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その勇者、盗賊につき  作者: かんな らね
6/14

第二章 2~3(1/2)

 2


 レヴィーが宿屋に戻ると、プリシラ達が丁度朝食を食べる為に階段を下りてきた。

「あれ? レヴィー出かけてたの?」

 朝から元気なプリシラが声をかけてくる。

「ああ、ちょっとな」

 盗賊ギルドの事は、盗賊以外にはなるべく話さない事になっているので、曖昧に答える。

「朝食は向かいの露店の割引券を貰ったぞ。セシル殿も呼んでくるが良い」

 冒険者としての経験が長いシェリーはそれを何となく察してくれたらしく、さり気なく話題を変えてくれた。

「なんだ、あいつまだ部屋に居るのか」

 急いで階段を駆け上がり部屋のドアを開ける。いつも通り片手で腕立て伏せをして、空いたほうの手で読書をしているセシルを呼びつける。

「お前、勉強か運動かどっちかにしろよ」

「同時にやった方が効率的じゃない?」

 どたどたと階段を下り、向かいの露店で朝食を取る。ずっとダブルトレーニングをしていたセシルは寝癖が付いていた筈なのに、女性陣の前に着いた時にはすっかりいつもの様に決まった格好になっていた。

「さっきまで寝起きの頭だったくせに!」

「ほら、レヴィー寝癖がついいるよ」

 納得いかずにレヴィーが文句を言うと、セシルがレヴィーのバンダナを直す。

「お前だってついてたくせに~」

「何、二人で仲良くしてるのよ! 早く食べるわよ!」

 プリシラに呼ばれて二人ともテーブルに着く。

 パンにたっぷりのバターを塗って、豚肉と大豆をトマトソースで煮込んだ具沢山のスープにつけて食べる。朝からボリューム満点だが、これから支度をして水の女神の洞窟に行くので、その前の腹ごしらえなのだ。

「美味しかったわ。店主、保存食は用意できる?」

 食事を終えると、プリシラが店主に声をかける。なかなか味が良かったので、朝食を取った露店で保存食も揃えるようだ。小麦で作ったパンよりは歯ごたえがあるが、旅に適しているライ麦パンとジャム。それに干し肉。あとは港町と言うこともあって、魚の干物。往復で余裕を持っても四、五日の行程の割りに食料が充実しているのは、みんな育ち盛りだからだろう。

「プリシラお嬢様とお友達から料金なんて貰えませんよ!」

 いざお会計と言う時に露店の主人が代金を受け取るのを遠慮して来た。すると、プリシラはにっこりと微笑み全員分の代金に足りる大きな単位の硬貨を主人にそっと握らせる。

「お嬢様!」

「折角美味しく頂いたのにそんな事言わないで。貴方は報酬に相応しい働きをしたわ。また食べにくるわ」

 露天の主人に語りかける姿はレヴィー達とわいわい騒いでいる時と違い、威厳に満ち溢れている。

「ははあ、有難き幸せ!」

 深々と頭を下げる主人にプリシラは軽く手を振り、露店を後にした。



「お前凄いな」

「え?」

 レヴィーが感心したようにプリシラに声をかける。

「やっぱり貴族なんだな~」

「貴族って括られるのはあまり好きではないわ。だけどその通りだし、その地位のお陰で衣食住に困らずに暮らしてこれたわ。貴族も家業の一つよ。街のみんなが暮らしやすくなるように頑張るのが領主の仕事だしね」

