8話
2人分で半銅貨6枚と言われた。ギルドカードを見せてここに泊まりたいと言うと、一泊素泊まりで銅貨3枚、10日間泊まることを伝え半銀貨1枚渡す。お昼代はおまけしてくれた。
「その代わり、ミーシャちゃんをよろしく頼むよ!あの子はそそっかしいからねぇ~」
ギルドの受付嬢だし、これからも頻繁に顔を合わせるだろうから、良好な関係でいられるようにするつもりだったので、大和はもちろんです、と伝えた。二階の一番奥の部屋に案内され部屋に入ると、机とイスとベッドがあるだけの簡素な一室だった。
「駄目だ。眠い」
一息ついたら、半日にで色々なことがあったと少しの疲れを自覚した大和、満腹のお腹も加わりまぶたが重くなる。
「その前に」
大和は身体中から黒炎を出して、身体や服の汚れだけを燃やす。前の世界ではこれのせいでお風呂どころかシャワーすら無くて、苦痛で仕方なかった。この世界にはお風呂があるのだろうか?無かったら作るか、そんなことを考えながら、戦闘服を椅子に掛けてベッドに入ると強烈な眠気に襲われ、大和は意識を手放した。
『し、師匠、着替えたらものすごく怠いのですがこの服はなんなんですか』
『うむ。それはお前専用の戦闘服だ。特殊な繊維をお前の炎で染色してあって、着れば精神力を消費して耐斬性、耐炎性、耐衝撃性が向上する優れものだ。しかもお前の未熟な運炎能力でも燃えない』
『そ、それはすごいですね。・・・でもすごい勢いで精神力が吸われてるのですが』
『それはお前の精神力が未熟だからだ。新兵はそれを気絶するまで着て、脱いでまた着て気絶してを繰り返して精神力の底上げをする。回復力が戦闘服の消費力を上回ればとりあえずは合格だ』
『あ、だんだん気持ち悪くなってきた。・・・じゃ、じゃあそうなれば新兵卒業ですか?』
『馬鹿者。そうなって初めて卵からカラがくっついたヒヨコにレベルアップだ。・・・ふむ。私の弟子になったのだからさっさと強くなってもらうぞ。とりあえず、そのままで炎を球体で維持しつつ温度を私が良いというまで上げ続けろ』
『無理です!!・・・あ、ちょっとホントに無理ですって。死んじゃいますって、・・・・・・ちょ、っま、ぎゃあああぁぁぁ!?』
大和が目が覚めると、次の日の夜明けになっていた。窓から外を見ると、西側に2つの丸い月が沈みかけ、東から太陽が顔を出そうとしていた。
「あ~懐かしい夢を見た。・・・師匠なにしてるかな?・・・絶対怒ってるよなぁ」
あくびをしながら起き上がり軽くストレッチして体をほぐす。今日から依頼をガンガン受けて生活の基盤を固めよう。そしてアイリスに早く借金を返してお礼をしなければと気合を入れる。それが終わったら故郷に帰る手段を探そう。おばさんから貰ったパンを頬張りつつギルドに向う大和だった。
大和がギルドに入るとミーシャが軽く手を振ってくれた。大和も手を振ると嬉しそうに笑ってくれた。周りから針を刺すような視線が飛んで来るが気にしない。掲示板に張られている依頼を見渡すと、
――――――――――――――――――――――
F-
薬草採取
薬草5枚を持ってきて下さい。5枚以上から追加で報酬を出します。
報酬半銅貨1枚
――――――――――――――――――――――
定番な依頼があった。これにしよう。
紙をはがした大和はミーシャの所へ行こうとしたが、ミーシャの前には長蛇の列が出来ていた。何故か全員男だ。アイドルの握手会よろしくみんなそわそわしている。何人かが大和に恐ろしい形相で睨んできたので、あまりの迫力に空いてるカウンターに並び受付の女性に紙を渡す。
「すみません。この依頼をお願いします」
「はい、薬草採取ですね・・・依頼を受けるのは初めてですね?よければ薬草の標本と生えている場所を教えてますよ?」
「あ、助かります。・・・ちなみになんで初めてって分かったんですか?」
「ふふっ、この依頼書の右上に『常在』と書いてありますよね。これは依頼書を受付に持ってこないで、現物を持ってきて下されば依頼達成になります。ですので、この依頼書を持ってくる方は新人さんだけなんです。・・・はい、こちらが薬草の標本です。」
朗らかに笑いながら大和に薬草の標本を見せる受付嬢。大和はなるほどと言って標本を見る。大和はシソの葉が手のひら大の大きさになった様だと思った。受付嬢は王都の南西にある森に薬草があると教えてくれた。
「情報ありがとうございます。はがしてしまった依頼書は戻しますね」
「あ、これは私の方で戻しておきますから大丈夫ですよ。あとくれぐれも森の奥に行かないように。最近強い魔物の出現しているようですので。ではお気を付けて」
大和はお礼を言って南門から外に出て南西へ向かった。1時間くらい歩くと森の入り口に着いた。
