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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼らが歩んだ不思議な日常を、君に。

ルカ

作者: ハルト

※SS速報で自らが書いた小説を、転載した作品です。

 こう言ってしまうと様々な人から反感を買うかもしれないが、僕の家はお金持ちだ。もちろん僕がそう望んで生まれたわけではないし、お金持ちだと言うことは、それだけで幸せだとは限らない。むしろ金持ちの家に生まれると、様々な束縛を受けることもある。例えば僕は自由に買い物をすることを許されていない。欲しい物を言えば、たいていの物は手に入るが、例えばエロ本なんかは買って貰えない。と言うかそれが欲しいと言う事すら言い出せない。僕が何かを欲しがる時、僕は母さんにそれを要求しなければならない。母さんに要求してそれが認められれば、次の日には望んだものが僕の手に入っている。だがエロ本は手に入らない。と言うか、高校生にもなってエロ本すら自分で買えないって言うのはかなりの不幸だと思う。別にエロ本でなくともいい。パソコンのエロサイトでもいい。でも僕のパソコンのネットワークは常に親父たちに監視されている。だからエロサイトでも見ようものなら、僕の独房行きは確定だ。独房と言うのは、我が家の地下にある、コンクリート打ちっぱなしの冷たい部屋の事だ。正に牢屋のごとき空間で、そこには簡易のベッドと、トイレなどの最低限の品しか置かれていない。そこは両親たちには反省部屋と呼ばれていて、仕事をミスしたメイド・執事や僕ら子供がいけないことをした時に、お仕置きとして閉じ込められる部屋なのだ。本当にそこは糞みたいな部屋だ。自分の息子を牢獄に閉じ込める馬鹿がどこにいる? その両親の歪んだ教育思想が、その部屋には撒き散らされているような感じがして、僕は出来ればあんな場所は二度と入りたくはないと思っている。

 僕自身は二度と入りたいとは思わないが、僕は割とその部屋に行くことが多い。別に悪いことばかりして閉じ込められていると言う事ではなくて、その独房によく閉じ込められている人物に会いに行くことが目的だ。僕自身は独房に閉じ込められない様に、何とか親父たちの目を欺いて、彼らに良い印象を与えるように生きている。

 

 夜、親父たちが寝静まった後で、僕は足音を立てない様に地下に降り、独房の明り取りの窓越しに中を覗いてみる。そこには予想通りに、瑠伽るかが退屈そうにベッドに寝そべっている光景があった。

「瑠伽」

 僕が呼びかけると、瑠伽はベッドから身を起こしてこちらを見た。彼女の長く美しい艶を持った黒髪が、はらっと音を立てるかのように揺れた。

「また来たの? タケル」

「だって、俺くらいしかここに来ないじゃん」

「別にタケルしか来ないわけじゃないよ。ご飯を運んでくるメイドさんがくる。体洗ってくれるメイドさんもくる。アンタのお父さんが性欲を発散しにここにくる。アンタの母親がストレスを発散しにここへ来る。ほら、私にはお友達がたくさんいる」

「それはお友達じゃなくて。腐った死体みたいな奴らだよ」

「いいよ。なんでも」

 瑠伽はこの家に来てから、随分と性格が荒んでしまったように思う。まあそれも当然だろう。なにせこの家のほとんどが糞みたい人間なのだから。もちろんそのこと自体が大きな原因ではあるのだろうけど、瑠伽は多分、この家で暮らすには純粋過ぎたのだ。瑠伽がこの家にやって来たのは今から五年前、彼女が十歳の時で、僕が十三歳の時だった。

