2話(1)
「珍しいな。小夜っち教室にいるじゃん」
その日、教室に入った遙斗はそう呟いた。
小夜は窓際の後ろという絶好の席で本を読んでいる。
「あ!松野君おはよー。今日は早いんだね?いつもぎりぎりにしか来ないのに」
話かけてきたのはクラスメイトの女子。
「ああ、今日はなんか早起きしちゃったんだよ」
「珍しいね。今日昔の魔物でも出てくるんじゃない?」
クラスメイトの女子はふざけた様子で言った。
たまに使われるジョークだ。
槍でも降るんじゃないか、みたいなものと同じような意味で使われる。
その言葉に遙斗の顔が曇ったのには気がつかない。
ついでに本を読んでいた小夜が顔を上げてこちらを見たことにも。
「・・・・・・」
「やだな、冗談だよ?そんなマジにならないで?」
黙った遙斗の表情に気づいた女子は慌てて言った。
「っと、そんなの本気にすると思うか?それって歴史の授業で言ってた魔物伝説の話だろ?」
「そうだよ。なんかその話だけは真面目に聞いてたんだよね、ほかのことは聞き流しちゃってたけど。あれ?でもその話の時松野君寝てなかった?」
「そうかもな。授業のことは全く覚えてない。まあ魔物伝説の話は他のとこで聞いたことあるんだよ。・・・それよりさ、呼んでないか?」
遙斗はドアを示した。そこにはクラスメイトの女子が数人集まって話している。
「あ、ほんとだ。じゃあまたね、松野君」
話していた女子はそう言って小走りで集団の中に入っていくそれを見送った遙斗はため息をつきながら自分の席、窓から二列目の後ろ、つまり小夜の隣に座った。
そして隣を向きながら言った。
「おはよ、小夜っち。今日は身体いいの?」
小夜はちらりと遙斗のほうを向き、小さく頷いた。
「そっか」
そのとき二人が言葉を交わしたのはそれだけだった。
そして何の問題もなく平凡な時間が流れた。
身体が弱いということであまり教室に姿を現さない小夜と、それを珍しそうに眺める視線以外はいつもの日常だ。
それが破られたのはお昼過ぎ。
昼休みが終わってだらけきった五限目の半ばくらいのことだった。
授業中なのに寝ている人も結構いる。
教壇に立っている教師が「ここテストに出るぞ」というお決まりの文句を言って寝ている人をやんわりと起こしていた。
突然校舎が、というより地面が大きく揺れた。
棚に置いてある物は全て飛び出し、板書をしていた教師はバランスを崩ししゃがみ込み、机に突っ伏して寝ていた生徒は何事かと飛び起きた。そして状況を理解できすにざわめき出す。
「何あれ!」
窓際の席の女子が外を見て悲鳴のような声を上げた。
「なんだ?」
「なんかあんのか?」
クラスの全員が口々に言いながら窓へと集まる。そして全員言葉を失った。