表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者、盗賊につき  作者: かんな らね
3/14

第一章 4~5

 4


 メガスたちが去って直ぐに、今度は騒ぎに気付いたセシルが宿屋から慌てて駆け寄ってくる。

「レヴィー、今の騒ぎはどうしたんだよ?」

「いや、それが......」

 何をどこから説明して良いのか分からないし、そもそもどちらかと言うと説明して欲しい状況なので、レヴィーは口ごもってしまう。

「あら、随分素敵な方ね。こっちにした方が良かったかしら」

 少女がセシルとレヴィーを見比べる。

「お前、助けてやったのに何てこと言うんだ!」

 言い返すレヴィーをセシルがぐいっと押しのけて少女と向かい合う。

「おや、美しい方ですね。もしや、うちの者が何か失礼でも致しましたか?」

「セシル、俺の事どういう目で見てるんだよ」

「そういう目でだよ」

 言い合うレヴィーとセシルの間で少女はくすくすと笑う。

「何も失礼なんてないわ。彼に私の婚......」

「プリシラお嬢様じゃないですか!」

 少女が言いかけた時、セシルに随分遅れて宿屋の店主が追いついてきた。通りを挟んでいる為、なかなかこちら側に渡って来れなかったようだ。

「あら、ヒュッテさん。お久しぶり。どう、繁盛している?」

 少女が店主に向かって話しかける。

「ええ、お蔭様で。では無くてですね、どうされたんですか? こんな街中に?」

 店主が尋ねると、少女が再びレヴィーの腕に絡みつく。レヴィーは左腕の柔らかい感触が気になってしまい、思わず顔を赤らめる。

「おい、あんまりくっつくなよ」

 しかし、少女はそんな言葉を軽く無視して店主とセシルの方を向きなおす。

「見てわかるでしょ。婚約者とデートしてるのよ」

 満面の笑みの少女。

「............」

「............」

 店主と隣にいたセシルの時が止まる。少しして、セシルが何とか止まっていた時を動かしてレヴィーに詰め寄る。

「レヴィー、お前どんなナンパしているんだい?」

 セシルがレヴィーのほっぺたを引っ張りながら尋ねる。

「いひゃい、いひゃいって! 俺だって意味がわかんね~よ! ってか、婚約も何も初対面だってば」

「なんですと?」

 店主が血相を変える。

「ご主人?」

 セシルがレヴィーを抓っている指を外しながら店主の方を向く。

「この方は、ヴィオレット伯爵家のプリシラお嬢様ですよ!」

「............」

「............」

 今度はレヴィーとセシルが無言になる。レヴィーがそーっと自分の腕を掴むプリシラへ目を向ける。

「えーと、お前......もしかして、今話題のお嬢様なのか?」

「ええ」

「じゃあ、さっきの奴らは何だったんだ?」

「話せば長くなるわ。場所を変えましょう」

 そこまで言うと、プリシラは両サイドに結んだ髪を揺らし、店主の方へ振り返る。

「あっ、ヒュッテさん。私と彼が初対面だという話は、くれぐれも内密にお願いしますね」

 プリシラが美しい微笑を店主へ向ける。しかし、美しいだけではなく有無を言わせない迫力が場を支配する。

「さてと、場所を変えるといっても、私も街に帰ってきたばかりでこの辺は詳しくないのよね。取り敢えず貴方たちに付いていくわ。適当に案内してくださる?」


 5


 トリンカー冒険者店はこの国で一番大きな冒険者協会の系列店だ。

 どうしても身元が不安定になりがちな冒険者の為に、冒険者証明書という形で身元証明証を発行する事が協会の一番大きな役割である。

 協会は幾つか有るが、活動自体はどこもそれ程変わらない。保障内容などが少しずつ違っているので、冒険者たちが自分に合った協会を選ぶ。

 協会は街や村などに冒険者の店を出す。中には繁盛している酒場に冒険者店の仕事を委託する場合も有る。基本的に一つの店では複数の協会を受け付けないが、辺境などではそうも言っていられないので、幾つもの協会から仕事を委託される場合もある。

 ハーフェンはこの地域では一番大きな都市なので、協会毎に冒険者の店がきちんと分かれている。レヴィー達はエールデ冒険者協会に所属している。

 暗黒時代に大魔王を倒した勇者エールデ=ノワールがたまたま所属していた協会だったので、大魔王を倒した後に協会名を今の名称に改名したらしい。勇者の名前が効いているのか、この国で最も所属員の多い協会だ。



