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GOSTARS  作者: わらびもち
6/12

第6話「説明しよう!」

閲覧ありがとうございます!

いつもより長めですがよろしくお願いします。



「ようこそ、ボクの世界へ!」



少年は日向に向かって笑いかける。日向は唖然(あぜん)としながらも、少年の身なりを見渡した。



背の高さは日向より頭2つ分ほど小さく、丸い瞳は金色とも黄色とも取れない不思議な光沢をしているが、右目は長い銀髪で隠されている。



耳と目が付いた真っ白なフード付きの大きな服を身にまとい、胸元に大きな青いリボンが付いたその見た目はてるてる坊主を連想させた。



(この子が、お母さんとエレクさんが言っていた閻魔……じゃあここは、死後の世界……?)



「ううん、ここは正確に言うと本当の霊界じゃないよ!コウルが一時的に見せてるニセモノの霊界なんだ!キミが今見ているボクも幻覚みたいなものだけど……生きてるキミは霊界には来れないから仕方ないよねー」



日向が心の中で呟いた言葉に対して閻魔が返答し、考えていたことが口に出ていたのかと日向は慌てて口を手で押さえると少年は「ボクが勝手に読んだだけだよ」と楽しげに笑った。



少年は日向にくるりと背を向けて階段をぴょんぴょんと登り、元々座っていた大きな椅子に腰掛けて日向とエレクを見下ろす。




「じゃー改めて!ボクは閻魔。人間の言う『あの世』で1番えらーい人だよ!って言っても、堅苦しいのは嫌いだから気軽に呼んでね!」



「は、はあ……あの、私をここに呼んだのって……?」



張り付けたような笑みを崩すことなく、ひょうひょうとした様子で話す閻魔に日向は戸惑いながら問いかけた。



「うん、ボクから説明したくて呼んだんだ!エレクから聞いてるだろうけど、これからキミには色々な場所をまわって、今回みたいに浮遊霊を霊界に送る仕事をしてもらうよ!期限はキミが20歳になるまで。もちろん、学校とか普段の生活を優先していいから安心してね!」



「色々な場所……?この町以外も、ですか……?」



日向がさらに疑問を投げる。

エレクの仕事を手伝いたい気持ちはあるが、その範囲にも限界はある。学校に通いながらとなると、そこまで遠くに足を運ぶのは難しいのではないかと考えたのだ。



「もちろん、全国!でも大丈夫だよ、キミのスマホにもエレクのと同じ機能が付いたアプリを入れたから!それを使えば指定した場所にすぐ移動出来るからねー」



日向が自分のスマホを確認すると、画面の端にいつの間にか入れた覚えのないアイコンが追加されていた。タップすると見慣れないマークが並んでおり、ひとまず後でエレクに使い方を尋ねることにした。



閻魔がエレクに視線を向ける。



「エレクにはこれまで通り、各地を回って悪霊を消滅してもらうね!今いる町には今のとこ悪霊はいないから日向ちゃんとは別行動になるけど、浮遊霊を見つけたら日向ちゃんと協力して霊界に送ってもらうよ」



「分かった!」



エレクは力強く頷いた。



「それから、今回は初めてだったから様子を見せてもらったけど、あとは基本的に2人に任せるねー。ボクも遊び……ゴホン、他の仕事があるからさ!」



閻魔はひらひらと袖を振りながら楽しそうに話をしていたが、コウルの鋭い視線に気付き、咳払いをして後半の言葉を(にご)した。



「あっそうだ!キミの持つ能力についても教えなきゃね!知ってると思うけどキミは霊視の他に、自分の意思で体と魂を一時的に離すことが出来る。幽霊が普通の人間の体に入ると2つの魂がケンカして暴走しちゃうんだけど、キミの場合はからっぽの器として体を貸せるって訳だね!」



「へー、すげー便利だな」



閻魔の説明を聞いて感心した様子でエレクが声を()らす。



「ただし!あくまで器の持ち主は日向ちゃんだから、長時間離れることも距離を離すことも出来ないよ!イメージ的には、糸で体と魂が繋がってる感じかな?だからそれが切れるとキミは即死するって訳だね!


