プロローグ~第一章 1
こんにちは、かんならねと申します。
今日から新作をアップしていきます。
この作品も、前作同様、完成したものを5,000位で区切ってアップしていきます。
一応、毎日22時更新を予定しています。
今までの長編2作は宇宙モノとか時間モノでどちらかというと、SFチックだったんですが、この作品はコテコテのファンタジーです。
学生の頃は皆でTRPGなどをしてよく遊んだので、その時の楽しさを思い出しながら書きました。
良かったら、お付き合いくださいませ。
※10/28 文字化けと誤字脱字を修正しました
ほかの作品も見て貰えると、嬉しいです。
短編 1作 完結済み
長編 2作 完結済み(2016/10/15現在)
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プロローグ
世界が闇に覆われし時
七色に輝く勇者が現れ
光を取り戻すであろう
遙か昔からの言い伝え。
しかし、これはただの御伽噺ではない。
事実、三百年前に大魔王が復活した暗黒時代に、勇者とその仲間達が絶望から世界を救ったのだ。既に当時を知る者は生存していないが、各地に勇者の軌跡や伝説がその偉業を証明している。
大魔王が封印された今でも、大魔王の配下だった魔物達は絶滅していない。しかし、暗黒時代に比べ、その数は十分の一程度に減少したと冒険者の間では言われている。
冒険者とは依頼を受けて魔物を退治したり、遺跡発掘等を始めとして様々な事を請け負う者達を指す総称である。
剣や魔法に長け戦闘に強い者たちが冒険者の花形と言われているが、発掘調査に長けている者、歌の上手い者、実に様々な冒険者がいる。
暗黒時代に比べれば遙かに平和になり、冒険者の数もその頃に比べれば減少したが、一攫千金を狙い実力主義の世界に憧れる若者たちは今も後を絶たない。
これは、とある駆け出し冒険者たちの物語である。
第一章
1
「暑いぞ~。水くれ」
季節は過ごしやすかった春から夏へと変わりかけている。
朝はまだ涼しいのだが、日が昇ってくると途端に気温が上昇する。気温だけではなく日差しの強さが増してきているので、日陰の少ない街道を歩くのは特に辛い。
「レヴィーはガブ飲みし過ぎ。僕だって喉渇いているんだよ」
真っ直ぐな街道を二人の少年が歩いている。彼らは旅人や行商人ではない。旅人ならばもっと大人数で行動するし、行商人ならばもっと大荷物を抱えている。そのどちらでも無い彼らは冒険者である。
暗黒時代は傭兵に近い仕事が多かった冒険者達だったが、現在では魔物退治からペット探しまでこなす所謂、便利屋である。一つの街に住み着いて活動する者もいるし、彼らのように旅をするもの達も多い。
レヴィーと呼ばれた少年は、恨めしそうに並んで歩くもう一人の少年を見つめる。しかし、相手は無視を決め込んでいる。そんな様子が面白くなくて、レヴィーは道中抱えていた疑問を口にする。
「だからアップエルで護衛の仕事を護衛の仕事を受けてから、出発すれば良かったんだ。セシルの読み違いじゃないのか?」
レヴィーが頭の後ろで腕を組んでむくれると背負っている大剣がカシャンと音をたてる。少年が背負うにはあまりにも大きい剣だ。
レヴィーはこの歳十七で、身長は平均よりやや高いが、細身の体型のせいで小柄に見られやすい。体にフィットする盗賊特有の装備がそれを引き立てている。青味がかった黒髪をバンダナで結び、真っ黒な瞳はかなりの釣り目。その瞳には好奇心の強さが滲み出ている。
「あのなぁ......。この時期にアップエルから港町ハーフェンに行く人たちはなかなか居ないよ」
もう一人のセシルと呼ばれた少年が、無視を決め込むのを断念し、呆れたとばかりにため息を吐く。
セシルもレヴィーと同じ十七歳だ。しかし、平均よりかなり高い身長な上、落ち着いた物腰が相まって、いつもレヴィーより年上だと誤解されてしまう。......レヴィーが子供っぽいと言う可能性も否定できない。セシルは金に近い茶色の長髪を後ろで束ねている。顔立ちも大変整っており、街を歩けば女性達が振り返るほどだ。瞳の色は真っ青で銀縁の眼鏡をかけている。装備は軽装なレヴィーとは異なり、金属製の軽鎧を着込んで、背中の大きな袋には正式な装備の重鎧が仕舞ってある。流石にこの暑い中着る気にならなかったようだ。
「でもアップエルとハーフェンって相当交流があるって聞いたぜ」
「アップエルの名産は何か知ってる?」
突然セシルから問題を出され、レヴィーは一瞬戸惑う。しかし、直ぐについ先日まで滞在していた村の様子を思い出す。
「リンゴだ! 宿屋の女将さんが焼いてくれたリンゴパイは最高だったな~」
「涎、垂れてる。じゃあ、そのリンゴの収穫はいつ?」
「そりゃあ秋だろ。......あっそう言う事か」
ようやくセシルの言いたいことを理解したレヴィーが、手をポンと打つ。
「そう言うこと。村で唯一の売り物であるリンゴが採れた訳でも無いのに、わざわざハーフェンには行かないんだよ。定期的な仕入れとかの護衛は地元の冒険者に依頼するだろうしね」
先日まで二人が滞在していたアップエル村は、リンゴが名産の小さな村だった。秋になるとリンゴの買い付けで村も賑わうが、まだ初夏ということもあり旅人達も少なく、非常にのどかな様子であった。
