第10話「小さな依頼主②」
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翌日の放課後、日向と笑那と皐月はボランティア部の部室に集まっていた。今日は日向達3人を含め新たに加わった1年生5人を交え、部員全員で今後の活動予定について話し合うことになっている。
「あ、中野先輩からLINEきた!職員室寄るからちょっと遅れるってー」
「ほんと?じゃあ音ゲー1回分やっとこ」
笑那と皐月がそれぞれスマホ片手に話していると部室の扉が開き、竹田ともう1人の男子生徒が同時に入ってくる。
「あ、いじめっ子!偉いねちゃんと部活来て」
「だから俺は竹田だっつってんだろ」
笑那と竹田が話す横で、竹田の隣に立つ男子生徒と日向の目が合う。
「あ……えっと、同じクラスの……」
「そう!名前、日向だっけ?まだ話したことないよね。改めて、オレ浅沼 将也!俺もボランティア部入ったんだ。今日からよろしく!」
浅沼はそう言って人のよさそうな笑みを日向に向けた。
「うっわ……5人目って将也だったの……?」
両耳に付けたイヤホンを外し顔を上げた皐月は、浅沼を見るなり露骨に顔をしかめる。
「皐月さん、浅沼君とお知り合いなんですか?」
「あ、オレと皐月幼なじみなんだよね!」
皐月の代わりに浅沼が答える。
「日向気をつけなね、こいつ根はいいけど一緒にいると疲れるから」
「え、えっと……」
「お待たせー!皆集まってる?3年生は……いないか」
日向が返答に迷っていると、中野とその他の2年生数名も部室に入ってきた。中野は周りを見渡し時刻を確認すると弾んだ調子の声で言う。
「それじゃ皆席について!新入部員を入れた第一回目のボラ部ミーティング、始めよっか!」
♢ ♢ ♢
「えーと、ボラ部は毎年この時期に、校舎前の花壇の整備をしてます!新しく入ってくれた1年生5人にも参加してもらう予定で、日程と時間は―――」
中野は書類片手に、脚付きのホワイトボードにせっせと書き込みながら説明していく。
これまでも部長が来ていない時は中野が部内を取りまとめてきていたため、ミーティングを進めるのも慣れたものだった。
「―――はい、内容の説明はこれで終わりかな!何も質問なければ、次は役割分担をしていきたいんだけど……」
そう言って中野は周りを見渡す。すると笑那が勢いよく手を挙げて立ち上がった。
「はいはーい!!野菜とかも植えません!?果物とか!!」
「花壇だって言ってんでしょ。そう言うのは家の庭でやりな」
中野が返す前に皐月がピシャリと言い放ち笑那はしょんぼりとした様子で座る。
「うーん、楽しいと思ったんだけどなあ」
(子犬のこと、そろそろ言わなくちゃ……。でも、今の話の質問じゃないから、後での方がいいのかな……)
日向は悶々と頭を悩ませる。早く話を切り出したい気持ちはあるものの、肝心の1歩が踏み出せずにいた。
「じゃーあとは特になしってことで……」
「先輩。草野、手挙げてますよ」
「!」
中野が話を進めようとした時、日向の隣に座っていた竹田がスッと片手を上げて言った。
周囲の視線が竹田と日向へと注がれる。
「あ、ごめんね気づかなくて!何か気になるとこあった?」
「えっと……」
もちろん日向はまだ手を挙げられていなかったのだが、おかげで話を切り出すきっかけが生まれた。
日向はおずおずと立ち上がり、口を開く。
「その……し、質問じゃないんですけど……実は昨日……」
「――――それで、部活動の一環として里親探しをしたいってわけだね」
日向の話を一通り聞いた中野が頷いた。
「や、やっぱり……活動予定と違うから、難しいですか……?」
日向の問いかけに、中野は首を振る。
「全然!人でも動物でも何でも、困ってたら助ける!それがボランティア部のポリシーだもの!部長と顧問の先生には私からお願いしてみるよ。皆でその子の家族になってくれる人を探そう!」
中野は頼もしい笑みを浮かべて言った。同じく話を聞いていた笑那と皐月、浅沼もうんうんと頷き協力的な雰囲気が流れる一方、スマホをいじって聞いていた他の2年生達はやや迷惑げな表情を見せる。
「あ……ありがとうございます……!」
とはいえ、と中野が手元の資料に目を落とす。
「決められてることもちゃんとやらなくちゃね。せっかく部員も増えたことだし、2チームに分けよう!花壇の方は私と3年生と、笑那ちゃんと浅沼君!頼んでいいかな?」
「もちろんですよー!!」
「頑張りまーす!皐月とがよかったな……」
笑那は活気のある声で答え、浅沼はやや残念そうに皐月の方を見る。
「で、それ以外……日向ちゃんと皐月ちゃんと竹田君と、2年生全員で里親探しをしよう!私も花壇と両立させて手伝うから。とりあえず分かれて話し合いしててもらっていい?私は顧問の先生に話してくるね」
そう言うと、中野は席を立ち部室を出ていった。その間に日向達は机を並べ替え、2グループに分かれる。
「はぁ、すぐ帰れると思ったのに……」
