プロローグ
「・・・月が2つある」
木々の間から大小二つの月のような丸い物体が夜空に浮かんでいるのを見ながら、呆然とした表情で男はつぶやき、ここはどこかと考えるが結論はすぐに出た。
「また異世界か」
月が2つなんて自分の生まれた地球でも、中学生の時に気づいたら転移していた異世界にも無かった。とすると、前とは違う異世界に来てしまったということが男には強制的に理解させられてしまった。どれだけ故郷に帰りたいと願っていたとしても、廃棄された研究所にある怪しげな機械を起動してしまうなんてどうかしていたな、と男はため息を吐いた。
「『常に現状を把握し続けろ』だよな、師匠。・・・え~と、周りは木しかないな。なんの気配もない。装置は一緒に転移してないみたいだし、文字通り身一つだな。・・・ポーチの中身は大丈夫か?」
男は腰に着けているポーチのボタンとパチンと音を立てて開け、中身を草の上に並べた。
「携帯食料5つに寝袋に水筒、全部あるな。・・・っと研究所のカードキーまであるな入れっぱなしだったか。ま、携帯食料に水もある、2~3日は大丈夫だな。その間に川を探して下っていけば人里くらい見つけられるか?」
そもそも人がこの世界にいるのか?という疑問が男の頭にちらついたが、現状何も情報がないのだ。足を使って出たとこ勝負するしかないと男は開き直る。
「明日の予定も決まったし、寝るか」
そう言って男は500mLのペットボトルのような大きさの形をした寝袋に人差し指を向た。すると、指の先から黒い炎がするりと出ていき寝袋に入っていった。黒い炎はどんどん寝袋に入っていき、寝袋もそれに比例してどんどん大きくなっていく。男が一人が十分入る大きさになると黒い炎は男の指先にまるで吸い込まれるように戻っていった。男はもぞもぞと寝袋に入る。
「能力も問題なく使えるな。明日は身体強化を使ってさっさと移動してしまおうか。あ~、人がいたとして言葉通じるかな?前の世界は師匠が辛うじて日本語喋れたから俺も言葉覚えられたけど・・・」
寝ようとはしたが、不安要素が次から次へと出てくる。だが、考えるのが面倒になり眠気も相まって男の思考はだんだんとそれていく。
(いっそゲームの世界に来ましたとこだったらいいのにな。身体強化とか炎とか武器とか出せるけど、異世界っていえばやっぱり魔法だろ。RPGみたいに手から魔法陣が出てそこから雷が飛び出したり)
(RPGの定番といえば何でも入る道具袋もだよな。メニューからどうぐとかステータスとか―――)
「ってなんだこれ!?」
そう驚いた男の目の前には日本語が白い文字で浮かび上がっていた。
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名前 神野 大和 (カミノ ヤマト)
性別 男
年齢 24
種族 人族
職業
なし
祝福
なし
パッシブスキル
なし
アクティブスキル
なし
固有スキル
超能力 level 4
メモ
神々はあなたを興味深そうに見ています。
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ホントにゲームみたいだな、と男はつぶやいた。名前と年齢、性別、種族は書いてある事に間違いは無い。無職と書かれているのを見ると転職の神殿のようなものがあるのだろうかと大和は考えを巡らせる。そして、種族がわざわざ書いてあるという事は人間以外にも種族がいるのだろう事も推測できた。
さらに何かできないかと大和は詳しく見たい項目を念じると詳細が出てきた。
超能力 level 4
精神力を消費して、身体強化や炎を生み出し操ること、さらに己の炎から武器を取り出す事が出来る。
大和は超能力の説明に何も不自然な点は感じなかった。やはり虚偽はないと考えていいだろうと思った。
「二度目の異世界はゲームみたいな世界か・・・明日から日本に帰る手段を探しつつこの世界の探索か」
大和が消えろと念じるとステータス画面は消えた。すると木々の葉の間から2つの月が見えた。最初に見た時よりもキレイだと大和は感じた。