2話(3)
「そうそう、さっきこれ預かってたのよ。二人ともつけて」
カオがそう言いながら取り出したのは親指の爪くらいの大きさの機械だった。
「無線機よ。一つは耳に、もう一つはこのバンドで喉の辺りにつけておいて。一度つけたら多少の衝撃じゃとれないようになってるらしいわ」
「これでいいのか?」
「いいんじゃない?シグも」
「・・・・・・」
「じゃ、私は屋上に上がるわ。下の方は任せたわよ」
カオはそう言って階段へ走った。
「シグ、どうする?」
ハルが訊く。
「・・・外を、食い止める。救助は任せた」
「了解、外に要救助者いたら校内に誘導してくれよ」
シグはそれに頷きで返し外へ向かった。
「さて、俺は校内一回りすっかな。まあ誰もいないだろうけどさ」
ハルはそう呟いて近くの教室のドアを開けた。
「・・・いたし」
そう呟いたハルが見ていたのは机に突っ伏して寝ている一人の生徒だった。
この騒ぎも我関せずと寝ていたらしい。
近づいても起きる気配がない。
「おーい、起きてー」
ハルはのんきな口調で言いながら生徒の肩を揺さぶった。
「・・・ふぇ?」
やっと起きた生徒はからっぽの教室と見知らぬ男子を見た。
「何かあったんです?」
まだなんとなく寝ぼけているようだ。
「なんか緊急事態だってさ。みんな体育館集まってるよ」
ハルは少しあきれながら、しかしその様子を顔に出さずに言った。
「あ、そうなんですか。爆睡してたので気がつきませんでした。えっと、体育館行けばいいんですよね?」
やっとちゃんと起きたようだ。
寝ぼけていなければ割としっかりした子らしい。
「そうそう。外危ないしついてくよ」
「あ、そういうのはいいです。なんとかなると思うので」
その生徒はハルの気遣いを蹴って立ち上がった。
「起こしてもらってありがとうございました」
そう言って一人で教室を出て行った。
その際に外の様子もちらりと見たようだったがそのことにはなんの興味も示さなかったようだ。
「・・・大丈夫かな?まあ体育館まで行くのに外出ないし大丈夫か。というか落ち着きすぎだろ、あの子」
ハルはそう呟いてその教室を後にした。