(受付嬢のお姉さんは奥に行かないようにって言ってたけど、どうしよう。レベルを上げたいし・・・薬草を取ってから決めよう)
大和がキョロキョロと薬草を探すと簡単に見つける事が出来た。標本で見た明るい緑色の双葉が地面から沢山生えている。鑑定の瞳を使うと、
『薬草』
葉に薬効成分が含まれており傷口に貼ると止血になる。空気中の微量な魔力を吸って葉を出す。2~3日すると生えてくる。
「薬草で間違いないな。それにしても便利だなこのガラス」
良い物を貰えたな。元の持ち主と運の神様とかいるのだろうか?大和はどちらにも感謝した。薬草をプチプチちぎりながら心の中でいるかどうかわからない神様に祈っていると、
――――――キン、カキン
大和の耳にとても小さいが金属と金属がぶつかり合う音が森の奥から聞こえてきた。
(戦闘音だな。どうしようか?・・・・・・他の人達がどれくらい強いのか見れるチャンスかも知れない。見物しに行こかな)
大和は少し考えて見に行くことに決め、薬草を右腰にあるポーチに入れ、身体強化をしながら音の鳴る方角へ急いだ。
大和が木の後ろに隠れながら顔をこっそり出すと、露出過多なビキニアーマーを身に着け自分の体と同じ大きさの両刃の大斧を振り回す女性がいた。その大斧を鉄で出来た丸い盾でいなしている相手は骸骨だった。
(スケルトンだ!!すごいな!ホントに骨だけで動いてる!)
目の前で行われているゲームの様な戦いにすっかり見入ってしまう大和。当初の目的を忘れて呆けてしまう。
スケルトンは女の猛攻に耐えられなくなり、最後には斧を正面から受け止めてしまい盾ごと潰されあっけなく戦いの幕は下ろされてしまった。女性は骸骨が持っていた剣を拾い、腰に着けている小さな巾着袋の様なものにあてがうとシュッと剣が消えてしまった。
(あれってファンタジーの定番の『道具袋』ってやつか!?)
大和は思わず身を乗り出してしまう。が、パキッと大和の足元から音が響く。どうやら小枝を踏んでしまったようだ。
「おい!!そこで見ている奴!!!出てこい!!」
(やばっ)
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「あっはっはっは!!新人の癖に度胸あるな!おまえ!・・・あたしはレイ。ランクはD+だ。そっちは?」
新人で薬草を採取してたら音が聞こえたから来たと大和が言ったら女性は大笑いした後自己紹介をした。
「大和です。ランクはF-です」
「F-って・・・早く戻りな、葉っぱ集めをするような新人は来るな」
ぶっきらぼうにレイは言い放つが内心では、
(ここはまだ森の奥に入る手前だ。急いで戻れば魔物に会わねーだろうからよ)
大和を心配していた。レイは森の様子が怪しいとギルドから調査の依頼を受けており来ていた。確かに怪しいことが分かった。先ほど骸骨と戦ったが、スケルトンは森の奥の中部まで行かないと出ないはずなのだ。
危ないから大和は早く森の入り口まで戻って欲しいと思うレイ。が、現実はレイの思う通りにはいかなかった。
「っ危ない!!」
「きゃんっ!?」
突然、大和がレイに飛びついて押し倒した。何しやがるとレイの口から出る瞬間、
ドゴォ!!!
と、レイが先ほどいた場所を木が勢いよく通り過ぎ、後方の地面に斜めに木が突き刺さった。二人はサッと立ち上がり木が飛んできた方向にそれぞれ武器を構える。
果たして、やって来たのは大和が先日倒した豚の怪物と全く同じ怪物が2体だった。
(大豚人だと!?くそっ!なんでCランクの魔物がこんなところに!?)
魔物にもランク付けがある。オークはD、レイはD+であり、レイが圧勝するかというとそれは違う。魔物1匹と同ランクの者が4~5人のパーティーを組んで安全に勝てるというものなのだ。
よって、今のレイは1対1でなんとかオークに勝てるという所だ。レイは焦る。
(オークを2匹同時に戦うのは無理だ。かと言って大和かばいながら逃げるなんても無理だ・・・だあぁぁ!?どうする!?)
考えがまとまらないレイに大和が声をかける。
「1匹は俺が受け持ちます」
「はぁぁぁ!?F-が一人でDランクの魔物と!?馬鹿言ってんじゃねえよ!!」
「時間稼ぎするだけです。俺が死ぬ前にレイさんが1匹片づけて加勢に来て下さい」
「あぁぁ!?くそっしょうがねぇ!絶対に無茶すんなよ!!倒そうとか変なこと考えんなよ新人!!」
「「ブモォォォォォ!!!」」
2匹のオークはそれぞれレイと大和に雄たけびを上げながら突っ込んでいった。
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