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【番外編スタート!】超絶美少女と同居することになったけれど、恋愛恐怖症の俺はきっと大丈夫  作者: 丸深まろやか


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021 下着・作戦・つけてない


 絢音を見送ったあと、雪季がお風呂から上がるのを待ちながら、遥はバイト先に連絡を入れた。


 風邪を引き、それがまだ治りきっていないということ。

 それから、明日のバイトをできれば休みたいということを伝えると、幸いにもあっさりとOKが出た。

 申し訳なく思いながらも、とにかくこれで一安心だ。

 明日は一日中回復に努めよう。


「ただいま」

「あぁ、おかえり」


 戻ってきたパジャマ姿の雪季を迎えると、雪季は火照った顔で遥に近づいてきた。

 反射的にサッと身をかわすと、案の定抱きついてきた雪季はターゲットを失って腕を空振った。


「ん、避けた」

「ええ避けましたとも。やっぱりくっつくの禁止!」

「なんで」

「おかしいからだよ!」


 遥の渾身のツッコミに、雪季は頬をぷくっと膨らませた。

 大変に不服そうだ。


「俺が絢音に怒られるの!」

「ん、絢音は関係ない」

「関係ないけども! でも普通くっつかないんだよ!」

「むぅ」


 実のところ、最近は雪季に抱きつかれることへの抵抗が無くなって来ているのを遥は感じていた。

 さすがにこのままではマズい。

 そろそろけじめをつけておかなければ。


 雪季は拗ねたように遥のベッドに横になると、壁の方を向いて黙り込んでしまった。

 いつもならここで慌ててしまうが、今日は意志を強く持つと決めている。


「じゃあ、俺も風呂行くから」


 返事はない。

 気にせず、着替えとタオルを揃えて風呂場に入った。

 湯船につかり、シャワーを浴びて、着替えて髪を乾かす。

 合わせて20分ほどでリビングに戻ると、雪季はまだベッドに寝そべっていた。


 機嫌を損ねてしまっただろうか。

 せっかく看病してくれたのに、悪いことをしたかもしれない。

 頭に浮かんだその考えを、遥は首を振ってかき消した。

 ダメだダメだ。そうやって隙を見せれば、そこに付け込まれてしまう。


 遥は何とは無しにテレビをつけ、ベッドに腰掛けた。

 見るでもなく画面を眺めながら、後ろで横になっている雪季に意識を向ける。

 雪季は微動だにせず、沈黙を守っていた。


「……ゆ、雪季?」

「……」

「お、怒ったのか?」

「……」

「お、おい……」


 依然として返事はなかった。

 身体を捻って雪季の方を見ても、雪季はちょうど顔が見えないくらいの角度を向いていた。


(もしこれで喧嘩みたいになったら嫌だなぁ……)


 遥は一気に不安になってしまった。

 自分の意志の弱さを痛感する。


「ゆ、雪季ー? 機嫌直してくれよ……」


 とうとう観念して、遥は顔を覗き込むように雪季に近づいた。


「雪季? ごめ」

「隙あり」

「うおっ!」


 雪季はそう言って、突然身体を回転させた。

 そのまま両腕を伸ばし、遥の脇に腕を回してくる。

 しがみつかれるように抱きしめられ、遥はそのまま雪季の方に倒れ込んだ。


「こ、こら! 雪季! 騙したな!」

「未熟者」

「くそぉ! 離せ離せ!」


 手足をジタバタさせるが、がっしりしがみついた雪季は一向に離れる気配を見せなかった。

 雪季の体温と柔らかさが、パジャマ越しに伝わってくる。

 お腹のあたりに特に柔らかい「ふよん」という感触を受けて、遥はますます激しくもがいた。


「ひっ、卑怯だぞ雪季!」

「ん、作戦。そして油断」

「かっこいいこと言うな!」


 しばらく格闘を続けるも、ついに雪季を引き剥がすことは叶わなかった。

 だらんと脱力し、遥はぼーっと横たわっていた。


「……雪季、なんでそんなにくっつきたがるんだよ……」

「ん、好きだから」

「……好きだとくっつきたくなるのか?」

「ん、当然」

「当然なのか、それ……」


 遥にはよく分からない感覚だった。

 人肌を感じると心が落ち着くというのは、なんとなくだが理解できる。

 しかし遥にとってのそれは、両親に触れられた時の安心感に近いようなものだ。


「遥」


 胸から顔を離して、雪季は上目遣いに遥の目を見つめてきた。

 無表情で凛々しいが、可愛らしさと穏やかさも兼ね備えている。

 やはり美少女だ。ほんのり赤い頬が魅力を倍増させていると言っても過言ではない。


「な、なんだよ」

「……好き」

「……はい、わかりました」

「わかった?」

「ああ、よぉくわかった。だからもう好きって言うの禁止」

「やだ」

「禁止だ!」

「すーきー!」


 何してるんだ一体。

 遥は我ながら呆れ果てた。

 いつもこんなことを繰り返している気がする。

 まるで進歩がない。先が思いやられるとはこのことだった。


 自分の胸の中でふりふりと身体を揺らす雪季を見ながら、遥はため息をついた。

 また柔らかい感触がくる。

 そこで、遥は重要なことに思い至った。

 確認するべきだろうか。

 しないべきかもしれない。

 しかし、しなければならない気もする。


 遥は意を決した。


「……雪季、お前、パジャマの下……」

「……ん」

「下着……つけてるよな?」

「……つけてない」

「おいっ!?」


(どおりでやけに柔らかかったわけだ!)


 遥は冷や汗を流しながら雪季の肩を掴み、無理やり雪季を引き剥がした。


「んー!」

「このバカ雪季! 下着くらいつけろ!」

「ん、パンツは履いてる」

「当たり前だ!!」


 とんでもないやつだ。

 さすがにこれは看過できない。

 遥は逃げるようにベッドから立ち上がり、雪季から距離を取った。


「もう許さん! 触るのも禁止だ!」

「やだ」

「こら! ジリジリこっちに来るな!」

「行く」

「じゃあ下着つけろ!」

「……むぅ」

「そしてくっつくのも禁止だ!」

「それはやだ」

「じゃあ下着はつけろ!」

「それもやだ」


 あーだこーだ言い争い続け、その夜は更けていった。

 何度も大きな声を出しながら、遥は思っていた。


(あ、これ、絶対風邪治ってるわ)

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