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GOSTARS  作者: わらびもち
4/12

第4話「千代に八千代に、思い思われ①」

閲覧ありがとうございます!

※前編、後編共に途中で視点が変わります。「♢◆♢」のマークが目印です。




翌朝の土曜日。エレクの仕事に一度協力する事にした日向は、早速エレクと共に、未練を抱えている浮遊霊の元へ向かうことになった。母の香織にも昨日その事を伝えてあり、了承(りょうしょう)を得ている。




「えーっと、ここを右…あ、左か」




エレクは手元のスマホをくるくる回転させて地図を見ながら日向の横を歩いている。日向はエレクの持っているスマホを横目でちらりと見た。




日向の視線に気が付くと、エレクは得意気(とくいげ)に日向にスマホを見せる。




「これさ、昨日言った閻魔からもらったスマホなんだけど。マップとか通話だけじゃなくて、行きたい場所を設定したら、その場所にいける機能も付いてるんだ。すげーよな」



「凄いですね……」



(そんな物を持っている〝閻魔〟って、一体どんな人なんだろう……)



「そういや、閻魔のこともだけど俺のこともちゃんと話してなかったよな。着くまでに説明するか!俺はーーー」



エレクは日向に、自分が今の仕事をすることになった経緯(けいい)を話し始めた。




1ヶ月程前に交通事故で命を落として浮遊霊となったエレクは、何故か突然、雷を操る能力が使えるようになっていた。


戸惑っているところにコウルと名乗る青年によって霊界に連れていかれ、そこで閻魔から説明を受け(なか)ば強制的に仕事を任された。


閻魔というのは、いわゆる地獄で審判を(くだ)すような閻魔大王とは少し違って天国・地獄を含めた霊界全体を管理している人物であるとのことだった。


その閻魔によってエレクは生前の記憶の一部を封印され、名前と容姿を変えられてしまった。というのも、現世に留まって仕事をしようとしても未練を抱えたままでは次第に悪霊化してしまうため、未練に関する記憶を1度封印し、名前と容姿を変えたのも何かの弾みで思い出すことの無いようにするため―――とのことだった。



「……ってわけなんだ!だから俺は本当の名前とか、家族のこととかはまったく覚えてない!」



「な、なるほど……」




幽霊の存在自体は日向にとって珍しいものではなかったが、エレクから聞いた話はどれも信じ(がた)いことばかりで、日向は難しい顔で(うなづ)いた。




「まあ、そんな考えなくていいぜ!とりあえず日向は対象者に会って、話を聞くだけでいいからさ」




対象者というのは、閻魔から解決を任された仕事に関わりのある人物のことで、今回は未練を抱えている浮遊霊の女性と、残された夫の二名との事だった。




「よし、ここだぜ!まずは、幽霊のばあちゃんに会いに行こう!」




話しているうちに、二人は目的地の公園に着いた。エレクは遠くのベンチに早歩きで向かい、日向も慌てて後を追う。



ベンチには、体の透けている年老いた女性が座っていた。



「おーい、ばあちゃーん!」



エレクの声に気づき、女性は顔を上げて微笑んだ。




「あら、えれく君!今日も来てくれたのねぇ。それに……まあ、日向ちゃん?私のこと、覚えてるかい?」



「え……(さち)さん……!?」



「お、知り合いだったのか?」




エレクの問いかけに、幸はにこにこしながら答える。




「ええ!生きていた頃、バスで居合わせることが多くてねぇ。その度に私の世間話に付き合ってくれたのよ~」




日向は、ある日バスで幸が話しかけてきた時から、何度か取り留めのない話を交わしていた。ここ1ヶ月は姿を見ていなかったので日向は不思議に思っていたのだった。




(まさか、亡くなっていたなんて……)




「ふふ、そんな悲しそうな顔しないでちょうだい。持病が悪化しちゃってね……退院したらまた会いに行こうと思っていたんだけどねぇ。

でも、また話せて嬉しいわ。日向ちゃんは“見える”子だったのねぇ」




「あ、はい……」




ぎこちなく笑みを返す日向とは対称的に、エレクは何やら自慢げな様子で言う。




「おう!俺は昨日日向と友達になったんだ!日向なら、ばあちゃんのこともなんとか出来ると思ってさ!」




「まあ、そうだったのねぇ。じゃあお言葉に甘えて、日向ちゃんにも話を聞いてもらおうかしら。良ければ私の隣に座って。(はた)から見たら、日向ちゃんが誰も居ないベンチに話しかけているように見えるでしょ?」