 プリシラがあんまり誇らしげに説明するので、レヴィーはつい疑問を口にしてしまう。

「だったら、大人しく結婚して家業を継げば良いじゃないか」

「結婚しなくても家業は継げるわ。それに私は領主になりたい訳じゃないわよ」

「そうなのか?」

「ええ、領主の家に生まれたから育ててもらっている間は家業の手伝いをするけど、独立して自分の人生を歩んだほうが楽しいじゃない」

 伸びをしながらプリシラが応える。

「......そういうものか」

「何よ、難しい顔しちゃって。さあ、荷物をまとめて洞窟に行きましょうよ」


「お待ちください!」


 突然背後から声をかけられた一行が驚いて振り返ると、そこには......。

「コンラッドさん、メガス!? それに何、この沢山のお供は?」

 プリシラが驚きの声を上げたとおり、コンラッドにメガス、それだけでは無く、二人の護衛なのか装備を固めた従者たちが五人ずつそれぞれに付いてる。

「オレたちも一緒に行くぞ」

「私の試練に貴方たちが付いてくる必要はありません」

 プリシラがキッパリ拒絶するが、メガスがプリシラの前に跪く。

「恐れながらお嬢様。私とコンラッド様の同行はヴィオレット伯爵のご意志です」

「お父様の......?」

「ええ。最初の婚約者候補であるこの私、それから近隣で一番お嬢様に相応しいお家柄のコンラッド様、それから昨日お嬢様がご指名されたそこの少年。成人の儀式を終えた暁には三人の中からお嬢様のご意志で婚約者を選んで良いとのことです。その為にもこの儀式で三人の内誰が一番お嬢様に相応しいのか、見極めて欲しいとのことです」

「......分かったわ」

 プリシラが困惑した顔で頷く。伯爵の意志ならば連れて行かないわけにもいかないのだろう。

「ただし、貴方たちと護衛を含めて十二人。それにレヴィーたちと私を加えて十七人。成人の儀式を行うにしてもあまりにも大人数過ぎます。私はレヴィーたちに護衛して貰いますから、貴方たちは少し距離を開けて付いてきてください」

「プリシラさん!」

「お嬢様?」

 コンラッドとメガスが声を上げる。

「そうじゃなければ試練にならないでしょ?」

 しかし、プリシラは澄ました表情で言い返す。

「......分かりました。ただし、そこの冒険者たちに任せられないと判断したら、直ぐに私たちが護衛しますからね」

「レヴィーたちはそんなに弱くないわよ!」

「それは自ずと分かるでしょう。それでは参りましょう」


 3


 プリシラが今にも走り出しそうな勢いで街の門をくぐり外へ出る。

 北の森への中を抜ける道は細い上に段差がある場所が幾つかある為、馬車での移動は難しい。馬で行く手段もあったのだが、こちらも道のせいで難しい上、そもそも成人の儀式では徒歩で森を抜ける決まりなので徒歩で移動することになった。コンラッドとメガスのパーティーも距離を開けて、後ろから徒歩で付いてきている。

 勿論、あの面倒な入出街も手続き済である。また例の無愛想な受付戦士に当たったのだが、彼はプリシラが手続きをする際も他のものと全く同じように無愛想に対応した。伯爵令嬢だからという理由で特別扱いされなかったのが嬉しかったのか、プリシラはすっかり上機嫌だ。