数日はアップエル村で仕事を探したが、大した依頼も無く、護衛の当ても無かった。このままアップエル村に滞在して依頼を探しても赤字になってしまうので、次の目的地であるハーフェンに旅立ったのである。
冒険者たちが移動する際は、商人や旅人の護衛をして生活費を稼ぐ事が多い。目的地が別にあっても生活費を優先して回り道をする事も珍しくない。しかし、アップエル村と港町ハーフェンはそれ程離れてもいない為、最短ルートである街道を進む事にしたのだ。
「レヴィー」
ずっと同じ歩調だったセシルが突然足を止める。セシルが剣を抜こうとする前に、レヴィーは既にベルトに付けていた短剣を抜き構えていた。
「五人は居るな」
「流石」
その様子を確認してセシルは満足そうに笑みを浮かべる。
「出て来いよ」
レヴィーが茂みを睨みつけて言い放つ。
「いい勘してるじゃね~か」
茂みを掻き分ける音と共に男たちが姿を現す。頸が隠れる程長い髭を伸ばした男たちは、動物の皮で作られたベストを身に纏い、手には大きな斧や鉈を握っている。
「山賊か」
セシルも剣を抜き、構える。
「へっへっへ、ご明察だ」
「命まではとらね~から、金を置いてとっとと失せな」
山賊に囲まれた新米冒険者は仕事内容にも依るが、金目の物を渡して逃げる事が多い。新米冒険者よりも山賊たちの方が戦闘力で遥かに勝っているからだ。それに冒険者たちは基盤となる街に財産を保管しているので、その場で全てを渡しても破産するような事は滅多に無いのだ。逆に山賊たちも、良い金づるを無闇に殺したりはしない。とは言っても、命の保証は全くない。山賊の気分次第だ。
冒険者たちは、最初に山賊に出くわさない様に気をつける事を教わり、その次に上手に逃げる事を教えられる。それ程に手強い相手なのだ。
伝説の勇者が世界を救ってからは魔物たちの数も随分減ってしまい、冒険者が実際に戦闘する相手の多くは魔物では無く、同じ人族である。
「まだガキじゃね~か」
「こいつガキのくせに随分良い剣持ってるな」
五人の山賊に囲まれながらも、レヴィーたちは全く怯える素振りも見せない。
「お前らこそ、飲み物でも置いて失せろ。喉が渇いてしょうがないんだ」
この国では十五歳を過ぎると成人という事になっている。しかし世間では二十歳までは半人前扱いされ、十七歳のレヴィーとセシルも半人前真っ盛りである。若い冒険者も珍しくないが、大概はベテランの冒険者の弟子入りをするか、大人数のパーティーを組んでいる。若者二人のパーティーは非常に珍しく、山賊にとってはこの上ないほど良いカモなのだ。
「がはははは、ガキはいいねぇ。自分が弱いって事を知らないらしい」
レヴィーのふてぶてしい態度に、山賊たちは恐らく全然磨いていないであろう黄色い歯を見せながら豪快に笑いだす。
「世の中の厳しさを教えてやろうじゃないか! おい、野郎ども!」
立派な首飾りを下げた一番体格の良い親分と見られる山賊が声を上げる。
「おう!」
子分たちが一斉にレヴィーとセシルに飛び掛る。大柄な外見に似合わず山賊たちは四方から素早くレヴィーたちに切りかかる。
一斉に飛び掛ってきた為、一見すると逃げ場が無い。普通の新米冒険者ならば命を落としていたであろう。
「遅いな」
しかし、レヴィーはその隙間を縫う様に攻撃を躱す。
「何?」
「四方からの攻撃を躱しただと?」
「ん? ガキがいないぞ!」
「のわっ」
ある筈の手応えを得ることが出来ず山賊はバランスを崩す。すばやくレヴィーはその背後に回る。
「こっちだよ」
短剣の柄で首の後ろを強打して気を失わせる。
一方セシルは、
「剣を使う程ではありませんね」
攻撃を全て大きな盾で受け止めると、そのまま盾をぶつけて相手を倒していく。レヴィーたちは瞬く間に四人の子分たちを倒してしまった。おもむろにレヴィーが山賊の親分に目を向ける。そして素早く短剣で斬りかかる。
「ひっ!」
しかし、その短剣は山賊のベルトだけを鮮やかに切り落とした。
「流石、じいちゃんの短剣はよく切れるな。......さてと、まだやるか?」
レヴィーは八重歯を見せながら不敵に笑う。
「僕たちは別に、金目の物を全部置いていけとは言いませんよ。程ほどのお金と水があれば今の事は忘れてあげますよ。それとも、警備隊まで連行されたいですか?」
そして隣で微笑むセシル。穏やかな笑顔だが剣の柄に手をかけている。何時でも切り込める間合いだ。
「あわわわわ」
言葉にならない声を発し、山賊の親分はベルトと共に地面へ落ちた袋を二つレヴィーたちに投げる。セシルの方が袋に近かったので、それを拾い上げる。するとセシルは剣から手を離し、山賊に微笑みかける。
「じゃあ、僕たちは行きますね。あんまり若者を甘く見ると痛い目を見ますよ。今後は気をつけてくださいね」
軽やかな足取りで去っていく二人。
「で、レヴィーは中身を見なくて良いのかい?」
「必要ないな」
そう言うと、ポケットから赤い宝石のついた首飾りを取り出す。
「さては、ベルトを切った時だね」
「へっへっへ、そう言う事。ベルトを切ったのは注意を逸らすためで、本当の狙いはこっちさ。だって、こっちの方が財布の中身より価値がありそうだろ?」
「それもそうだね。じゃあ、この袋はどちらも僕が貰って良いかな?」
「でも、そんなに金なんて無いだろ?」
レヴィーが不思議そうに尋ねると、セシルが意地悪く微笑む。
「一つは水袋だよ」
「ちょっ! 待てよセシル! 走るな! 喉が渇くだろうが!」
街道には山賊たちだけが残された。