王女様、王子様、父上
「…なんだか、今日の父上は顔色が悪かったような気がするわ」
朝食を終えて部屋に戻るや否や、クルル様は神妙な面持ちでふうっとため息をつきながらソファーに腰をかけたので目線を合わせるように私も膝を着いた。
クルル様のお父上とは、もちろん国王陛下の事である。威厳のある風貌で、いつも国の為にと尽力されているそれはそれはお偉いお方であるが、妻の王妃様と娘の王女様には激甘な所は見た者しか知らないだろう。
そこにはいつも、私には無い"家族愛"があった。
「クルル様、確認をとって参りましょうか?」
「うーん…心労かしらね?父上はいつも働きすぎだから…今度お兄様に相談してみる。」
お兄様、クルル様の二つ年の上のラルフ王子は国王陛下に似て顔立ちも気だても良い、時期国王に相応しいお方である。
コンコン!と扉をノックする音に瞬時にクルル様の前に行き身を構える。
入室許可を確認した侍女が扉を開くと、今クルル様のお話に出たばかりのラルフ王子が入ってきた。
「クルル、ちょっといいか?…少し、二人で話がしたい。頼めるかナナ」
「はっ!」
侍女へ退室するように声をかけ、自分は己の存在を消すように暗闇と同化し、誰にも会話が聞かれないよう周りに気配が無いか警戒する
それを確認したラルフ王子はいつも凛々しくある表情を剥がし、家族の前だけに見せる顔へと変わった。
「お前も…もう20歳だな。そろそろ…なんだ、いや、別に急いで嫁に行く必要もないが、どうなんだ?アルベール殿とは」
「そんな事よりお兄様!!今日の父上の様子をご覧になりまして!?ちょっと働きすぎなんじゃありません事!?」
「そんな事よりって……。あのな、父上はお前がいつ嫁に行くのかと心配しておられたよ」
そんな二人を視界に入れながら、こんなにも家族を想い合う人たちが国の中心に居る事がこの国の豊かさの象徴だと思えてならなかった。
そしてそんな方々の側で生きている。この命を尽くす事ができる。これが私の幸せだと思った。
——数日後、国王陛下がお倒れになる事で
そのすべてが壊れてしまう事を
この時の私はまだ知らない。