「まだ夕方なのに混んでるな~」

 レヴィーが店内を見回し適当に空いている席を見つける。冒険者の店は大抵酒場も兼ねており、夜が一番の書き入れ時だ。しかし、流石に大都市だけあって夕方から既に客でいっぱいだ。

 騒がしい店内であったが、プリシラが入店した途端にざわめきが止む。全員の注目を一身に集めるが、プリシラは全く臆する様子も無く声を上げる。

「私は婚約者とその友人と食事に来ただけです。皆も構わず続けてください」

 すると店内の客達がプリシラを見るのを止めて、食事や商談を再開する。婚約者の存在が気になりチラチラと見るものもいるが、何故かその視線はセシルに集中しているようだ。

「ひゅう、流石」

 レヴィーが感心したように口笛を吹き店内に入る。

「案内される前に座っていいの?」

「案内されるまでここに居ても良いですけど、きっと随分待つことになりますよ?」

 心配そうにするプリシラにセシルが優しく声をかける。高級店では席に案内される前に勝手に座るなどマナー違反も良いところなのだが、大衆食堂や露店等ではそんなに悠長な事は言っていられない。

 ずかずかと店に入り空いているテーブル席に腰掛ける。テーブルや椅子は木製でどちらも丸い。席に座ると三角巾をした小さな女の子が三人分の水とメニューを運んできた。小柄なプリシラより更に小さい。まだ子供のようだ。

「メニューです」

「ああ、サンキュー」

 レヴィーが女の子からメニューを受け取りパラパラと捲る。

「エール酒三つ。......で良いよな?」

 一応プリシラに確認する。

「ええ」

「じゃあ、エール酒三つと、あと料理は三人分お勧めで。先に酒と摘みだけよろしく」

「本日のお勧めはイノシシのステーキですぅ」

「この辺はイノシシも獲れるのか」

「はいなのです。魚ばかりが注目されていますが、近くに豊かな森もあるので、肉や木の実も豊富なのです。イノシシのステーキもこの近くの森でとれる胡椒ドングリをスパイスにして焼きますです」

「お穣ちゃん随分詳しいんだな。じゃあ、それで頼む」

「えへへ。ありがとうございますです。まず急いでお酒とお摘みをお持ちしますです」

 女の子はとてとてとカウンターの中に戻り、直ぐにエール酒と白身魚と棒状のジャガイモを揚げた摘みを持ってきた。

「酒飲む時はまず乾杯だよな」

 そう言ってレヴィーがジョッキを持ち上げる。セシルも直ぐに同じようにするとプリシラも二人の真似をする。しかし、二人のように片手で持ち上げるにはジョッキは重すぎたらしく、両手で持ち上げる。

「じゃあ、かんぱーい!」

 グラスが軽快な音を立て飛沫が上がる。レヴィーとセシルは一気にジョッキの半分まで飲んでしまう。

「ぷはーっ! 美味い!」

「今日は暑かったし、格別だね」

 美味しそうにエール酒を飲む二人を見てプリシラも同じ勢いで飲み始めるが......。

「ごほっ」

「おい、大丈夫か?」

「結構苦いのね」

「そりゃあエール酒だしな。舌で味わうって言うより喉で飲むんだよ」

 こうするんだと言わんばかりにレヴィーは喉をゴクゴクと鳴らしながら飲んで見せるが、どうもプリシラにはピンと来ない様だ。

「喉?」

「そんな風に言っているけど、こいつだってつい最近まで苦くて飲めないって言ってたんですよ」

 偉そうにエール酒の飲み方を説明するレヴィーの横でセシルが微笑みながらプリシラに説明する。

「余計なこと言うなよ!」

「事実だし仕方ないね」

 レヴィーはムッとするが、セシルは慣れた様子で全く気にせず言い返す。それを見ていたプリシラが笑い出す。

「うふふ。貴方たち面白いわね」

 三人の笑い声が店内に響く。すっかりリラックスした様子のプリシラにセシルがさり気なく話を切り出す。

「さて、では今更ですが自己紹介をさせていただきますね。僕はセシル=ブラウ、年齢は十七。冒険者で主にファイターをしています。それからこっちは」

 と、レヴィーの方を見るので、ジョッキに残った酒を飲み干してからレヴィーが話を繋ぐ。

「レヴィーだ。レヴィー=シュバルツ、セシルとは幼馴染で同い年だ。冒険者で盗賊だ」

 紹介を聞いてプリシラはただでさえ大きな紫色の瞳を見開き二人を見比べる。

「全然同い年には見えないわね」

「うるせー」

「ははは、よく言われるんですよ」

「仕方ないじゃない、実際そう見えるんだから。それじゃあ最後は私ね。私はプリシラ=ヴィオレット。さっき宿屋の店主に紹介されてしまったけど、この街を治めているヴィオレット伯爵家の者よ。年齢は十六。貴方達より一つ年下ね」

