そのころのアイリス
本日5話目の更新です。
ヤマトと別れたアイリスは昼食を済ませた後、城の訓練所に向かっていた。城の訓練所は室内と外の二ヵ所あり、アイリスは室内の訓練所の扉を開ける。
「お姉様!!来てくださったんですね。わたくし嬉しいです!!」
アイリスが扉を開けると出迎える者がいた。アイリスよりも頭1つ低い身長で、桃色のふわふわした髪を、頭の両脇に赤色のリボンでまとめてツインテールにしている。
顔は小さく細い眉に大きめの目で鼻も口も小さく可愛らしいが、その目尻は上がっており、つり目に加えてリボンと同じ様な赤い瞳は本人の気性の荒さを表していた。が、今は憧れの人を目の前にして、ニコニコと笑っている。
グレンダ・ヴァン・フレイム、王都の近衛騎士副隊長にして、アイリス・フォン・エイリル・グローリア・カリスタ・ソードブレイク近衛騎士隊長の部下である。
「すまない。待たせたみたいだな」
「いいえ。わたくしがお願いしたのですから。早く来るのは当然ですわ」
先日、アイリスは非番の日をグレンダに教えると、グレンダはその日の昼以降は仕事が無く暇だから、アイリスに剣の指導を頼んだのだ。それを快く了承したアイリスだった。
しかし、真実はアイリスの非番を知ったグレンダは仕事を前倒しで片付け、何とかその日の昼頃の時間を捻出したのだった。後は、それとなくアイリスの非番の日を聞き出し、2人きりになるべくその時間は使われていない屋内の訓練所で剣の指導を頼んだのだ。
仕事が早く、戦闘能力も軍の中でトップクラス。その才能から若干24歳とアイリスと同じ年齢で近衛騎士の副隊長に任命されたのだが
(これでこの後は夕陽の鐘が鳴るまでお姉様と2人きり。お姉様に手取り足取り・・・・・・ぐふっ)
これである。
仕事はできる上にアイリスが関わってなければ、口は少々悪いが面倒見も良い。しかし、このアイリス絶対主義は周りからすこーし引かれている。
そんな事があったことすら知らずアイリスはグレンダの身長を見て、先程まで一緒にいた友人になったばっかりの男を思い出す。
(そういえば、ヤマトはグレンダよりも背が低いのだな。私とヤマトをたして割ればちょうどグレンダ位か?)
そんなアイリスを見てグレンダは微妙な変化を感じとる。
「どうしました?お姉様。午前中は何か良いことがありましたか?」
「わかるか?友人ができたんだ」
そんな事を言いながら、普段はあまり見せない素の笑顔をしているアイリスを見て、グレンダの心がささくれだす。
「・・・・・・女性の方ですよね?」
「男だぞ」
ビシッ
グレンダの笑顔にヒビが入る。
「お姉様。わたくし、その殿方のご友人の話しが詳しく聞きたいです」
「うん?ああ、良いぞ」
アイリスはヤマトと友人になった経緯を話す。が記憶喪失である事は伏せた。少しだが話していて高い教養があるのが垣間見えた。だが常識が無さすぎる。記憶喪失とはそんな都合のいい物だろうか?とアイリスは疑問に思った。
赤ん坊の頃に捨てられてた所を世捨て人にでも育てられたのだろうか?そして、あの顔の傷は魔物によって付けられたものではない。明らかに人の手で付けられた傷だ。幼少から過酷な道を歩んで来たであろう男はこちらの意をくんで友人となってくれた。見た目はともかく年相応の大人だと思えば、好奇心に目を輝かせて王都の街並みを眺めている姿は見た目通りの子供に見えてしまった。
大人で子供な不思議な友人の姿を思い出すと、アイリスから自然と笑みがこぼれる。
アイリスのそんな笑顔を今まで見たことが無かったグレンダは
(わ、わ、わ、わたくしのお姉様が・・・・・・・・・・・・・・・絶対にその男の化けの皮を剥いで二度とお姉様に近づかせるものですか!!!!)
心の中で血の涙を流しながら、怒りの炎を燃やしていた。
グレンダがアレな決意をしている横で
(そういえば、ヤマトにステータスのメモについて教えてなかったな。今度あった時に教えなくては)
アイリスはわりと天然だった。
こうしてヤマトは自分の知らない場所で、一度も会ったことも無い女性から怨みを買っていた。