンの方を振り向くと、彼は目を私やレイナから逸らしている。
「ママ……?どうして……?やめて!!」
レイナの叫びに振り向くと、チェンバースは、ブラスターの銃口をレイナに向けており、レイナは、後ずさりをしながら私の方へ逃げ寄ると、私のトレンチコートの裾を必死に握っていた。
私は、咄嗟にマテバを抜き出そうとしたが、側頭部に銃口を突き付けられる。視線だけ横にやると、隣にいたバートンがブラスターを突き付けている。
「悪いな……これも命令なんだ」
バートンは、ぼそっとそう呟いた。
「ママ……あのね、ママにもらった種、ちゃんと育ってるんだよ……まだ花は咲いていないけど、頑張って育ててるの……」
レイナは、コートの裾から手を放すと、片手で抱えていた鉢植えをチェンバースに見せる。
「ごめんなさい……」
チェンバースのブラスターを握る手が震える。
「x塩基を遺伝子に組み込むウイルス、ジットウイルスは、核に代わる戦略兵器として開発されたもの。組み込まれたx塩基は、身体に強力な自己治癒能力を与え、その他にも、様々な能力を発現させるの。ジットウイルスによって能力が発現した人間を、ジッターと呼ぶの。そのウイルスを、治療を目的として最初に投与されたのが、オリジナル。ナギ・ブラウン、あなたのことよ。あなたの負傷は、酷く、まず助からない程だった。ナイチンゲイルは、開発していたジットウイルスを、試験的に投与したの。あなたは完全に回復して、x塩基を得た。あなたの集中力、動体視力はx塩基によるもの。弾道を予測して避けることや、精密で素早い射撃もできるはずよ。そのx塩基を組み込んで私が創り出したのがレイナ、あなたよ。私は、x塩基をこの世から完全に消し去らなければならない。私は、あなた達を殺すしかないの……」
チェンバースの目から、一筋、光るものが頬を伝った。
「こんなのよくないよ!!ママは私のこと大切にしてくれてたのに……なんで……?どうして……?」
レイナの小さい肩は震えていた。その震えが、恐怖によるものではなく、悲しみによるものであるのは、誰から見ても分かる。彼女の涙を流し続けるその目は、まっすぐにチェンバースに向いていて、必死にその感情をぶつけているのだった。
「ごめんなさい……こうするしかないの……」
チェンバースは、ブラスターの銃口を下げようとしない。
その時だった。
「伏せろ!!」
バートンは、大きな両腕で、私とレイナを抱え込むと庇うようにして、地面に伏せた。
その瞬間、爆発音が耳をつんざく。
「突入!!」
掛け声とともに、炸裂音がすると、部屋中に白い煙が充満するのがバートンの太い腕の間から見える。スモークグレネードだ。
自動小銃型のブラスターだろうか、レーザーを発砲する連射音が絶え間なく響く。
「こっちだ!急げ!!」
バートンは、起き上がると、私の手を引く。
「ママ!!ママ!!」
私の反対側で、バートンの太い腕で抱えられているレイナは、必死に叫んでいる。
私は、バートンに手を引かれるまま、レーザーが飛び交う中を駆け抜けていった。