「何だお前年下かよ。だったらもう少し年上を敬え!」

「年だけ取っていても偉くなんて無いわよ。それに一つしか違わないじゃないの」

「一つだって上は上だよな。なぁ、セシル」

 同意を求めるようにセシルの方を向くが、そんなレヴィーを鼻で笑う。

「じゃあ、お前より誕生日の早い僕を敬ってもらおうか?」

「くっ!」

「あはは、セシル君偉い!」

「光栄です」

「全く、どいつもこいつも......」

 すっかり不利になったレヴィーはこれ以上状況が悪化する前に話題を変えようと、揚げ物を摘みながら、その場に居なかったセシルに先ほどの出来事を説明する。



「では、先ほどの一行はプリシラさんの婚約者候補二人と、伯爵家の警備隊と、執事たちだったのですか?」

 セシルが呆れたように二人を見つめる。

「婚約者候補じゃないわ。あんな面白みの無い男とバカボンボンなんて。私は認めていないもの。だからレヴィーと婚約しているって宣言してやったわ」

「俺もお前との婚約なんて認めてないぞ!」

「まぁ、レヴィーの事はさて置き、二人から選ぶと言うお話だったんですか?」

「それが、違うのよ。お父様は最初、お気に入りで秘書のメガスを私の婚約者にしようとしていたの。今回の婚約発表もメガスとの予定だと聞いていたわ。だけど、家に連れ戻される直前に突然コンラッドが婚約者候補に名乗り出たらしいの」

「コンラッドさんと言うのは、どういった方なのですか?」

「トリロビーテ子爵家次期当主よ。トリロビーテ子爵家は東部地域の有力貴族よ。別に私と婚約なんてしなくても、充分将来が約束されているのに......」

 そう言ってプリシラがエール酒に口をつける。何となく雰囲気が暗くなってしまったので、セシルが次の話題へと移す。

「......それはそうと、自分で結婚相手を選ぶには成人の儀式をクリアする必要があるのですね」

「セシル~、俺を無視するな~」

「ほら、食事が届いたぞ」

 丁度食事と追加の酒が配膳される。

「うわっ、美味そうだな」

 邪険にされた事に気付かないレヴィーが、早速端から料理を食べ始める。だが直ぐにセシルが違和感を感じ、皿を数える。

「あれ? メインの皿が多いですね。すみません、これ多くないですか?」

 セシルが配膳をした小さな少女に確認をする。

「あっ、すみませんです。これはお隣のテーブルの方のでした」

 少女がペコリと頭を下げる。そさくさと間違えた料理を下げて隣の席へと移し、また頭を下げる。

「まぁ、よくある事さ」

 レヴィーが少女の背中を見ながら呟く。しかしその呟きには応えず、これ以上脱線しても仕方が無いので、セシルが眼鏡の位置を直しながら話を元に戻す。

「で、成人の儀式ですね。確かハーフェンでは近くの洞窟に行くことになっているんですよね」

「セシル君、詳しいのね」

「お前、すげーな」

「コホン、本来は街へ着く前に盗賊である誰かさんが調べておくことだと思うけどね」

「ちぇっ」

「と言っても僕もこの位しか知りませんが......」

 言いながらセシルも料理を口に運ぶ。プリシラがそんな二人を交互に見つめてから話し始める。

「セシル君の言う通り。この街では、成人の儀式として北の森を抜けた先にある水の洞窟に行って、水の女神様に祈りを捧げることになっているの」

「水の女神?」

 レヴィーが食事の手を止める。

「ええ、本当は成人の儀式は男の子が受けるものなんだけどね」

「ではどうしてプリシラさんが?」

「自分で将来を選ぶには女の子でも儀式を受ける必要があるの。私の場合は結婚相手を自分で選ぶので精一杯だけどね。だけど、意外と危険な儀式だから実際に受ける女の子は殆ど居ないわ。だから貴方たち、私の護衛になってくれない?」