幸はくすくすと笑いながら体をずらし、日向が座るスペースを空けた。



「あ、ありがとうございます」



日向が座ると、幸は穏やかに語り始めた。




「病気には勝てなかったけれど……悔いのない幸せな人生だったわ。長生きして、大好きな夫の孝介(こうすけ)さんと添い遂げることが出来て。なんの心残りも無いはずだったの。でも……」



幸は、苦笑を浮かべながら話を続ける。



「あの人……孝介さんったら、私が死んでからすっかり(ふさ)ぎ込んでしまってねぇ。気の強い人だったから、私がいなくなっても元気でやってくれるって思っていたんだけど……。あれじゃあ安心して上になんていけないのよ」




「そうだったんですね……」




状況こそ分かったものの、難しい問題に直面しているように日向は感じた。

生涯(しょうがい)寄り添ってきたパートナーを亡くしたのだから、気力を失うのも無理はない。それでもどうにかして孝介の気持ちを切り替えさせなければ、幸は未練を解消出来ず、やがて悪霊化してしまう。




「俺は1週間前にばあちゃんと会って同じ話を聞いたんだけど、俺もばあちゃんも幽霊だから、そのじいさんに気付いてもらえねぇしさ。

そこで、日向の出番って訳なんだ!」




「で、でも……赤の他人の私が幸さんの旦那さんと会って話しても、孝介さんの気持ちは変えられないと思います……」



「そこなんだよなー!そのじいさん、幽霊とか信じるタイプじゃないらしいし」



「頭の固い人だからねぇ……。私も、自分がこうして幽霊になるまではあんまり信じてなかったわ」




考え込み、沈黙が広がる。



「なんだか、迷惑かけちゃってごめんねぇ。私が孝介さんと直接話せたらいいんだけど……」




何気なく呟いた幸の言葉に、日向はハッとする。




「それ……出来るかもしれません……!」



幽霊と生きている人間が直接会話をする。そんなことは、日向のように霊視が出来る人間にしか出来ないと大抵の人が思うだろう。



だが日向には1つ、思い当たる方法があった。




不思議そうな幸とエレクに、日向は説明し始める。




「えっと、私……自分の体と、魂?を、自分の意思で離れさせることが出来るんです」



「あ、なんかそれテレビで観たことある!幽体離脱(ゆうたいりだつ)、だっけ?」



エレクの言葉に、そんな感じです と日向は頷く。



「なので、私が自分の体から1度離れて……その間に幸さんが私の体に入ったら、幸さんは私を通して孝介さんと話せるんじゃないかなって……」



「なるほどなー!頭いいなお前!」




日向の話を聞いたエレクは、太陽を映したような色の瞳をさらに輝かせた。

幸は慌てた様子で「ちょっと待ってちょうだい」と遮る。



「気持ちは嬉しいけど、体と魂を離すなんて危険よ。日向ちゃんに何かあってからじゃ遅いのよ」



「でも、このままじゃ……前に進めないままです。幸さんも、私も」



「日向ちゃんも……?」



「私は、小さい頃……自分の行動がきっかけで、大好きだった幽霊の友達を失いました。それからはもう、幽霊に関わらないって決めて……人と話すことも怖くなりました。ずっと、逃げていたんです」



「でも昨日、エレクさんに出会って……こんな私でも、力になれるかもしれないって思えたんです。だから、出来る限りのことをしたいんです……!幸さんも、孝介さんに自分の言葉で伝えたいこと、ありますよね……?」



幸は眉を八の字に寄せて長い間考え込み、やがて意を決したように日向に向き直る。



「……そうね……もう一度、あの人とちゃんと話がしたいわ。

それじゃあ……私のわがままに付き合ってもらってもいいかしら?その代わり、日向ちゃんの体を1番に考えてちょうだいね」



「はい!」



「決まりだな!でも、日向のその力を使うには、じいさんに、ばあちゃんの幽霊がいるってことを分かってもらわなきゃだよな。

考えてても仕方ないしさ、とりあえずじいさんの家に行って話してみないか?ここから近いらしいし。もしかしたらすんなり上手くいくかもしれねぇしさ!」



「うーん、すんなり……いくでしょうか……」




楽観的(らっかんてき)なエレクとは対称に日向は心配そうに眉を下げる。



(でもたしかに……ここで3人で話していても何も始まらない)