 僕はずっと一人っ子として暮らしてきた。たいていの我儘は聞いてもらえたし、両親は僕を甘やかした。メイドや執事たちは僕を怒らせない様に畏まった口調で僕に接してきた。自らの馬鹿さ加減を露呈するかのように、僕は毎日リムジンで学校に通っていた。良く自分が荒んだ性格に育ったり、自らが偉いんだと傲慢になったりしなかったものだと思う。多分部屋に篭って本ばかり読んでいたから、人間の業の深さみたいなものを少なくとも普通の人目線で学ぶことが出来たのだろうと思う。親父みたいなのはくだらない人種なんだと、いろいろな本から、またはクラスメイトたちの態度から僕はそれを学ぶことが出来た。なにせ僕はいじめられっこだったのだ。みんな僕の親父が嫌いで、イコールその息子である僕の事も嫌いになるのは仕方のないことだった。

 話はそれてしまったが、瑠伽がこの家にやって来た当初は、メイドや執事たちは瑠伽をどう扱っていいものか悩んでいた。それは瑠伽が妾の生んだ子供だったからだ。父は若い頃、かなりの遊び人かつ好色家であり、いろいろな女性を犯すのが好きだった。それは犯すと言う表現が適当だろう。権力を盾に、または金の力で女をねじ伏せて、のしかかりながらセックスをするのが親父は大好きなのだ。俺が親父の性事情を聞いたのは、俺のシンパである老執事の相川からだった。一応奉公人の中にも派閥があり、少ないながらも親父を嫌って俺を信奉してくれる執事やメイドがいるために(もちろん僕だって彼らを全面的に信頼しているわけではないけれど)そう言う事情を知ることが出来た。

 そんな親父が犯した女性たちの中で、一人だけ変わり者の女性がいた。自ら親父に迫り、親父の子供を進んで身ごもった女だ。それが瑠伽の母親だった。その母親は親父から手切れ金みたいなものをもらって、瑠伽と共に九州地方の都会で暮らしていた。だが、後にその母親が自殺してしまい、瑠伽は親父を頼らざるを得なくなった。親父はと言えば、瑠伽を喜んで我が家の娘として迎え(舌なめずりをする親父の姿が浮かぶ)、まるで瑠伽を玩具でもあるかのように、毎日毎日、幼い瑠伽の体を苛めたり、髪を撫でたり、性的な悪戯をして楽しんでいた。もちろん僕の母は、瑠伽の事をゴミクズ以下の存在として扱い、それぞれの派閥のメイドたちは、それぞれの信奉者の通りに瑠伽を扱った。僕はそんな事情を知ることなく、瑠伽を突然紹介された妹として、普通に可愛がった。僕がその歪んだ事情みたいなのを知ったのは、今から一年前、例の老執事、相川から教えてもらってからだ。瑠伽が親父の慰み者になっていることも、母親の虐待を受けていることも、それを知らなかった自分自身にも僕はひどく憤った。しかし、無力な息子である僕にはその状況をどうすることもできなかった。せめて瑠伽の話し相手になって、瑠伽を大切に扱ってやることぐらいしか、僕には出来なかった。


 瑠伽は一週間に一度ほど、何かと理由を付けられて独房に閉じ込められるのが常だった。その理由はたいてい親父か母親が、適当にでっち上げたようなくだらないものだった。廊下を歩く音が耳障りだったからとか、いやらしい体をしているからだとか、学校のテストで百点を取れなかったからだとか。それはどう聞いても理不尽だとしか思えない理由だった。僕と瑠伽の間には、親父たちの差別による絶対に認めたくない嫌な格差があった。それは僕にも瑠伽にも、どうしようもできないものだった。

「なんでこの家を出て行かないの?」

 独房での密会をするときに、僕はたまに瑠伽にそう水を向けることがある。どう考えたって、この家で暮らすよりは孤児院で過ごす方が、まともに生きていけるような気がするからだ。

