第12話「揺らぐ灯火②」
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「ーーーっ!!」
自分に向かって振り下ろされる腕を見てランは固く目を瞑る。
しかし、数秒経っても何の衝撃も来ない。
不思議に思ったランは恐る恐る目を開ける。
下ろされるはずの腕はランの目前で止まっていた。
正確には、止められていた。
悪霊はギリ、と歯ぎしりをして腕になお一層の力を込める。
しかし、その腕はブルブルと震えたままで、まるで1枚の壁に隔たれたようにランに触れることは無い。
どうして、とランが声を上げるより先に、横から何かに腕を掴まれてランの体は引っ張りあげられた。
それと同時に、先程までランのいた空間に悪霊が一撃を叩き込んだ。まるで止まっていた時間がいきなり動き出したかのようで、表情は見えないものの悪霊も動揺しているように見えた。
「おいお前!大丈夫か!?」
「あ、あんたさっきの……!」
ランの体を引っ張り上げたのはエレクだった。反動で前のめりに倒れそうになったランの体をしっかりと支える。
「もしかして、今あんたがあれ止めたの?」
「ああ、とりあえず話はあとだ!俺が何とかするから下がってろ!」
「は!?ちょ、何!?説明しなさいよ!!」
ランの問いかけには答えず、エレクはランの手を引いて悪霊から少し距離を離した。
くるりと踵を返してランを隠すように立つ。
「……縺ェ繧薙□縺雁燕縺ッ?滄が鬲斐r縺吶k縺ェ縲よョコ縺励※繧?k縲ら嚀谿コ縺励※繧?k……!」
「ごめんな。すぐ楽にしてやるから!」
憎々しげに呻き声を上げてエレクを睨みつける悪霊を見て、エレクは苦悶の表情を浮かべる。
悪霊が不明瞭な言葉を叫びながら振り回す腕をかわし、エレクは手に青白い雷を纏わせて悪霊の腕に向けて放った。
悪霊は呻き声を上げてその場にうずくまる。とどめを刺そうとエレクが足を踏み込んだ時、その足がぐらついた。
エレクが顔をゆがめて地面に膝をつく。
「!」
(あたしがさっき、火を当てたせいだ……!)
ランが先程の日向の家での出来事を思い返す。
エレクは体勢を立て直そうと立ち上がるも、悪霊はその隙を見逃さなかった。
目が無いにも関わらず、一気にエレクとの間合いを詰めると長い腕を鞭のようにしならせてエレクを壁へと叩きつける。住宅街の静けさを一気に壊すような大きな音が辺りに響いた。
しかしその音も普通の人間の耳には聞こえることは無い。
あくまでダメージを受けたのはエレクだけで壁にも傷一つ付いていなかった。
「げほっ、あー、くそっ……!」
叩きつけられた衝撃でエレクは咳き込み、打ち付けた箇所を押さえて顔を引きつらせる。どうにか片膝を立てるも、すぐには立ち上がれないようだった。
悪霊はケタケタと笑い声を上げながらゆっくりとエレクに近付いていく。
「ちょっと……ちょっと待ってよ、ねえ誰か……!!」
ランは目の前で起こっているその光景を呆然と見る。
体が硬直し、手は情けないほど小刻みに震える。
ランは周囲を見渡し声を上げるも、偶然近くを通りかかった女性は素知らぬ顔でそのままランの傍を横切ってしまった。
(……あたししか、いない。でも……!!)
日向の家でランが発生させた火は無意識によるもので、狙ったタイミングで尚且つ悪霊に焦点を当てて攻撃出来る保証はない。
(横から押して突き飛ばす……?でも、あんな大きいのにあたしの力じゃ……。せめて、何か叩ける物とかがあれば……!)
