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【番外編スタート!】超絶美少女と同居することになったけれど、恋愛恐怖症の俺はきっと大丈夫  作者: 丸深まろやか


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043 健気・ムカつく・好きすぎて


「……はぁ」


 自分の溜め息が夜空に吸い込まれていく。

 身体に力が入らないのは、部活で疲れたせいなのか、それとも最近の恋愛情勢のせいなのか。

 その考えを振り払うように、望月絢音は軽く首を振った。


 何を隠そう、絢音の恋路はうまくいっていなかった。

 しかも、最近は特にそれが顕著だ。反して、想いは強くなるばかり。

 正直なところ、最近の絢音はかなり、参っていた。


 部活終了時間ということもあり、校門付近にはそれなりに生徒が多くいた。

 今日は部活仲間たちと一緒に帰る気にもなれず、絢音はしばらく、ぼんやりと校門に立ち尽くしていた。


「よっ、望月」

「あ……渉くん」


 声を掛けてきたのは、同じく部活を終えた渉だった。

 絢音の負のオーラを物ともせずに話しかけてくるところは、渉の良いところだ。

 彼は、本当に話しかけて欲しくない時には、きっとそうしない。

 逆に言えば、絢音は今、話しかけて欲しそうに見えた、ということだ。


「今日もネガティブモードか?」

「……都波さんと言い渉くんと言い、なんなのよ、それ」

「そのままの意味だよ。主に恋愛に関して」

「……やっぱり、そう見える?」

「見えるね」

「……はぁ」

「それはきっと、溜め息のせいだよ!」


 ダンっ! と足を踏み鳴らして、椎葉るりが突然現れた。

 まあ、渉がいるならるりもいる、と考えるのが、この時間では妥当だろうけれど。


「絢音ちゃんには笑顔が足りないよ! 絢音ちゃん、いつも可愛いけど、笑ったらもっと可愛いんだから、笑顔だよ!」

「……ありがとう、るり」

「暗い!」


 るりはあははと気楽そうに笑った。


 笑顔。

 たしかに言われてみれば、近頃は心の底から笑う、ということがあまりなかった。

 それどころか、恋路の行方ばかり考えてテンションの低い日々を送っている。

 ネガティブモードと言われるのも無理はないかもしれなかった。


「絢音ちゃんも帰ろ! 相談に乗るぜ!」

「う、うん」


 渉とるり、二人に挟まれるように、絢音は歩き出した。


「ハンバーガー食べよ! ハンバーガー!」

「えぇ……私、あんまり食欲」

「いいからいいから! 食べて愚痴って、元気だそ!」


 るりに押し切られる形で、絢音はゆっくり頷いた。

 気乗りはしないが、元気が出ないままというのも良くはない。

 絢音たちは駅前のハンバーガー屋に向けて方向を変え、るりの陽気な話を聞きながら、夜道を歩いた。



   ◆ ◆ ◆



「そもそも! 遥は鈍感すぎるのよ! 中学の修学旅行のあれで気づいてよね! あーっ! ムカつく!」


 絢音は、ハンバーガー屋の一席で控えめに叫んだ。


 話せ話せと促してきたるりに思い切って愚痴や不安を口にしているうちに、だんだんと元気が出てきていたのである。

 思えば、雪季が現れてから自分の恋愛について友達に愚痴を言うのは、以前の食堂で渉にそうした時以来かもしれない。


「よっ! いいね絢音ちゃん! もっと言ってやれー!」

「修学旅行で何があったんだ?」

「あっ! それは私も気になる!」

「いいわ、話してあげるわよ! 中学の修学旅行の夜、私、遥にプレゼントしたのよ! わざわざホテルで呼び出して! ちょっと高いシャーペン!」

「おーっ!」

「へぇ、それで?」

「でも、遥は私の気持ちになんて全然気付かないで、『ありがとう! 一緒に受験頑張ろうな!』だって! たしかにそのつもりで渡したけど! ちょっとくらい気づいてくれもいいじゃない!」