「出て行ったって、同じような事になるよ」

 瑠伽はいつも面倒くさそうに、そう答えた。

「例えば、孤児院に引き取ってもらえばいいじゃないか」

「そうしたって同じ。どこかの金持ちか、はたまたこの家のオジさんが、孤児院に大金を渡して私を引き取ってさ、同じような事をするんだよ」

 確かに瑠伽は、大人たちの欲望の対象になるような圧倒的な美しさを放っていた。僕自身の感覚としても瑠伽は、今まで見たどの女性よりも美しかった。すらっと長い手足と、白いカットソーをつんと押し上げるように突き出された胸は、男の視線を釘付けにする。顔立ちもきりっとしていてクールな感じの美人だし、何より目に力があって視線を吸い寄せられる。十五歳と言う年齢は、彼女の瑞々しさと、肌の艶やかさ、その健康的な美しさと、大人になる直前の太ももや首筋から漂う妙な艶めかしさのアンバランスな感じが、不思議な魅力を生み出している。

「もしかしたら、どこかの良心的な家族が瑠伽を引き取ってくれるかもしれないじゃん」

「それはそれで、もう駄目だよ、私。もう純粋な頃には戻れない。どんなに優しくしてもらっても、私はもう誰も信じたくない。この生活に慣れた私は、もう大人を百パーセントの善人だとは見れない」

 瑠伽はそう言って顔を伏せ、自分の髪を指で巻いたり梳いたりする。

 僕は瑠伽とその会話をするたびに考えてしまうことがある。もし僕がこの家の何もかもを捨て、身分や地位を捨て、瑠伽と共に駆け落ちをしたらどうなるだろうか。瑠伽を救い出せるだろうか。彼女は僕に付いてきてくれるだろうか。高校を卒業して、親父たちの目を逃れて北欧辺りにでも行って、つつましく働きながら暮らせたりはするのだろうか。僕の勇気さえあればこの状況は変わるのだろうか。瑠伽と壁越しに話をしていると、そんなもやもやとした思いが、ずっと僕の中にくすぶり続ける。けれど、僕はそれを実行できないだろう。理由は分からない。この家に飼いならされてしまっているのか。僕にはそこまで実行する勇気が、持てないでいる。怯えてしまっているのだろうか。刷り込まれてしまっているのだろうか。権力や、社会の力という圧倒的なものを。親父たちの血が流れている僕は、親父たちが行う悪に逆らえないのだろうか。


 唐突に話は変わるが、僕の性に関する関心は、日に日に増大しつつあった。

 最初にも話した通り、僕の性事情はことごとく束縛され、僕は悶々とした日々を送ることが多かった。もちろんエロ本やエロサイトを見なくたって、性欲を発散すること自体は可能だ。男にとってそれは毎日の日課みたいなものだし、自らの妄想で自分を慰めることは男なら当然の様にできる技能なのだ。しかしながら、性欲が上手く抑えられない高校三年生の男子に向けて、ずっと妄想だけで自分を慰め続けろと言うのは酷な事だった。そもそも僕は、性に関する具体的でリアルな妄想と言うのが出来ないのだ。女性の裸というのを、僕は写真でも画像でも実物でも全く見たことがなかった。セックスと言うのが一体何をどうして、どういう結果に落ち着く行為なのかすら、僕には今ひとつわかっていなかった。だから、僕の性に関する妄想と言うのは、言わば一種のファンタジーのようなものだった。クラスメイトのちょっとかわいいと思っている女の子が、勝手に服を脱がされて、勝手に僕に寄り添って、お互いに体を擦り付け合って、抱き合っているうちに僕の頭が真っ白になるのだ。そして、そんなファンタジーしか描けない自分の性知識の拙さに、僕はコンプレックスに近い感情を抱いていた。だって、現代には様々な性への誘惑が溢れていると言うのに、自分だけがその性の誘惑の外側に居て、性的なものに触れられずに檻に閉じ込められて、悶々とした生活を送らなければならない。そのストレスも、閉塞感に溢れる僕の環境自体も、僕の性欲の強さに拍車をかけているような、そんな気がしてならない。