そうランが思った時だった。ランの目の前に、ポンと弾けるような軽い音を立ててプラスチック製のハンマーが空中に現れたのだ。それも、ランの背丈程もある巨大な。
「はっ!?な、なによこのピコピコハンマー!!」
あまりにも緊張感の無いアイテムの登場にランは思わず素っ頓狂な声を上げた。
ランは困惑しながらもハンマーを手に取る。やや重みを感じるものの問題なく扱える重さだった。
「……」
迷っている時間はもう無かった。
ランは柄を両手でぎゅっと握り、悪霊めがけて一直線に走る。
「やめてーーーーーーーー!!」
自分を奮い立たせるように叫びながらランはハンマーを悪霊の胴体に力一杯ぶつけた。
柔らかい感触がハンマー越しにランの手に伝わる。
予測していない攻撃に、悪霊は為す術なく後方へと飛ばされた。だが、威力がやや足りなかった。
ふらつきながらも悪霊は大きな頭をもたげて、標的をランへと変えた。
負けじとランも柄を握り直して悪霊を睨みつける。
「ラン!!目閉じろ!!」
「は!?何言って、……!!」
エレクが声を上げた直後、青白い光がランの視界を覆い、ランは思わず顔を背けた。
同時に耳をつんざくような轟音が鳴り響き、反射的に耳を塞ぐ。
エレクが発生させた雷だった。
ランが目を開けると、悪霊の体は黒いモヤとなって消えていった。
「き、消えた……?」
辺りにはいつもの静けさが戻っている。
「ああ、もう大丈夫だ。ラン、ありがとな!助かった」
「別に、あんたを助けるためにやったわけじゃないから」
笑顔を向けるエレクに対してランはふいと顔を逸らす。
「えっ違うのか?」
「そーよ!あの変なのをやっつけるためだけ!勘違いしないで」
ランがつっけんどんに言い放つ。
エレクは少しシュンとした後、真剣な面持ちになって口を開いた。
「……でもさ、今消えた奴も、元は普通の人間だったんだよ」
「それ、あの時変な子供……閻魔が話してた。アクリョウがなんとかーって。今のがそれってこと?」
エレクが頷く。
「俺たちは生きてた頃を思い出せないようにされてるからああならないけど、心残りがある浮遊霊は長く現世にいると悪霊になるんだ。そうなったら……今みたいに、消滅させるしかない」
「……」
「俺と日向はさ、そういうやつが減るように浮遊霊の悩みを解決して霊界に送ってるんだ。まあ始めて3ヶ月くらいだしまだまだだけどさ!」
エレクは俯いているランと目線を合わせ、安心させるように明るい声色で言葉を続ける。
「な、お前はこれからどうしたい?俺はランが手伝ってくれたらすげー嬉しいけど……今みたいに危ないこともあるからさ、これからどうするかはお前が決めていいよ!」
「……あたし、は……」
ランは気まずそうにエレクと1度視線を合わせる。
目を逸らして少し黙り込んだ後に、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……今は、自分のことがよく分かんなくて、他の人を助けるとか考えられない。あんなのとも、もう戦いたくない……けど、さっきみたいに誰も自分に気づいてくれないのは、すごく怖かった。さっきの悪霊とか、浮遊霊?もそうなら……そういうの、無くしたい……とは、思う」
「って、ことは……」
「だから、とりあえず協力してあげてもいいってこと!助けてもらったままなのもなんか悔しいし!」
ランはやや赤くなった顔を隠すようにくるりとエレクに背を向けて言う。
「そっか!よしっこれからよろしくなーラン!じゃ、とりあえず日向んとこ戻ろうぜ!」
エレクは笑顔を浮かべると、ランの背中をポンと軽く叩いた。
「ちょっと、いきなり触んないでよ馬鹿!変態!」
ランが顔をしかめて怒り任せにエレクの腕を勢いよく叩く。
「いっって!!ちょ、俺の方があっちこっちケガしてんだけど!?」
「うるさい!今度触ったらこのハンマーで殴るから!!」
「やめろって!てか、それどこから持ってきたんだよ」
「なんか、いきなり出てきたのよね……たしかに閻魔には、『キミが使えるのは炎と、思ったものを出せる具現化だねー』って言われてたけど……」
「思ったものを出せる!?それすごくね!?」
「んー、でもここまで大きいとちょっと邪魔ね」
ランがそう口にした瞬間、持っていたハンマーが手元から離れてパッと消えた。
「わっ消えた」
「すげー!!かっけー!!な、他にも出せる!?車とか船とか!」
「知らないわよ!!距離近い!もっと離れて歩いて!」
瞳を輝かせるエレクとは反対に、ランは不機嫌さを分かりやすく表に出す。
堂々巡りのやり取りを続けながら、2人は日向の家へと戻った。
♢ ♢ ♢
「2人とも、無事で良かったです……!すみません、私何も出来なくて……」
「気にすんなってー!俺が日向の分までバッチリ助けてきたからさ!」
エレクとランは再び日向の部屋に戻ってきた。
申し訳なさそうにする日向を励ますようにエレクは無邪気な笑顔を向けた。
「別にあたし、助けてなんて頼んでないけどね」
ランがエレクをちらりと見て高飛車な口調で言う。
「いや、あの時俺が行ってなかったらお前やられてたろ!」
「あんただってあたしが叩かなかったら死んでたじゃない!」
「あれはそもそもお前の火当たったとこ痛くて転んだからだからな!」
「えっあっあの……ふ、二人とも、落ち着いてください……!」
制止しようとする日向のか細い声は、2人の論争にいとも容易くかき消されてしまう。
どうしたものかと頭を悩ませると同時に、兄弟喧嘩のような賑やかなやり取りに微笑ましくも感じるのだった。
最後までお読み下さりありがとうございます!
本編内には書けなかったのですが、エレク達は悪霊化で消滅することが無い代わりに、ある程度の致命傷を負えば消滅してしまいます。
今回はエレクが駆けつけていなければランは消滅していました。
ただし負傷してもある程度の時間(数時間~1日)が経てば元通りになります。
それと、ランの能力は「炎」と「具現化」ですがエレクは「雷」と「金縛り」です。冒頭で悪霊の動きを止めていたのはエレクの金縛りだったのですが、説明するタイミングが話中に作れず申し訳ありません。
良ければ次回もお読み頂けると嬉しいです。