「護衛?」

「うん、護衛を付けても良いことになっているから」

「残念ながら僕たちは......」

「受けてやるよ。さっき約束しちまったしな」

 セシルの言葉を遮りレヴィーが申し出を受けることにする。

「おい、レヴィー。僕たちは......」

「まあまあ、セシル。俺たちだって女神様に用事があるし、自分で選びたいって言うのに放っておけないだろ」

「......その自分で選んだ結果がお前なのが不思議で仕方ないんだけど......」

 セシルが小声でツッコミを入れるが、どうやら二人の耳には届かなかったようだ。

「ありがとう!」

 護衛を承諾されてプリシラが笑顔を向ける。

「確かに洞窟に行く必要は有るけど。プリシラさんは戦闘の心得は有るんですか? 僕たちが護衛といっても、最低限の心得が無いと森を抜けるのは厳しいと思いますよ」

「確かに私は冒険者ではないわ。だけど修道院にいて神聖魔法の訓練をしていたから。神聖魔法は基本的なものなら一通り使えるわ」

 その返答にセシルは驚きを隠せずに質問を続ける。

「まさか訓練を受けたんですか? 失礼ですが、花嫁修業だったのでは?」

「父はそのつもりで修道院に入れたんでしょうけど、訓練するなとは言われなかったしね」

「神聖魔法の訓練は特に厳しいと聞きますが......」

「確かに大変だったけど、別にしたくもない花嫁修業をするより、ずっと有意義だったわ」

「そりゃあ良いな。丁度、回復役もいないし、こっちも助かるな」

 レヴィーがそう言うとプリシラも頷く。そこでセシルが言葉を重ねる。

「それではこの話を引き受けるとして、依頼料はどうしますか?」

「そうね......正直、金銭感覚については自信がないの。レヴィーの言い値で良いわ」

「え? 俺?」

「ええ、婚約者ですもの。決めて頂戴」

 プリシラの申し出に納得したようにセシルが頷く。

「う~ん」

 もう婚約者云々は敢えて突っ込まず、レヴィーは少し悩んでからそっとセシルの方を見るが、セシルはニヤニヤしながら酒を飲んでいる。自分は口を出さないと言うことだろう。

「仕方ないな......依頼だし、無料って訳にもいかないからな......。三〇〇シャインでどうだ?」

 そう言うと、プリシラは酒場の壁に貼られている依頼チラシやメニューにさっと目をやり、納得したように頷く。

「良いわ」

 シャインとはこの国の通貨単位だ。目安としては働き始めたばかりの十五歳が一月小売業の弟子として働いて得られる給料が一五〇シャイン程度。都市によって税率は異なるが概ね税引き等されると手取りは一三〇シャイン程度になってしまう。因みにレヴィーたちの泊まっている宿は一人一泊五シャイン。今テーブルに並んでいる食事は酒代も含めて一人一.五シャイン程だ。

「プリシラさんも人が悪い。敢えて価格を設定させて僕たちを試しましたね」

「セシル君こそ買い被りすぎよ。私、お屋敷と修道院でしか暮らした経験が無いんですもの。本当に金銭感覚には自信がないの。勿論こういう食堂も初めてよ。沢山張り紙もしてあるし、賑やかね」

 プリシラはわざとらしくもう一度店内を見渡す。

 レヴィーの設定した三〇〇シャインは二人分の拘束時間を考えると、極めて妥当な価格だ。プリシラの経済力を推察すると安すぎる位かもしれない。



「やあ、盛り上がってるな」

 三人が談笑していると急にテーブルにジョッキが五つ乗せられる。

「あれ? 俺たち頼んでね~よ」

「これは俺の奢りさ」

 エプロンをした恰幅の良い男がニヤリと笑う。

「私は普通の客として来ただけなので、この様な心遣いは......」

「お嬢様ご心配なく。私が酒を振舞いたいのはこの兄ちゃん達です。お嬢様はそのお友達と言う事で、おまけで一杯プレゼントします」

 するとプリシラが笑顔で頷く。

「......そういう事なら有難くいただきます」

「おっちゃん、気前が良いな。お店の人か?」

「俺がこのトリンカー冒険者店のマスターのトリンカーだよ。お前達はレヴィー=シュバルツとセシル=ブラウだな。アップエルの冒険者店から連絡は受けていたぞ」

 マスターの言葉に二人は驚きを隠せない。

「よく、冒険者記録帳だけで僕たちだって分かりましたね」

「そりゃあ、この仕事を長くしているからな。大剣を背負ったつり目の盗賊とイケメン戦士の若者コンビってだけで直ぐに分かるさ」

 マスターが豪快に笑う。冒険者記録帳とは、冒険者が携帯している冒険者証明書と対になるものだ。

 まず冒険者になると、冒険者証明書と冒険者記録帳が作成される。二つの間に冒険者登録をした店の割印が押され、更に冒険者自身の割印かサインをする。冒険者記録帳はその冒険者の活動拠点となる都市の冒険者の店に届けられる。

