こいつらいつも何かを思い出したりしてるな
―思い出した。
私立成浪学園二年五組の教室で
クラスメイトの一人がそう呟いたのを有馬信行は見て思った。
―またか、こいつらいつも何かを思い出したりしてるな……。
最近何かと不思議なことが多い気がする。
サッカー部のキャプテンだった鈴木が突然剣道部に電撃移籍したと思ったら破竹の勢いで勝ち上がっていったとか。
クラス一の金持ちの娘で高飛車だった榊原が最近妙に優しくなったとか。
ちょっと天然入ってた三上がやたらおばさん臭く溜息を付くようになったとか。
デブオタだった安河内が急にムキムキになって女にモテ始めたとか。
担任のハゲ島…もうハゲじゃないか、フサフサになって…犬耳が付いたとか。
世間もなんだか凄い。
最近トラックでの人身事故が頻繁に報道されている。トラックの運ちゃんは大変そうだ。
他にも突然首相が海賊王になるとかナントカって言いだして解散した。
そういえば今日は世界初の家庭用VRゲーム機の発売日だっけ…?
突然ゲームハード業界に参入したその販売元の会社は、元は千葉の落花生農家らしい。しかも社長超若い。
はぁ、と天才と凡人の差を世知辛いなと思った後、またクラスに目を向ける。
斜め前の横田は虚空に目を走らせながら、空中に指を走らせている。まるでそこに何かあるように。
キモいぞお前。いまさら厨二病か?
塚本はシュークリームを鞄から出して食べている。
……待てその鞄、シュークリームしか入ってないのか?
コイツはさっきから何個食べてるんだ?
クラス一のバカと言われた相田も一週間くらい前から急に本を読み始めた。
それもひどく分厚い専門書のようなものを。
それ何処に売ってるんだ?図書館くらいしか置いてないだろそんな本。
……そういえばこいつも「思い出した」って言ってたな。
さて、そろそろホームルームだ。不良で威張り腐っている八木も素直に席に付いている。態度は悪いが。
いつもパシられてた小川も一週間くらい休んだ後、戻ってきた。ちょっと雰囲気変わったかな?
チャイムの音とともにハゲ島…陰島が入ってきた。ホームルームの始まりだ。
そんな時、ふと床が光ったような、気がした。
続かない。