 突然の告白になるけれど、正直に言って、僕はセックスをしてみたかった。

 高校生の男子にとって、セックスと言うのはいわば勲章みたいなものだった。「俺、昨日彼女とセックスしたんだ」と誰かが言えば、そいつはまるで戦争で相手国の中枢機関を潰した英雄みたいな扱いを受けるのだ。僕のクラスメイトや知り合いは、少なからず僕を追い抜いて英雄へとなっていった。僕も相手国の中枢機関を潰してみたかった。だが、僕にはセックスをするような相手はいなかった。なぜなら、僕は不細工な顔立ちで、あまり人と話すのが得意ではないから彼女など出来ないのだ。クラスメイトの女子たちは僕に恋愛感情を持つことなどありえないと思っているようだったし、僕も女の子と話すのが苦手だから、僕らはお互いに境界線の外に踏み出さずに、ただそこに存在しているだけの遠い関係と見ているだけだった。彼女らが動物園の観光客で、僕は檻の中で自分を慰めている猿みたいな感じだ。

 もちろん僕は金持ちであり、それは女性たちにとって一種のステータスとなるのかもしれない。しかし、ただ金持ちと言うだけで女性と付き合えると言うほど世の中は甘くない。少なくとも、お嬢様お坊ちゃまばかりが通う高校では、僕なんかに興味を持つ女の子は全くと言っていいほどいなかった。そして学校以外で異性と出会う場なんか、僕にはほとんど与えられなかった。瑠伽と会うことを除いて。

 僕は本当に、気が狂うほどにセックスと言う行為に憧れていた。しかし、僕は親父みたいにはなりたくなかった。僕は自分がどうすればいいのか、本当に分からなくなる瞬間があった。


 瑠伽に会いにいった翌日。

 自分の部屋で勉強をしている時に、親父から呼び出された。これはとても珍しいことだった。親父専属のメイドが、僕の部屋にやって来て、早急に親父の元に向かうようにと伝えてきたのだ。何なのだろう。親父はほとんど僕になんか構わないくせに、いったい何の用事があると言うのだろうか。まさか瑠伽と会ったことで、親父が怒ったのだろうか。ありえない。そんなのはもう四年前から続けている。そんなことだったら、もっと前に僕を呼び出しただろうし、僕を泳がせる意味もないはずだった。僕は混乱しながら、親父の寝室へと足を向けた。

 僕がノックをすると、気だるげな声が扉の向こうから聞こえた。

「失礼します」

 僕はそう言って、やや畏まった仕草で部屋に入った。

 親父はまるで生きていることが面倒だと言うように、憂いを帯びた息を吐いて、面倒くさそうに僕を見た。

「久しぶりだな」

「はい」

 家族同士で交わすにはいささか変わった会話だと思うが、しかし僕らの間では、それは当然のものだった。

「何か僕に用事でもあるのでしょうか?」

「まあそう急くな。たまには親子で世間話でもしようじゃないか。そこに座れよ」

 親父は顎で自らの前にあるソファーを示し、そして僕を見る事なくワイングラスを傾けた。今までこんなことは無かった。こいつは僕と会話しようなんて事を、今まで一度も言った事がなかった。どういう意図なのだろうか。まさか本当に世間話のために呼んだなんて事はないだろう。きっと裏では何か、とんでもなくあくどい事を考えているに違いない。こいつの考えることはいつだって得体が知れない。用心深くならなくてはいけない。こいつに隙を見せるようなことがあってはいけない。僕はそう身構えて、親父の前に腰を下ろした。