それから、今回はすんなり体を返してもらってたけど、中には借りたまま返したがらない霊もいるからむやみに使っちゃダメだよー。キミが死んだらまた代わりの子を探さな……ああいや、ボク悲しいしさ!」



「わ……分かりました……」



笑顔を一切崩すことなく紡がれる物騒な言葉に日向の顔がひきつる。だが、自分の持っているこの力は危険と隣り合わせであることは日向自身も分かっていた。

まだ幼かった頃にたまたま自分の能力を知り、母の香織から「それは絶対に誰にも言っちゃダメ」ときつく言われていたのだ。



「よしっボクからはこれでおしまい!キミから質問はある?ボクに会えることもう無いかもだし、なんでも聞いていーよ!」



ぱん、と両手を合わせ閻魔が日向に問いかける。



「……えっと……1つ、知りたいことがあって……」



「うん!何かな何かな?」



遠慮がちな日向に対して、閻魔が期待に満ちた表情で続きを(うなが)す。

日向はおずおずと閻魔を見上げ口を開いた。



「……人の手で、除霊された幽霊って……消滅、してしまうんでしょうか」



閻魔はその質問が来ることを最初から分かっていたかのように薄く笑みを浮かべたあと、腕を組み芝居(しばい)がかったような考え込む仕草をする。



「んー、場合にもよるかな?追い払うだけのものとか悪霊に変化させるものとか、かなり(まれ)だけど消滅させるものまで、除霊にも色々あるからねー!……キミが知りたいのは、8年前のことでしょ?」



「!」



日向が目を見開く。



「香織……キミのお母さんも、キミと同じ仕事をしてたのは聞いてるよね?その時に少し話を聞いたんだ!だから詳しくは知らないよー」



「なあ俺、さっきから着いていけてねぇんだけど、今の話って昨日初めて会った時に“もう幽霊とは関わらない”って言ってたのと関係あるのか?俺それがずっと気になっててさ」



今までずっと黙って話を聞いていたエレクが口を開いた。



「あぁそっか!エレクはまだ知らないんだね。じゃあ日向ちゃん!あの時の話、今ボクとエレクに話すのはどう?そうすればボク、キミが知りたがってることに答えられると思うし、エレクに隠す必要もないしさ!いいよね、コウル?」



「どうでもいい。話すならとっとと話せ」



冷めた口調でコウルが返す。



「だって!さ、聞かせて!キミの昔話!」



「わ、分かりました……」



三人からの視線を受けて日向は(おび)えたように首をすくめた後に深く息を吐き、胸の内をそっと打ち明け始めた。




♢ ◆ ♢




私は、生まれた時から幽霊が見えていて、それが人と違うことだと感じていませんでした。



あの時は母にも見えていたから、見えることが普通だと思っていたんです。




でも、小学生になってから……それが“異常”なことだと段々知り始めました。




「なー、こいつユーレイが見えるんだってさ!!」



「えー!ひなたちゃん変なのー!」



「変じゃないもん!!ここにいるのに何でみんな見えないの?」



「何もいねーじゃん!気持ちわりー、俺らだけで遊ぼーぜ!!」




「……行っちゃった」



『日向ちゃん、里香(りか)は日向ちゃんにしか見えないからしかたないよ』



「……だったら、ずっと里香たちとあそぶ!みんなといるよりその方がいい!」




私は段々、クラスの人達より幽霊の友達と遊ぶことが多くなりました。

自分だけに見える、秘密の友達。きっとあの頃の私にとって、その関係が楽しかったんだと思います。




でも、父はそれをよく思いませんでした。




「日向。いい加減くだらない嘘をつくのはやめなさい」



「ウソじゃないもん!!なんでいつも信じてくれないの?お父さん!」



「はぁ……。仮に、幽霊がいるとして。それは化け物だ。一緒に遊ぶなんて正気じゃない。もう関わるな」



「やだ!お外行ってくる!!」



「……まったく、どうにかしないといけないな……」



幽霊が見えなくて非科学的なものを一切信じない父は、私に何度も忠告をしてきました。話を聞いてくれたのは母だけでした。



「日向。お母さんはね、幽霊の子達と関わるのが全部悪いこととは思ってないよ。ただ……お母さんと日向が“見える”こと、他の人には内緒にしよっか。それから学校のお友達とも仲良くすること、約束できる?」



