2話(2)
窓の外には長身数メートルか数十メートルある黒い人型のモノがうごめいていた。
数は十数体といったところか。
教室内で慌てた反応をしなかったのは二人だけだった。
一人は「まじで来ちゃったのか」と呟きながら頭を抱えた遙斗。
そしてもう一人はいつもと変わらない無表情で席すら立たずに外を眺めた小夜だ。
驚きで静まりかえった教室に放送の声が響いた。
『緊急事態が発生しました。生徒及び教師の皆さんは全員体育館へ集まってください。落ち着いて、くれぐれも注意して移動してください』
静かになったのは一瞬だけだった。
放送の瞬間静まり返った教室はすぐに声の渦が巻き起こる。
混乱した状況の中でもなんとか落ち着きを取り戻した数人の発言で移動を始めた。
「どうする?一応体育館のほうに行くか?」
そんな中遥斗は小夜に声をかけた。小夜は頷く。
「そうだな、多分責任者の人も体育館にいるだろうしな。そこで指示仰ごう」
遥斗はそう言って先に行った友人を追いかけた。
小夜は周りのペースに合わせてそこまで速くないスピードで進んだ。
体育館の入り口には保健教師が立っていて、生徒を誘導していた。
その後ろには落ち着いた表情をした中等部の女子生徒の姿がある。
「遅い」
その女子生徒は開口一番にそう言った。そして続ける。
「シグは?」
遙斗は答える。
「悪い、なかなか混んでて動けなかったんだ。小夜っちはもうすぐ来ると思う。香ちゃんは行動速すぎだ、まあいいことだろうけど」
香、と呼ばれた女子生徒は少し顔をしかめた。
「あんたたちがマイペースなだけでしょ?それと、何度も言ってるけどその呼び方やめて」
「高等部の方が遠いって一応言い訳させてもらうよ、カオ」
遙斗は名前を言い直した。そうこうしている間に人の流れは薄くなってきた。
「揃ってるわね」
保健教師が声をかけた。
「いやまだ・・・」
そう言いかけた二人の後ろにはいつのまにか小夜が立っている。
「うわ、いつのまに」
「もうちょっと存在感出しといてっていつも言ってるでしょ?あんまり驚かせないでよ」
二人は同時に言った。
「つづけていい?」
そんな三人を見ながら保健教師は笑顔で言った。
「状況は見た通りよ。魔物の封印が解けてしまったみたい。地上で暴れ始めてる。あなたたちには生存者の捜索と救出、それからこれは出来ればでいいんだけど魔物についての情報集め。これをやってもらいたいの」
その問いに、三者三様の答えで返す。
「(コクリ)・・・・・・」
「りょーかい!」
「わかったわ」
「じゃあ点呼のほうはこっちでごまかしておくから今すぐお願いね」
保健教師はそう言って生徒誘導に戻った。
「じゃ、行きますか!」
遙斗がそう言い、三人は元来た道を逆走した。