「うーん、月島くんらしいねぇ」

「まあ、あいつは気づかないだろうなぁ」

「何かお返しとかくれたの?」

「……ホテルの売店で、これ、買ってくれた」


 言いながら、絢音はカバンに付けていたキーホルダーを二人に見せた。

 マヌケな顔をした猫の、ご当地色の薄いキーホルダーだ。

 可愛いと思って買おうか迷っていたものを、遥が買ってくれたのである。

 その時からずっと、絢音はこのキーホルダーを付け続けていた。


「うわぁ、絢音ちゃん乙女~」

「健気だなぁ、望月」

「い、いいでしょべつに!」

「でも、月島くんもちゃんとお返ししてくれてるんだね」

「……優しいから、あいつ」

「うんうん、そういうところが好きなんだよね?」

「……まぁ、そうよ」

「おーーっ!」

「ち、ちょっと! 茶化さないでよね!」

「ごめんごめん! だって、可愛いんだもん絢音ちゃん」

「そういうところをもっと、あいつに見せればいいのに」

「む、無茶言わないでよ! できるわけないでしょ!」

「でも、それくらいしないと雪季ちゃんに追いつけないかもよ?」

「うっ……雪季……」


 遥に甘える雪季の姿が浮かび、絢音はガクッと肩を落とした。

 自分もあんな風に、遥に好意を伝えられたらどんなに楽だろう。

 想いを寄せている期間は何倍も長いのに、今やずいぶん、出遅れてしまった。


「なんか、ますます仲良くなってるみたいだしね」

「ああ、なんかそんなこと言ってたな。恋愛恐怖症が知れてどうなるかと思ってたが」

「逆に距離縮まっちゃったっぽいよ?」

「あーもう! その話はやめて! ヘコむから!」

「はいはい、ごめんね。じゃあ、もっと楽しい話しよ! 嬉しかったこと! 月島くん関係で!」

「えぇ……いきなり言われても……」

「そう言えば、勉強会の時はいい感じだったじゃないか。どうだったんだ?」

「う、うん……。でも、あんまり上手く話せなくて……」

「どうして? 緊張?」

「……笑わないでよ?」

「はい」

「おう」

「……もう、なんか、好きすぎて……」

「……」

「……」

「隣だと匂いするし……顔も近いし……たまに肩が当たったりして……」

「……」

「……」

「それに、なんだか前よりカッコ良く見える気もするし……雪季のせいかもしれないけど、距離感も近くなった気がして……心臓が……」


 そこまで言ってから、絢音はハッとして二人を見た。

 るりと渉は下を向き、プルプルと肩を震わせている。


「……渉くん、私もうダメだ」

「……俺も」

「ちょっと! 笑わない約束でしょ!」

「ち、違うよ! 絢音ちゃんがあんまり可愛いから、ニヤけてたんだよぉ!」

「ううん……やっぱりそっちのキャラで行った方がいいんじゃないか?」

「や、やめてよ! 私は真面目なのに!」

「いや、真面目だって、俺たちも」

「うんうん。月島くんもドキッとすると思うよ」

「えっ……そう?」

「うん! ね、渉くん?」

「少なくとも、今よりは効果あるだろうなあ」


 つまり、恥ずかしくても気まずくても、好意を露わにしてみる、ということだろう。

 まあたしかに、自分は気持ちを隠しすぎている。

 遥が気づかないのも、半分は自分のせいかもしれなかった。

 その点雪季は、自分とは全く違う。


「……わかった、やってみる」

「おーーっ!」

「盛り上がってきたなあ」


 うまくできるかは分からないが、現状を打破するためには何かを変えなければならない。

 絢音はグッと拳を握りしめ、決意を固めた。


「じゃあとりあえず、テストの後に何か誘おうよ!」

「えっ! それはまだ……早いんじゃないかしら……」

「ヘタレだなあ、望月」

「なっ、なによ!」


 人はすぐには変われない。

 なのに、人間関係はいとも簡単に変わってしまう。

 そしてこと恋愛に関しては、それはいっそう顕著なのであった。


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