「うん……」



それからは人目を避けて、家の中で里香たちと遊ぶようにしました。

もちろん父のいない時に。それでも父は何か勘づいたのか、私と母の知らないところで知り合いをあたって除霊の依頼を頼んでいたんです。



ある日、里香に先に家で待っているように言っていつものように帰ると……父と、妙な道具を持った知らない女性と、苦しげに息をしながら横たわっている里香がいました。



「何、してるの……!?」



「化け物を消してもらっているんだ。邪魔にならないようにあっちに行っていなさい!」



『いたい、くるしいよ……私、何もしてないのにっ……!!』



あの時の里香の声は、父はもちろん女性にも全く届いていないようでした。きっと、除霊が出来るだけで姿や声までは分からなかったんだと思います。



『ひなたちゃん、たすけて、おねがい……っ!』



里香はかすれ声で私の名前を呼んで必死に手を伸ばしてきました。



でも、私は動けなかった。目の前の里香の体がどんどん黒いモヤになって消えていくのに、私は恐怖で息をするのもやっとで、声もまともに出せずにただ呆然(ぼうぜん)と見ていることしか出来ませんでした。



『……ひ、なたちゃ……どうして……』



その言葉を最後に、里香は煙のように消えてしまいました。




“どうして助けてくれないの”




そう聞こえた気がしました。




「悪い霊の気配は消えました。怖かったわね、これでもう安心して暮らせるわよ」



女性はそう言って私の頭を撫でて、父と話をした後に家を出ていって、部屋には私と父だけが残されました。



「……お父さん……なんで……」



「“なんで”?お前が言うことを聞かないからだ。頼むから……これからは普通の子になってくれ。いいね?」



「ひどい……お父さんなんか、大っ嫌い……!!」



あの日から、父とは全く言葉を交わさなくなりました。



父を許せない気持ちと同じくらい、私は自分を許せませんでした。

もっと気をつけていれば、あの日家で待っているように言わなければ、里香は消えずに済んだ。




いや、




そもそも、私が幽霊と関わらなければ。




あの日家にいたのは里香だけで、他の幽霊の友達は皆無事でした。

でももう、彼らと関わる気にはなれませんでした。



体調を崩して数日間学校を休んだ後、いつものように話しかけてくる幽霊に対して、私は見えなくなったフリをして逃げるように学校へ行きました。




でも、そこにも自分の居場所はありませんでした。




「日向ちゃんのこと、ママに言ったら“気味が悪いから仲良くしちゃダメ”って言われたの、だからもう話しかけないで!」



「学校休んでたのも、ユーレイと遊んでたからだろ!」



「……っ」



周りから向けられる異質なものを見る目、言葉……あの時の私にとっては、それら全てがナイフのように私の心に刺さりました。



その日から、誰も信じられなくなって、以前のように学校に通うことが出来なくなって……中学に上がる前、父の転勤と同時に父と母は離婚してしまいました。



母は、「2人で話し合って決めたことだから、日向は何も気にしなくていい」と言いましたが……あの一件が無ければ、きっと離婚しなかったと思います。



これ以上母に迷惑をかけたくなくて、中学からはちゃんと学校に通って勉強はしていましたが……その3年間も周りの人と話すことはほとんど出来ないまま、卒業してしまいました。



