その2
「ただいま帰りました……」
卓球場から100mほどの寮。
そこに私は暮らしていた。
それなりの実力を持った卓球プレイヤーのみ入れることもあり、とてもキレイな寮となっている。
入れる人数は6人、と聞けばいかに特別かは明らかだろう。
団体戦メンバーしか入れないのだ。
「お疲れさん。6時間。相変わらず無茶してんなー。なんていうか……アホ?」
時計を確認した後、にへらと気の抜けそうな笑顔を向けてきたのは、一つ上の二野先輩だ。
腰までの長い髪の毛に、凛とした顔立ち、けれど丸眼鏡な上目が小さく、美しい顔とは言えない。
ちなみにシェーク使いで中陣ドライブ型だ。
「アホじゃないですよ!もう。先輩こそギフトないのに練習量少なくないですか」
少し苛立っていたのもあって、強めに嫌みな返答をしてしまう。
けれど、この先輩のことだ。
少しも堪えはしないだろう。
「『ギフト』……あ、才能のことか。そりゃあそんなん私にはないけど、別に困りゃしないしなー。便利そうだけどな」
少し悩んだ顔を浮かべる。
けれどそれもつかの間、また気の抜けた笑顔に戻り、笑顔で地雷を踏み抜くようなことを口走った。
「なんだ、また負け越したんか?」
流石に頭にき、タオルで汗を拭いていた手がとまる。
「『また』じゃないです!勝ち越してるほうが多いですから!もう、先風呂頂いちゃいますからね!」
拭いていたタオルを洗濯物いれに投げ込んで、すぐに着替えの支度を行い出す。
その様子を見てか、二野先輩もクローゼットを開け、着替えの準備をし始めた。
「何付き合い悪いなー。先風呂といわず一緒に入ろうぜー」
「くるなら勝手にしてください」
「とか言いつつ、眼鏡外した私の顔を拝みたかったり?」
「私、好きな男性いるんで」
「美形を拝むのと、異性を意識するのは別もんだぜー」
「知りませんよ。て言うかそんなこと言うなら、いい加減コンタクトレンズにしたらどうですか?確かに目、ほんとは大きいんですし」
「レアだからいいんだろー。眼鏡によって小さく見える目、はずすとそこには美女が……!ってな」
「私にとってはレアじゃないですからわかりません。風呂上がりから就寝まで、いつも眼鏡ないじゃないですか」
「ちなみにコンタクトレンズで卓球すると、強くなるぜ」
「どんな現象ですか」
「信じるか信じないかは閑菜次第だぜ」
そう下らない会話を終えると、先輩がさてと立ち上がる。
支度を終えたようだ。
私もすぐに、準備していた着替えなどを持ち上げると、部屋の鍵を持って外へ出た。
「早く部屋出てください。鍵、閉めちゃいますよ」
おーう今いくー、と返答が聞こえ、そそくさと二野先輩が部屋から出ようという行動が見てとれた。
ふと、寮の出入り口から見える外をみると、いつもと代わり映えのない夕焼けが、キレイに映り込んでいた。