 冒険者記録帳には今まで冒険者店を通して受けた依頼だけではなく、依頼主の許可を貰えば個人的に受けた依頼も記録する事が出来る。その内容に応じて次の依頼の難易度を調節される。言わばレベル台帳のような物なのだ。基本的に街を移動する時には世話になった冒険者店に次の行き先を伝えることになっている。

 勿論、伝えたからといって冒険者記録帳より冒険者の方が先に目的地に着いてしまうこともままある。そういった場合は取り急ぎ冒険者証明書でのみ本人確認をして記録を作り、冒険者記録帳が届いたらそれまでの成果を追記する。

 その他にも冒険者記録帳には登録している冒険者の外見的特長も詳しく記述されている。本人確認の為なのだが、以前とある冒険者が仕事中に大怪我をしてしまい数ヶ月休業していた際に休みすぎてかなり太ってしまい、仕事に復帰した際に違う人間だと思われたなんて話もあるから絶対的なものではない。あくまで目安として用いている。

 

 

「そんで、マスターは俺たちに何か用があるのか?」

 どこの冒険者店でも通常マスターはカウンターの中で冒険者の相手をしている。まだ本格的に込み合う時間では無いが、カウンターを出て一つのテーブルにつくのは珍しいのだ。

 レヴィーの質問にマスターは満足そうに微笑む。

「なかなかいい質問だ。流石に伝説の大盗賊レオン=シュバルツの孫だけあるな」

「マスター、じいちゃんの事知ってるのか?」

 レヴィーが目を見開く。シュバルツ姓は珍しいが、滅多に伝説の大盗賊の孫だとはばれないのだ。

「なんせレオン=シュバルツって言ったら、伝説の大盗賊だからな。知らない奴のほうが珍しいだろ。それに俺も駆け出しの頃ちょっと世話になった事があってな。で、恩返しの意味も込めて一つ頼みがあるんだが」

「でも、俺たち水の女神像の所に......」

「多分、その役にも立つぞ」

「どういう事だ?」

 すると、マスターの大きな体の後ろから小さな女の子が現れた。

「あれ? さっき配膳してくれた子じゃないか、この子がどうしたんだ?」

「実はこのパティをお前さん達のパーティーで引き取ってもらえないか?」

「へ? こんな小さな子をか?」

 十六、七のレヴィー達も冒険者としては十分に若いが、目の前に居るパティと呼ばれた女の子はそんな三人より更に若い。三角巾を被った髪ははっきりとした赤毛でかなり癖が強い。短く見えるが、まっすぐ伸ばせは肩までつくのかも知れない。瞳はきれいな金茶色で、様子を伺うようにレヴィー達を見つめている。

「確かにまだ子供だが、レンジャーとしてはなかなか優秀だぞ。実は半年ほど前にこの店で冒険者登録をしたんだが、ずっとどこのパーティーにも拾ってもらえなくてな。手持ちの金も尽きそうだって言うもんで、この酒場で働かせてたんだ。それに水の女神の洞窟は森の中だし、お前さんたちだってレンジャーは必要だろう」

「しかし......」

 セシルが困惑した表情でレヴィーに目をやる。しかし、レヴィーはその視線には応えずにパティに話しかける。

「お前、冒険に出たいのか?」

 まっすぐパティの瞳を見つめる。パティも瞬きすらせずにその視線に応える。

「......はい」

 エプロンを握り締めて力強く頷く。

「じゃあ、ついて来い」

 レヴィーが三角巾を締めたパティの頭を優しく撫でる。

「レヴィー! 僕たちにはこんな小さな女の子を養う余裕なんかないだろ?」

「ちゃんと働くもんな? パティ」

「はい!」

 パティが先ほどとは打って変わって明るい声で返事をする。

「パーティーの人数が増えたから、報酬はさっきの一.五倍の四五〇シャイン出すわ」

「プリシラさんまで......」

 セシルの心配を他所に場はすっかり新しい仲間を迎え入れて盛り上がってしまっている。

「......まぁ、レヴィーのやる事だし仕方ないな」

 ついに観念したのか、やれやれとセシルも食事を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