♢ ◆ ♢




「で、高校生になった昨日、エレクと出会ったってわけだね!」



重苦しい空気を壊すように、閻魔が不思議に明るい声で話す。



「……そっか、だからあの時……。さっきばあちゃんに話してたのも、この話だったんだな」



合点(がてん)がいったというようにエレクが頷く。何か他にかける言葉を探そうとするも、なんと声をかければいいのか分からず口を(つぐ)んだ。




「はっ、勿体(もったい)ぶるからどんな大層な話かと思ったら……その程度か」



「……どういう意味だよ、それ」



沈黙を破ったのはコウルの低く冷ややかな声だった。

エレクが怒りと苛立(いらだ)ちを含んだ声でコウルに問いかける。



空気がピリ、と張りつめるのを感じ、日向が不安げにエレクの顔を見やると、今まで幸や日向に見せていた明るい表情とは打って変わった険しい顔つきだった。




「除霊されたガキも、それまでずっと人間界にいたってことは未練があったってことだ。ほっとけばそのうち悪霊になってただろ。たかが少し時期が早まったくらいで……」



コウルの言葉が言い終わる前にエレクは突風のように日向のすぐ横を駆け抜け、コウルのネクタイを(ねじ)りあげるように強く掴む。




「“たかが”?“その程度”?お前、人の命なんだと思ってんだよ!!大事に思ってる奴を失う気持ちがお前には分かんねぇかもしれねぇけど、その考えは絶対間違ってる!!謝れよ日向に!!」




怒りのこもった声が響き渡る。

その矛先(ほこさき)が日向に向いている訳ではなくとも、思わず肩をびくつかせる程だった。

当の本人であるコウルは身動(みじろ)ぎひとつせずに冷ややかな眼差しを向ける。



「はーいそこケンカしなーい!今のはコウルが悪いと思うよー?」



閻魔の注意を受けコウルはバツが悪そうに舌打ちをしてエレクの手首を強く握り、ネクタイを持つ力が緩んだ瞬間に勢いよく突き飛ばした。バランスを崩したエレクは床に強く体を打ちつける。

心配そうにそばに寄る日向にエレクは「へーき」と言って苦笑した。



閻魔は咳払いを1つして自身に注目させ話し始める。



「さて。じゃあボクから1つ、いいこと教えよっかな!話を聞く限り、キミの親友は消滅はしてないと思うよ。それほどの能力が使えるなら、幽霊の姿や声も分かるはずだからね!

その子は強制的に地獄に飛ばされたんじゃないかな?」



「地獄に……?」



「うん!ちゃんとした手続きをしてないから、面倒なエリアに迷い込んじゃったり転生にも時間がかかったりするけど……でも、地獄はキミが想像してるほどひどい場所じゃないよ!会える可能性も、ゼロじゃないしね」



「……きっとあの子は、私に会いたくないと思います……でも、消滅してないって知れて、よかったです」



そう言って日向は物悲しげに微笑んだ。

閻魔はその様子を見てニコニコとしながら頷く。



「うんうん、そっかー!それは良かった!それじゃーそろそろ2人を元に戻してもらおっかなー?日向ちゃん、ボクのこと忘れないでね?エレクもまたね!」



そう言ってコウルに視線を向けた後、日向とエレクに向かってぱちんとウインクする。



「は、はあ……」


「おー、またな!」



コウルの能力によって次第に日向とエレクを取り巻く洋室がぼやけ始め、元いた場所の景色と混ざり始める。



〝期待してるよ、日向ちゃん〟




洋室が完全に消える直前、日向の耳に閻魔の声が届いた。




♢ ♢ ♢




「……悪趣味だな、お前も」



「んー?何がー?」



2人が消えた後にコウルが呟き、閻魔はとぼけた顔で首を傾げた。

その態度にイラついたように頭を()きながらコウルは言葉を続ける。



「さっきのお前の話だよ。ただでさえ広い地獄で、審判されてねぇ転がり込んだガキの幽霊なんて見つかるわけがねぇ。無駄な期待させてどうすんだよ」



「あ、もしかして心配してる?日向ちゃんのこと」


「はぁ?」



コウルが目尻を険しく吊り上げながら低い声で聞き返す。閻魔はその様子を面白がるように「わーこわーい」と言いながらくすくすと笑った。



「ボクは本当のことを言っただけだよ。少しくらい希望を見せた方が、いい働きをしてくれると思わない?」



にっこりと笑いながら告げる閻魔をコウルは(あき)れ果てたような目で見る。



「……俺はお前の方がよっぽど怖ぇよ」


「えー?なんか言った?」


「別に。じゃ、俺は戻らせてもらう」



素っ気なく返した後、コウルはひらりと身を(ひるがえ)し立ち去った。



「あの子達には頑張ってもらわなきゃ。ボクのためにね!」



誰もいなくなった部屋で閻魔は一人、不敵な笑みを浮かべた。




最後までお読み下さりありがとうございます!

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