第一回 ミサイル、落ちちゃいました
はじめまして、まひるです。
少しずつアップしていきますね。応援よろしくお願いいたします。
コメント、メッセージ大歓迎です。「なろう」の仕組みがまだよくわかっていないので、これから覚えます!
--んなわけないだろ。
目の前に広がる光景に、僕は息をのんだ。
だって、ほんの十五分前、僕は兄のフータに連れられて、郊外の巨大なホームセンターに来たばかりだったんだ。これまた、端から端まで歩くのに小一時間かかりそうな、でっかい駐車場に車を停めて、ホームセンターのシンプルかつ機能的な建物に歩いていった。建物はちょっと、ガラス張りの宇宙船みたいでもあった。
「引っ越し先の家具なんか、向こうで探せばええやん」
僕はフータの後ろから、ぶうぶうと文句を言いながらくっついていった。
「この店に、ええ感じのクッションがあってんて。柄がめっちゃええねん。ここでちょう待っときや、ケント。探してくるから」
フータはこの春から九州の私立大学に進学することになっていて、ワンルームマンションで優雅にひとり暮らしをするのだそうだ。
そんな金はうちにはないとか、ひとりで住むなんてぜいたくだとか、仕送りなんてできないからバイトばっかりで結局卒業できないぞとか、両親がそろって猛反対していたけれど、僕だけは喜んでいた。
ワンルームでひとり暮らしなんてかっこいいし--だいいち、フータが出て行けば、うちの狭い子ども部屋を、僕がひとり占めできるじゃないか!
お気に入りのクッションを探しもとめて、エスカレーターで上の階に消えた兄を見送った。ええ感じのクッションねえ、と僕はフータの後ろ姿を見上げながら思う。
フータはこだわる性格だ。服装だって、自分が気に入ったものしか絶対に着ない。今だって、チェックのシャツなんだけど、色はピンクだ。
うん、ピンク。それもショッキングピンク。
それにブラックデニムのスリムパンツに、スニーカーはオレンジだ。
アタマ変だろ!?
まあ、弟の僕が言うのもなんだけど、顔はそこそこイケてるから、何を着てもそれなりにサマになるのはうらやましいんだけど。
フータの姿が消えたので、さてどこに行こうかなと僕はフロアを見渡した。たしか一階に、ゲームコーナーがあったはず。あそこでしばらく、ゾンビを撃つゲームをやっていても、それほどお金はかからないはず。
ゲームコーナーに歩きだしたとき、それは起きた。
じ、地震!?
揺れてる。最初は軽い揺れだったのが、しだいに大きくなって、立っていられなくなり、僕は床にうずくまった。頭上に照明器具があって、落ちてきそうで怖かったので、這うように身体の位置をずらしながらだ。
ドーンという、激しい爆発音も聞こえた。何の音だろう。周囲で悲鳴が上がる。みんな同じように身体を低くして、逃げ場を探している。売り場のスチール棚がぐらぐら揺れて、商品が棚から飛び出すものだから、あちこちでガラスや陶器が割れる音がしている。
何が起きているのかわからない。
ひょっとして、来る、来る、と言われていた南海トラフ地震が、ついに発生したんだろうか。震源はどこだろう。
地球の終わりかと思うくらい、長い時間が過ぎて、僕はようやく揺れがおさまったことに気づいた。なにしろ、あんまり揺れたものだから、今もゆらゆら感じるのは本当に地面が揺れているのか、それとも僕が揺れているのか、もはやわからなくなってきたのだ。
出入り口の近くにいた人たちから、建物の外に飛び出しはじめていた。停電したらしく、自動ドアは自動ではなくなっていて、男の人が手でガラス戸を引き開けようとしている。
「逃げろ!」
「建物の中にいると危ないぞ!」
そんな声を聞いて、僕も脱出しようと思った。もしもう一度、大きい揺れが来たら、周囲の棚が今度こそ倒れそうだ。みんな、声につられるように、出入り口に押し寄せていた。まだパニックにはなっていない。店員さんたちが、「落ち着いて、ゆっくり外へ」と呼びかけている。
--フータも、すぐに降りてくるよな。
こんな際だが、いちおう兄のことを気づかいながら、僕はみんなの波にまぎれこんで、ゆっくりと建物の外に出た。
ホームセンターの外も揺れたようで、街灯が折れて倒れていたり、街路樹の枝が落ちていたりするのを見ながら、僕らは呆然と駐車場の空いたスペースで立ち尽くしていた。周囲には、似たような郊外の大型スーパーや、ドラッグストアが並ぶ地域だ。みんな、それほど大きな被害を受けているようには見えない。少なくとも、外から見たかぎりでは。
僕はスマホを出して、ニュースが流れていないかとラインやツイッターを眺めた。何もない。
何もないって変だろう。あれだけ大きな揺れだったのに。
何も書き込みがないことが、よけいに不安を煽った。
「あれを見ろ!」
ふいに、誰かが叫んだ。男の人の声だったけど、なんというか裏返っちゃって、悲鳴のようにも聞こえた。
僕は声に誘われるように、彼が指さす方向に目をやった。
「………」
誰も、声を出すものはなかった。息をのみ、ただもう、そちらに見える光景に、ぽかんと口を開けて呆然としている。
街が消えている。
消えている、というのは正確じゃない。真っ黒な焼け跡、いわゆる焦土というものに、なり果てているのだ。
--う、嘘だろ。
だってそっちの方向には、僕らの自宅もあるのだ。両親は今日、仕事に出かけているからそこにはいないが、それでも母親の勤め先の薬局は、すぐ近くにある。
自分が見たものが信じられない、いや信じたくない。
さっきのあれは、いったい何だったのだ? 普通の地震ではなかったのか? だって、地震が起きたって、こんな一瞬で、街ひとつが焼け跡に化すなんてこと、あるはずがない。
呻き声ひとつ出せず、まばたきもできず、ただ僕が焼け跡を凝視していたとき。
ヒュルルルルル、という音を聞いて、僕は空を見上げた。何かが白い航跡を残しながら、こちらに向かっている。あれは--あれはひょっとして--ミサイルとかいうものですか?
悲鳴をあげることもできなかった。なんだか、全身がしびれたような感覚になっていた。
それがホームセンターの建物めがけてまっすぐ飛んでいき、その屋根を突き破って落ちた瞬間、すさまじい轟音とともに、爆風と真っ白な煙が僕を吹き飛ばした。
僕が覚えているのは、そこまでだ。
そのまま、僕は意識を失った。
あとは、暗闇。
(つづく)




