第2話「協力」
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「お前……俺が見えるのか?」
日向に目線を合わせるようにしゃがんでいる幽霊の青年は、とても驚いた様子で言った。
「あ……はい……あ、あの、さっきの雷はあなたが……?」
日向は青年と会話を続けるのを少し躊躇したものの、先程の出来事について何か聞けるとしたらこの青年しかいないと思い返事をした。
すると、その青年の顔がぱっと明るくなる。
「マジで!?見えてるし声も聞こえてんの!?ほんとか!?うわ、生きてる人と話すのすっげー久々!!俺、死んでから閻魔か他の幽霊としか話してなかったからさー!!すげー嬉しい!!」
「……」
はしゃいだ口調で話し続ける青年を、日向は困りきった表情を浮かべたまま見つめる。
「あ!悪い!!……うん、さっきあいつを“消滅”させたのは俺だよ。さっきの雷はさ、俺が持ってる……“異能力”?の1つなんだ」
青年はハッと我に返ったようにして日向に軽く謝った後、声を少し落ち着かせて言った。
聞き慣れない言葉に、日向は眉をひそめる。
先程の無邪気な様子とは変わった青年の様子を見て、日向は出しかけた疑問をひとまず押し込んだ。
「……あ、あの、助けて頂き、ありがとうございました」
日向はまだ少し震える両足でゆっくりと立ち上がると、青年に向かっておずおずと頭を下げた。
青年もパッと立ち上がり、「おう!」と応える。
数秒、沈黙が続く。
青年はなにやら落ち着かない様子であちこちに視線を飛ばした後、真っ直ぐ日向の目を見つめて神妙な面持ちで言った。
「……あのさ、突然なんだけど……俺に協力してくれないか?」
「……え……?」
青年の発言の意図が分からず、日向は疑問符を投げかける。
すると青年は、「あー、っと……これってどこから話せばいいかな」と言いながら頭を掻き、考え込むような素振りを見せる。
やがて青年は、頭の中で言葉を整理するようにしながら日向に話し始めた。
「俺さ、閻魔っていう……まあ、なんだ、あの世で1番偉いやつ?に頼まれて、心残りがあってここに残ってる“浮遊霊”ってやつらを霊界って場所に送ったり、さっきみたいに……悪い霊、“悪霊”って言うらしいんだけど。それを消滅させる仕事をしてるんだ」
青年は、目を伏せながら続けて言う。
「でも俺、死んでるからさ、普通の人間には姿も見えないし声も聞こえないだろ?今みたいに消滅させることは出来ても、未練を残しているやつにしてやれることってあまりなくてさ。
……この前も、『お母さんともう一度話したい』って言ってたやつが、地上にいすぎて悪霊になって……俺が消滅させた。何もしてやれなかったんだ」
「そうだったんですね……」
ごめんな 暗い雰囲気にしちまって、と申し訳なさそうに言う青年に、大丈夫です、と返した後、日向は話の中で気になったことを問いかけた。
「あの……消滅?させた幽霊は、その後どうなるんですか?」
「文字通り、消えて無くなっちゃうんだ。心残りが無くなって霊界に行くのと違って、生まれ変わることも出来ない」
「……じゃあ、さっきの悪霊は、もう……」
青年は頷いて、力強い瞳で日向を見る。
「俺は、そんな奴を一人でも減らしたい!幽霊が見える生きている人間と協力出来れば、救えるやつも増えると思うんだ。
だからさ、俺に力を貸してほしい!頼む!」
そう言って、青年は日向に深く頭を下げた。
日向は青年に頭を上げるように促し、申し訳なさそうに口を開く。
「……ご、ごめん、なさい。私には、出来ません……」
日向の言葉を聞いて、青年の顔が悲しげに曇る。
「……はは。いや、そうだよな。急にこんなこと言われても困るよな!でも、俺――――」
「私は、……もう二度と、幽霊に関わらないって決めているんです……本当に、ごめんなさい……!」
説得を続けようとする青年を、日向は遮る。
声はか細く震えていたものの、断定的なその言葉は青年を押し黙らせるには十分だった。
そのまま日向は頭を下げると、青年を残して逃げるように家の方向へ駆け出した。
「あ……!……どうしても、お前の力が必要なんだ!もう一回、考え直してほしい!俺、ここで待ってるから!!」
青年は、遠ざかっていく日向の背に向かって呼びかける。
僅かな希望に縋り付くような少年の大声は、周囲の空気を揺らすこともなかった。
♢ ♢ ♢
「……へーぇ、やっぱそう動くかぁ……あはっ、これから面白くなりそうだなぁ」
人間界とは別の場所―――死後に霊やそれに類するものが行き着く場所、霊界。
そこにあるとある建物の大きな玉座に座った少年が、水晶を眺めながら楽しげに呟いた。
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