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男たちが目指したのは、能無しと呼ばれる青年の暮らす部屋だった。
能無しと呼ばれる青年は、才能がないわけではない。ただ、彼の持つ能力に意味がなかったのだ。
正義を語る集団には、人の道を外れた能力を持つものが所属している。
ある者は何者をもねじ伏せる力を持ち、またある者は何者をも守れる力を持っている。そんなでたらめな能力をもっている者たちが集まったものが正義を語る集団なのだ。そんな中で、何の役にも立たないような能力を持つ青年がいた。なぜ自分には有益な能力が付かなかったのだろうかと彼は自分を呪ったが、彼の能力は変化することなどなかった。以来彼は、自分がうらやむ力を持つ者たちの中で、何の意味もない能力を持ちながら生活し続けてきた。
だが今日、そんな彼の能力が役に立とうとしている。
「こんにちは、能無し君。元気にしてた?」
白衣の男は目の前に座る青年に、明るく声をかけた。
「ハルキさん、緊急事態に指令が出歩いてていいんですか?本当の意味で、未知との遭遇なんでしょう?」
青年の言うように、白衣の男はこの集団の指令だ。集団を纏める指揮官が、こんな緊急時に持ち場を離れてうろうろしているなど責任問題になりかねないだろう。だがそれも、意味もなくうろうろしていたらだ。
「いいんだよ。今回は君に力を貸してもらおうと思ってね」
「エドウィン・ルーカス。お前のその”融合”で、あの化け物をどうにかしてこい!」
二人の男は口々にそういったが、言われた側の青年は困ったように眉を寄せるだけだった。
「どうにかって……あいかわらず適当ですね、ゴトウさんは。俺なんかでどうにかできるんですか?」
彼の力は”融合”というものだった。何らかのものを自分自身の一部として体内に取り入れ、それを自在に扱えるというものだが、一つ欠点がある。融合というだけあって、その何らかのものと自分自身が運命共同体になってしまうのだ。片方が傷つけば、もう片方も同じだけ傷つく。まして、傷が半減するわけでもない。
一人前に能力が扱えるものにとって、融合なんてものはただの足でまとい。いや、迷惑なだけなのだ。
だからこそ、彼を能無しと皆が呼ぶのだ。
「大丈夫だ。お前にどうにかできなかったら、誰にもどうにもできないからな。あきらめろ」
真面目そうな男は青年にそういうと、彼を化け物のもとへと運び届けた。