「ウチらが動いたとこで、そんなすぐ見つからなくない?」
日向と同じグループになった2年生達は気だるげな様子でぶつぶつと愚痴をこぼし、冷ややかな視線を日向に向けた。
日向が怯えたように首をすくめ、気まずい時間が流れる。
「じゃあ先輩方は子犬が死んでも別にいいってことっすか?」
竹田がつっけんどんな口調で言う。
呆れたような軽蔑の目を目の前の2年生達に向けた。
2年生達は面食らったようにぽかんとして、お互いの顔を見合わせる。
「べ、別にそんなつもりは……」
「先輩方ならなんかいいアイデアあると思ったんですけど、まさか何も考えてなかったなんて……」
たじろぐ2年生達に竹田はさらに煽るようにわざとらしくため息をつく。
「な、何も考えてなかった訳じゃないよ!ねえ?」
「も、もちろん!例えば……あ、里親募集サイトに載せたりとか……」
「あ。ウチのママの友達に、そういうサイト詳しい人いるんだよね……聞いてみようかな」
「あとは……市内の保健所だし、チラシとか配って地域の人に知ってもらうのもいいんじゃない?」
「それちょっと楽しそう!そういうデザイン考えるの好きなんだよね」
2年生達が徐々に意見を出していき、場の雰囲気が盛り上がり始める。
その後日向達は順調に話し合いを進め、それぞれ担当する役割を決めたところでその日の部活は終わった。
♢ ♢ ♢
翌日の昼休み。
日向は2年生が作ったチラシの原紙を受け取り、仕上げとコピーをすることになっていた。日向がコピーした大量のチラシを抱えて廊下を歩いていると皐月とすれ違い、皐月はチラシの半分をサッと持ち日向の隣を歩く。
「えっ、あ、あの……すみません皐月さん、手伝ってもらっちゃって……」
「私が好きでやってるから気にしないで。……にしても、昨日は竹田の煽りスキルに助けられたね。あいつのことは好かないけど」
歩きながら皐月が呟く。
「そうですね……話を切り出せたのも、竹田君のおかげだったので……後でお礼したいです」
「ほんと真面目ねー日向、そこが好きなんだけど……。1人で大丈夫?あたしこの後別の用事あってさ……何かやな事されたりしたら言ってね」
「は、はい、大丈夫です……!ありがとうございます」
皐月は心配そうに眉をひそめる。チラシを教室まで運び終え皐月と別れた数分後、教室の扉の方から日向を呼ぶ声が聞こえた。
見ると、廊下から竹田が手招きをしており、日向は慌てて竹田の元へ駆け寄った。
「あっ……あの、竹田君……!き、昨日は、その、ありがとうございました」
日向がぺこりと頭を下げる。竹田は一瞬キョトンとした表情を浮かべてから、あー、と思い出したように呟く。
「ほんと、お前あの時俺が何も言わなかったら話せてなかったじゃん。感謝しろよな」
「は、はい……助かりました」
恩着せがましく話す竹田に日向は困った表情で再度感謝の言葉を述べる。
「つかそんなことよりさ、この投稿拡散してくんね?」
そう言って竹田は自分のスマホ画面を日向に見せる。
そこに映っていたのは、短文投稿サイトであるTwitterの竹田の投稿だった。1行目には#拡散希望 と青字で書かれてあり、その下には今自分達が子犬の里親を探していることや、里親募集サイトのURLも貼られている。
「これって……」
「サイトに載せるのは先輩方やってくれたけど、結局それってそこにアクセスしないと意味ねーじゃん。だからアクセス数増やすためにツイートして、今クラスとか色々まわって拡散してもらってんの」
竹田の言葉に日向は意外そうな表情を見せる。
日向が小学校の時に見ていた竹田の性格からして、彼がここまでこの件に協力をするとは思っていなかったからだ。
日向の顔を見ると、竹田は視線を逸らして頭を搔きながら言う。
「俺犬飼っててさ。昨日話聞いて、何とかしてーなって思ったんだよ。1回捨てられてんなら、今度こそマジで大事にしてくれる人見つけてーじゃん」
「はい……!あの、ありがとうございます……!」
竹田は決まりが悪そうに少し顔を赤くする。
「別にお前のためじゃねーから!犬が好きでやってんの!てかチラシ配りちゃんとやれよな。お前マジで声小せぇし」
「ひっ……す、すみません……!あ、あの、私次の授業、移動教室なので……!」
語気を強めて言う竹田から逃げるように去っていく日向の背を見送り、竹田がため息をつく。
「あー……だっせーな、俺」
♢ ♢ ♢
翌日の昼休み。預かり期限の終わりが刻々と迫る中、ボランティア部に嬉しい知らせが舞い込んだ。
「えっ……里親希望が3組も……!?」
「保健所の方から連絡きてね。子犬だからっていうのもあったけど、SNSの投稿から知ったり、チラシを見て申し込んでくれた人もいたんだって!」
驚く日向に中野が嬉しそうに話す。初めは乗り気じゃなかった他の2年生達も顔をほころばせた。
「これから希望者の方と保健所の職員さんで面談したり手続きをして、条件が合った所に譲渡されるんだって。私達にできるのはここまでだけど……助けられて本当によかった……!