「まあそう緊張するな。俺はお前が大好きなんだ。お前は俺によく似ている……ふむ、何か飲むか?」

いえ……、と一度断りかけてから、喉の渇きに気づき、僕はミネラルウォーターを頼んだ。親父はにやりと笑って、手を大きく三度叩いた。

「おい、水を持ってこい!」

 親父は大声で怒鳴りながら、外に控えているメイドに命令した。それは人に命令するのに慣れた、躊躇も遠慮もない、抑圧的な声色だった。

「昨日も瑠伽に会っていたみたいだな」

 親父がそう切り出してきた。親父のその言葉の意図や、話の方向性が分からずに、僕は頷くしかなかった。早々に届いた水を口に含んで、僕は半分ほど飲み下した。

「あいつは本当にいい体をしてるよなぁ。目隠しさせて、くすぐると、本当にいい声で鳴くんだ」

 親父はいきなりそう言って、膝を叩きながら大声で笑い始めた。僕の位置から見ても分かるほどに、親父のそれは大きく勃起していた。そんなのも見たくもなかった。僕はここに来たことを激しく後悔し始めていた。

 こいつはこんな下卑た話を聞かせるために僕を呼んだのだろうか。僕はひどく腹が立ってイライラしたが、表情に出さないように努めた。とてつもない怒りを、何とか腹の内に押さえ込んでいた。

「お前は瑠伽の裸を見たことがあるか? 舌でぺろぺろ舐め尽くすのに最高な体だぞ? 薄い絹のように滑らかで、柔らかく引き締まって、甘い声を漏らして……そんでぎっちり抱きしめながら……気持ちいいんだぞぉ。女子高生の体ってのはいいもんだよなぁ。毎週、お仕置き部屋で会うのが楽しみになっちまった」

 へへっと気持ち悪い笑みを晒すこいつを、今すぐにでも殴り殺したいと思った。こいつを後悔する暇も与えずに殺したいと思った。歯を全部折って、目玉を潰して、頭を踏み潰してやりたい、抑えがたい衝動が湧き上がり続けた。口にワイングラスを突っ込んで、バッドで叩き割ってやりたい。とにかくこいつを殺したい。

 こんなクズの息子である自分も許せなかったし、こんなクズが存在すること自体にも、強い嫌悪を感じて止まなかった。次にこいつが何かくだらないことを喋ったら、殴り倒すことに、僕は決めた。躊躇することなく、鼻の頭を殴って骨を折ってやると言う決意を抱いていた。誰もコイツに逆らうことが出来ない中で、僕だけはこいつを殴ってやらなければならないと、そんな決意みたいな感情が僕を支配していた。拳をぐっと握った僕を見ずに、親父は口を開いた。

「だけど、お前もよく我慢したな。そろそろお前と瑠伽がセックスするのを、俺は認めてやるぞ」

 その一言に――奴のもっとも下卑たその一言に――僕は不覚にも混乱してしまった。それと同時に、体中に先程とは違う熱が巡っていくのを感じていた。何か解放されたような、何かに対する支配欲のような、訳の分からな期待感のような熱が、僕の体の中を一瞬にして駆け巡って行った。

「お前には禁欲的な生活を与えたからな、どうだ、セックスしたいだろう。瑠伽みたいなエロくて美しい女と」

 親父が舌なめずりしながら、初めて僕の目を見た。僕は瑠伽の裸を想像した、彼女とセックスをする様子を想像してしまった。親父に許されて、瑠伽にのしかかり、乱暴に犯す様子を想像してしまった。それは条件反射だった。

「くくく、いいぞ。アイツにいつも通り目隠しをして拘束させよう。アイツは俺と勘違いして、お前を受け入れるだろう。お前は瑠伽との関係を崩すことなく、アイツを犯すことが出来るんだ、性欲を発散することが出来るのだ。セックスをすることが出来るのだ。お前は俺と似て、醜い。普通の方法では、美しい女とセックスをすることが出来ない。だが、お前は俺の息子だから、どんなに美しい女を犯しても、許される。最も美しい瑠伽にどんな変態的な行為をしたって許される。そしてお前は親父のお下がりの女で、自分を慰め続けるんだ。大好きな女を、寝取られた相手に返されて、それに縋りついて自分の股間を擦り続けるのだ。いいんだ。俺も、俺の親父も、そのまた親父も、ずっとそれを繰り返してきた。それがうちの家系なんだ。俺の妻も、お前と瑠伽のような関係だ。俺の妻は、散々ジジイに玩ばれて、使い古された玩具なんだ。それを俺が、涎を垂らしながら受け取ったんだ。我慢することは無い。お前には耐えることが出来ない。瑠伽を好きなように扱って、犯し続けるのが、お前にとっての人生の始まりなんだ」

