2(本編開始)
街に紫色の化け物が現れたのは昼過ぎだった。
なんの変哲もない昼下がりに、空へ向かってもくもくと紫の煙が立ち込めたのだ。
人々はなんだろうなと興味を抱きつつも、自分の知識の中にないそいつに対して大した感情を抱くことはなかった。
話題になるかもしれないからと写真に納めるものもいたが、それも一部の若者がほとんどで、日常から横目に見ているだけの者の方が多いくらいだった。
実を言うと、この街の住人たちは未知を見慣れているのだ。二日に一度は未知が湧き、その全ては街で暮らし正義を語る集団が解決しているのだ。
だから今回も、どうせいつものだろう。ぐらいにしか思わず、何事もなく日常を過ごしていた。
場所は変わって、正義を語る集団の基地では面白いことが話し合われていた。
あれはなんだろうか。
どこから沸いたのだろうか。
どうしたらいなくなるのだろうか。
いつもなら誰かしらが相手の情報を解析して、誰かしらが対応策を提案し、誰かしらが問題を解決しに行くというのに、今回ばかりはそのすべてがわからなかったのだ。
いやいや、そんなことはないだろうと何度調べ直しても同じ結果ばかりが出続ける。いやはやこれは大惨事だと慌て出した頃にはもうどうしようもなく、大きく膨れ上がった紫色の化け物は少し動いただけでも街を踏み尽くすような大きさに成長していた。
「これはもうまずいかもしれない」
誰かがこぼすように口にしたそれは、皆が心のうちに秘めていた言葉だった。誰にもどうしようもないそれは、なにもできない間にも成長を続ける。事態が深刻化した今、避難を呼び掛けてももう遅い。このまま化け物に踏み潰されてこの街ごと消え去ることしかできないのかと思った時だった
「倒せないのなら、倒さなければいいじゃないか!」
突然、白衣を着た男がそんなことを口にしたのだ。
いやいや、そんなことをしたらこの街は簡単におさらばしてしまうではないか。
「敵を目の前にして逃げるということですか?我々にそんな腰抜けになれと」
真面目そうな男は白衣の男にそう言及する。
「馬鹿か君は、こんな時にぴったりな子が一人いただろう。ほら、あの子だよ。能無し君」
「なるほど、その手があったか。彼の能力がどこまで通じるかはわからないが試してみる価値はあるかもしれないな」
そう言って、二人の男は一つの部屋を目指した。