見つけてくれた日向ちゃんも、協力してくれた皆も本当にありがとう!」
中野が目に涙を浮かべながら言う。
部内にも安堵の雰囲気が流れる中、日向は1つ気にかかることがあった。
(あの浮遊霊の犬は大丈夫かな、結局病院を出たあとはどこに行ったか分からないけど……でも、きっと)
放課後。日向は人目につかない場所に移動してアプリを起動させた。場所を指定すると、前と同じように画面が青白く光りだす。
日向が指定した場所は、子犬が預けられた保健所だった。
人のいない場所に自動的に飛ばされる仕組みになっているようで、保健所の傍の木陰に日向は降り立つ。
「あれっ、日向!?いいのか?こっち来てて」
日向のはるか頭上から声が届く。見上げると、窓ガラスから施設の様子を伺っていたエレクと目が合った。
エレクはふよふよと高度を下げて日向の前に着地する。
「は、はい、今学校終わって……。エレクさんも、ここにいたんですね」
「今日で3日目だったろ?気になって来てたんだけど、ほらあれ見ろよ!」
エレクが保健所の入口を指さす。
犬用のキャリーバッグを持った男性とその妻と思わしき女性が職員となにやら話をしていた。
離れているため会話の詳細は聞き取れなかったが、どうやらその夫妻が子犬の里親となったようだった。職員は深々と頭を下げ、夫妻は穏やかな笑みを浮かべている。
「新しい飼い主、見つかったんだな!よかった」
「はい、本当に……。あ、あそこにいるのって……」
日向が職員の足元に目をやる。
日向達と初めに出会い捨て犬の居場所を伝えた浮遊霊の犬が、キャリーバッグと夫妻とを交互に見ている。やがてエレク達に気づくと、矢のように真っ直ぐ2人の方へと駆け寄ってきた。
「うお、こっち来た!」
犬はパタパタとしっぽを振りながら日向達の前に座り、1度短く吠える。その直後に犬の身体が淡く青い光に包まれて浮かび上がり、空の青に溶けていくように消えていった。
「……なんだか、お礼を言ってくれたみたいでしたね」
空を見上げたまま日向が呟く。
「だなー。今回も、日向がいなかったら解決しなかったぜ、ありがとな!」
エレクは曇りのない笑顔を日向に向ける。
「い、いえ私だけじゃ……!そうだ、公園で声をかけてくれた方にも、連絡しておかなくちゃですね……」
「よし、俺もまだまだ頑張らねーとな!」
♢ ♢ ♢
「―――うんうん、順調だねー!」
同時刻。霊界では、白いフードを被った銀髪の少年―――閻魔が宙に浮く水晶を眺めながら声を弾ませる。
「……だが、2人だけではペースは追いついてないのだろう?現世には浮遊霊より悪霊の数の方が多い」
黒いスーツをきっちりと着こなした背の高い女性が、後ろで一つ結びにされた長い茶の髪を揺らして閻魔の傍に立つ。
「うん、消滅させるのがエレクだけじゃさすがにねー!ボクは別に悪霊がいくらいなくなっても興味無いんだけど」
閻魔は頬杖をついて呟く。最後の一言はセリフを読むような少し冷ややかな声だった。
「まあ見ててよアル!もうすぐ面白いものが見れるからさ」
そう言って閻魔は先の出来事を見透かしたように目を細め、笑みを浮かべた。
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