「……わかりました、行ってみましょう……!」




こうして日向達は幸の夫である孝介の元へと向かい始めた。




♢ ◆ ♢




私の妻だった幸が病死して、1ヶ月になる。




“まだ”1ヶ月なのか、“もう”1ヶ月なのか、自分でもよく分からない。幸が居なくなってからの毎日は、心に穴が空いたようで、何もする気が起きなくなった。




私はずっと、自責の念に駆られている。




幸は学生の頃に出会ってからずっと着いてきてくれた。

結婚しても、男は仕事、女は家庭が当たり前だと思い家のことは全て幸に任せていた。



仕事がうまくいかず苦しい生活が続いても、幸は文句の一つも言わずに私に尽くしてくれていた。

それなのに私は、幸が喜ぶことを何もしてやれていなかった。

若い頃こそ2人で出かけたり笑いあって食事をすることはあったが、年老いていくうちにそれも減っていった。



幸の持病が悪化して入院した時だって、見舞いにこそ行ったものの、なんと声をかけていいか分からず気の利いた言葉の一つもかけてやれなかった。

そんな私に幸は、自分が一番辛いはずなのにいつもと変わらない笑顔を浮かべて、「ご飯、ちゃんと食べて下さいね」と言って私の身を案じてくれた。

それに対して私は「分かってるよ」とぶっきらぼうに返事をして病室を出た。





それが、私と幸の最後の会話だった。






数日後、幸が危篤(きとく)状態になったと知らせを受けて駆けつけた時には、既に幸は息を引き取っていたのだ。




人はいつか必ず死ぬ。それはもちろん理解していることだ。

それでも、もっと幸にしてやれたことがあったはずだった。

幸の話に普段からもっと耳を傾けて、もっとちゃんと見ていれば、病気の悪化だって早くに気づけたかもしれない。


悔やんでも仕方ないことだと頭ではわかっていても、私の心には墨汁のようにやるせない気持ちが拡がっていく。




「恨んでいるだろうな、あいつは……」




その時、不意(ふい)にインターフォンの音が鳴った。郵便物だろうか。重い腰を上げ、ボタンを押して返事をする。



すると、たどたどしく話す子供の声が聞こえてきた。



“草野日向”と名乗るその子供は、開口(かいこう)一番に幸について話があると言った。



そういえば……入院する前、幸は日向という女学生について何度か私に話していた。礼儀正しく真面目な子で、一緒に話すのが楽しいだとか……。



(この子は……どうやってうちに辿り着いたか知らないが、おおかた、幸が死んだことをまだ知らなくて幸を訪ねてきたんだろう)



正直、誰かと話す気分ではなかったが、返事をした以上無視をする訳にもいかない。

玄関の扉を開けると、目の前の女学生は、おどおどとしながら私に向かって頭を下げる。




突然すみません、話したいことがあって……と切り出した女学生に対して、私は「幸ならもう死んだ」と伝える。自分でも驚くほど冷たい声が出た。




だが、女学生はそのことを既に知っているようだった。

そして次に女学生の口から出た言葉に、私は耳を疑った。




〝幸は幽霊となって今自分の目の前にいる〟と言うのだ。




「何を、言っているんだ?」




自分の目に見えないものを、赤の他人から信じろと言われても無理な話だ。




挙句の果てに女学生は、自分は幽霊に体を貸すことが出来ると言う。

私が幽霊を信じてくれれば、最後に幸と話すことが出来ると。





馬鹿馬鹿しい。





「……年寄りを馬鹿にして楽しいか。帰ってくれ。今すぐに」




なおも食い下がろうとする女学生を睨みつけ、私は扉を勢いよく閉めて鍵を掛けた。




「……」



静寂が広がる。




扉を閉めたあとも、どうしてかあの女学生の顔と言葉が、脳裏から離れななかった。



それでは駄目だ、ともう1人の自分が警鐘(けいしょう)を鳴らすように。




「……くだらない」




吐き捨てるように呟いた私の言葉は、冷えきった広い居間に吸い込まれるようにして消えていった。




最後までお読み下さりありがとうございます!

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