「走ると直ぐに疲れますよ~」

「大丈夫よ!」

 セシルが声をかけるがお構いなしで走り出す。

「俺も走るぞ~、ほら、パティも行こうぜ」

「え? え?」

 レヴィーとそれに釣られてパティも走り出す。

「お前まで悪乗りするなよ」

「鍛えてるから大丈夫だって」

 軽々と道を駆け抜けていく。

「やれやれ、おやシェリーさんは走らないのですか?」

 走り出す三人を呆れながら眺めるセシルは、隣で歩くシェリーに話しかける。

「直ぐにバテるだろう」

「レヴィーは鍛えていますからこの程度ではバテないと思いますけど」

「二言目にはレヴィー殿か」

 くすっとシェリーが微笑む。けれど、セシルはそちらを向かずに応える。

「ええ、僕はレヴィーを守る為に訓練したのですから」

「ほほぅ、興味深い話だ。しかしバテるのはレヴィー殿ではない。プリシラ殿がだ」

「ああ、成程」



「ぜいぜい......」

 シェリーの予想通りほど無くして、プリシラがわき腹を押さえながらしゃがみ込んでいる所へ全員が合流する。

「何だ、全然体力無いな」

「長距離走は......ぜーはー......苦手なのよ」

「プリシラお姉ちゃん、大丈夫ですか?」

「パティは全然息が切れてないじゃないか。大したもんだな」

 レヴィーが三角巾越しにパティの頭を軽く撫でる。するとパティはくすぐったそうに身をよじる。

「だって、ワタシは......あっ!」

「何だよ?」

「ワタシ、大切なことを言い忘れていましたのです」

 そう言って、ずっとつけっぱなしだった三角巾を外す。すると、くるくる天然パーマの赤毛の頭の上に可愛らしい丸い動物の耳がちょこんと生えている。

「パティちゃん。貴女、獣族だったの?」

 息を切らせていたプリシラも驚きを隠せずにいる。

「隠していてごめんなさい」

 パティがしゅんと謝る。丸い耳もすっかり寝てしまっている。


 獣族とは動物の力を強く受け継ぐ種族だ。魔法等の適性は低いが、身体能力がとても優れている。人狼が有名だが、猫や鷹等様々な動物の力を受け継ぐ者たちが居る。姿は人間とそれほど変わらないが、動物の形の耳や羽、角などが生えているのが特徴だ。

 獣族は数が少なく、街ではあまり見かけない。集落では暮らさないものが多いと言う事もあるが、警戒心が強く、自分が獣族だという事を隠して暮らすものも少なくない。それに地域によっては獣族だと分かると暮らしにくい場合もある。

 パティはその丸い耳の形からして虎族の様だ。虎族は獣族の中でも特に数の少ない種族の一つである。


「パティは三角巾して無いほうが可愛いぞ」

 レヴィーが、がしがしと頭を撫でる。

「ふにゃあ」

「虎族は誇り高き種族だと聞いている。お前もその名に恥じないように精進すればいいのだ」

 シェリーが頭を撫でられているパティに告げる。

「もしかして三角巾で耳を覆っていたから酒場で注文を間違えちゃったの?」

 プリシラが思い出した様に尋ねる。

「そうなのです。布で覆っていると良く聞こえないのです」

「では、僕たちの安全のためにも三角巾はしないで頂いたほうが良いですね」

「セシルさん......みなさん......」

 みんなにそう言われるとパティの瞳から数滴の涙が零れ落ちる。プリシラが抱きしめると、パティは大きな声で泣き出した。

「よしよし、今まで心細かったわね」

「うん......ぐずっ。群れからはぐれてこの街に着いたんですけど......ぐず。最初は耳のせいで色々言われて、それで隠すように......」

 しゃっくりをあげるパティの背中をトントンと優しく叩く。

「大丈夫、大丈夫よ」



 ひとしきり泣くとパティはすっきりとした顔をしてプリシラから離れた。

「えへへ。沢山泣いちゃった」

「もういいの?」

「うん! さあ、行きましょうです」

 途中で少し時間を取ってしまったが、大体予定の地点に着いた頃に日が暮れ始めたので野営の準備に取り掛かる。

 夜に森を歩くのはとても危険なので、早めに休むのが定石である。素早くテントを張り、夕飯の支度を始める。

 朝買った保存食を食べて交代で眠ることにする。

「私も見張りするわよ」

「プリシラさんは依頼主ですから、ゆっくり休んでいてください」

「私より小さいパティだって見張りをするのに、私だけ休んでいられないわよ」

 セシルが見張りをやんわり断ろうとするが、引き下がるつもりはないらしい。

「しかしですね......」

「それに、これは私の試練よ。のんびり寝てなんていられないわ」

「セシル、良いじゃないか。見張りもして貰おうぜ」

「レヴィー......」

 困った表情のセシルにレヴィーが耳打ちする。

「それに、俺たちの周りにはあの大人数パーティーがいるんだし、そんなに危険な夜の番にはならないさ」

「まぁ、それもそうだね」

 セシルも一応納得し、見張りはバランスを見て前衛のレヴィーとセシルが二交代制。プリシラ、パティ、シェリーが三交代制と言う事になった。

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