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マテリアルスフィア  作者: アスタリスフィア
1/5

ロストワールド

ーー

『ヤメローーーー!!何故だ?何でこんな事をするんだ?!

解らない!解らないよ!○○○○』


『そんな筈はないさ、受け入れがたい現実に初めて邂逅しているが故の拒絶反応で、この意義も意味も理解してはいるのだろう?』


『だけど、あんたはいつも、もっと皆が正しいと思える道を選び取っていたじゃないか!!』


『やはり、解っているじゃないか。であれば何故なのか、もっと深くまで、深遠に触れに来い!どんな理不尽も、力がなければ抗う術はないことも、良く理解しているはずだ。』


『ざっけんな!!どんなに力を磨いても、あんたに対してだけは、永劫かなう筈がないだろう!!!』

ーーー


ぶっ、まるで不鮮明な動画のような幕引きで、現実に引き戻されていく。


「ふぁぁーぁ...」


寝惚け眼で、猫のように延びをしながら欠伸をして目を覚ます。

最近は、変な夢をよく視る。

不眠症ぎみだからだろうか?

中二病を拗らせすぎているとか?

昔から、漫画やアニメ、ゲームが大好きで、

今でも三度の飯よりも、優先してしばしば夢想に更ける。

社会人として、節度をもって生活していくことが窮屈で仕方がない。

そんな願望を夢で形にしているのだろうか?

よくある予知夢ネタ、なんてある筈もなく、平々凡々とした人生だと思う。

だけど、自分の考え方や人生観は異質で、

どの人とも共感してもらえる気はしない。

それでも世界は、

それが望む生を全うしない人種に対して、

排他的であることは少なからずあるように思う。

どの個人も、あてもない居場所探しに奔走して、

満たされず生を終えることが普通なのかもしれない。

だから、ありもしないだろう世界に魅了され続ける。

自分もそうだが、

今後もそういう人種は増え続けるように感じる。

それでも否応なく、

目を覚ました先の現実をこなし続けていかねばならない。


てんてんてれんてんてんてん、てんてんてれんてんてんてん・・・・・


スマートフォンのアラームの機能が思考を遮る


「ふぅ、もうそんな時間か」


虚しく独り言を洩らす。


いつからだろう、

頭の悪い思考にとり憑かれ、周りに馴染めなく感じ続けているのは…


もう自分の人生のピークは過ぎ、惰性のように死に転がり続けているだけと、決めつけているのは…


《本日未明XXXにてXXXのXXXが発見されました。

XX県警では、身元の特定を急ぎ、事件事故の両方を視野に入れて捜査を進めるとのことです。

続いてのニュースです……》



今日も悲報が告げられる。

無論、現実も辛いことだけではないことも理解はしている。

理解とは裏腹に、

負の感情に囚われてしまいがちで、

生に執着を無くしそうになる。

愚かな情念に絡め取られては、

必死で抜け出す事の繰り返しで、前が霞む。

そういった、現実から逃避することでしか、

己を保てない自分に、何時も憤りを禁じ得ない。

あまねく人類の安寧を、

願い祈り続けているだけでは救えない事実を理解せず、

偽りの平穏を貪り続けている。

それが、今この世界における真実。


《XXさん、本日のお天気は如何ですか?》

《本日は例年以上の酷暑日で、各地で観測史上初の記録的な気温を計測しています》


ニュースから流れる何気ない天気予報を聞き流しながら、

身支度を整え。 


「さぁ、今日も行くか」


何気無く口に出した。

まるで自身を鼓舞するように...


ガチャ

無機質な音色のみしか響かない空間が、

主の生活圏の孤毒を湛えているようだった。


今日も、カラッとした晴天、

時期は猛暑真っ只中の8月中旬。

私は夏が嫌いだ。

照りつける殺人光線は、

一部の陽気な人々を歓喜に誘う。

反吐が出るほどの陽気は、諸刃の刃でしかないと思う。

こんなに陽影が残酷なまでに色濃く、

身勝手な劣等感を浮き彫りにする。

乾ききった心が、歩みを鈍らせる………


「あれっ?とと………」


道半ば、眩暈を覚え昏倒しかけそうになる。


「水分を摂らないと…………」


この時期に必須のスポーツドリンクに手を伸ばす、が

所謂、熱中症は症状が出てからではかなり危険と、

聞き齧ったことがある。

手が震え異常なまで高まった体温。

典型的な熱中症だった。

徐々に刈り取られる意識は、

深く、深く堕ちていく…………






――――


『お母さん、お母さん、目を覚ましてよ!!

もう、朝だよ!!どうしてお母さんは起きないの??』


『お袋が?!嘘だろ!!昨日まであんなに元気だったのに!!』


『ママ、どうしたの早くいこうよ!皆待ってるよ!

急がないと無くなっちゃうよ!!』

…………


ーーーーー


幾つもの映像が再製されていく、

なんだろうこれは………

そうか、幼心に想像した母の死のイメージだ。

いつからだろう、自分が辛いことを想像し尽くせば、

あらゆる死も乗り越えていけるなんて、

愚かな思考に支配されていたのは………




















この晴れた夏の茹だるような陽気は、

甘い体調管理では抗いきれない灼熱地獄の様相を呈していて

連日のように搬送されてくる患者数は

当院の病床キャパを超えようとしていた

例年と比較しても異様な光景だった

対応に追われ

端を発するであろう要因に巡らせられる暇など

この場には誰も存在し得なかった



ー『バイタルxx、意識レベルx、異常な高体温なので、

緒症状を診ても熱痙攣の恐れあり、

救急治療室まで処置に要する一式をお願いします!』ー



救急隊員から、救急救命医にインカムで緊急連絡が伝えられる。


先程から、バタバタと騒然としている病院内の、

この異変に、普段とは異なる感覚に戸惑っている者が、

異様な行動をしていた。



《本日未明XXXにてXXXのXXXが発見されました。

XX県警では、身元の特定を急ぎ、事件事故の両方を視野に入れて捜査を進めるとのことです。

続いてのニュースです……》


《XXさん、本日のお天気は如何ですか?》

《本日は例年以上の酷暑日で、各地で観測史上初の記録的な気温を計測しています》


院内の出入口にある大ホールに備え付けられている、

各テレビから様々なニュースが報じられている。




私がこの大病院に看護士として勤めて3年目。

ここまで未曾有の惨状は初めての光景でした。

この世に生をうけ、

看護学校を卒業して今に至るまで、

人類史における危急存亡の歴史に、

思いを馳せた事なんて無かったかもしれない。

今まで学んできた事なんて役に立たないくらいの、

無力感に打ちひしがれる未来を想像してこなかった。



─『さん、今、救急搬送された患者さんが危険な状態なの。

人手が足りないからサポートに入ってください!!』─


─『わかりました!すぐにいきます!』─



思考を遮るエマジェンシーコールで、

現実に引き戻された。














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