 俺は親父の話を聞きながら、突然湧き上がってきた強烈な性欲を、怒りを上回るほどの性欲を、押さえつけることが出来なかった。僕は、どうしてしまったのだろうか。瑠伽を好きなようにしていいと言われた瞬間に、僕は本当に瑠伽を犯してしまいたいと言う、抗う事の出来ない欲望に支配されてしまった。これが我が家の、血なのだろうか。僕は、この家が辿ってきた歴史を繰り返し、女や金に不自由しない、最低の人間になるのだろうか。僕は固く勃起しながら、瑠伽の姿を想像して、親父の目を見た。親父は僕を見た。僕は頭が混乱して、ミネラルウォーターの入ったグラスを自分の口元に当てた。強烈な渇きを潤さなければならなかった。


 

 僕は瑠伽のいる牢屋に向かった。

 すでに親父に命令されていたのだろうか、メイドの仕業によって、瑠伽は白いワンピース一枚の姿で、目隠しをされながら、腕をつり上げてIの字に拘束されていた。足も枷で拘束されている。瑠伽のその姿は、しかし圧倒的な美しさを誇っていた。巨匠が描いた印象的な絵画が、そのまま現実の光景となっているかのようだった。無防備に脇を晒したまま、僕の前で静かになぶられる時を待っているかのようだった。

「殺したよ」

 僕はそう声をかけた。

「今、親父を殺してきた」

 努めて明るく振舞うように、僕はそう言った。言いながら、瑠伽の目隠しを外して、僕は瑠伽の目を見た。瑠伽は僕を見て、唇を震わせた。そして乾いた声がそこから、漏れ出した。

「なん……で?」

 瑠伽は怯えたような目で僕を見ていた。

「全部くだらないからだよ」

 僕は少しの間だけ考えて、そう呟いた。自分ではどうしようもない事柄に直面した時、僕には破壊衝動が生まれることがあった。性欲が抑えられないようなときに、家に迷い込んだ犬を殺したり、僕に逆らえないメイドの爪を剥いだり、三階の窓から思いっきり花瓶を叩きつけたり、抑えられない衝動があると、僕はそれを必ず破壊に変換して、外に発散させた。それは恐らく、親父も知らない僕の癖だった。僕は抑えられない性欲や親父への嫌悪感を、暴力として、親父に向けた。ミネラルウォーターの入ったグラスで鼻を殴り、気が済みまで顔を殴り、近くにあったゴルフクラブで、親父の醜く膨らんだ腹を殴った。親父は気持ち悪い液体を吐き、ドロドロに濁った血を吐き、微かな呻き声を出して倒れた。そして僕は、親父の頭を踏んづけて、全体重をかけて、骨を砕こうとし、それから散々にいたぶって、最後には首を絞めて殺した。

「やっと親父を殺せたよ。本当に気持ち良かったなぁ。親父がぐちゃぐちゃになる瞬間! 歯がぶっ飛んで、信じられないものを見るような目で、僕を見続けるんだ。目玉を潰した時の感触もすごいんだ! まだ指に残ってるよ! 左目を人差し指で潰して! 右目は力づくで眼窩から引きずり出して、ほらその右目はポケットに入ってる! これ母さんに見せたらどんなに驚くかなあ! 興奮して潰さないように気を付けなくちゃ! あと、ほら、心臓! 親父が死んだ後に体から引きずり出して、潰したんだ! ゴルフクラブで、心臓を叩きつぶしたんだ! もう、もう僕はこうふんしすぎて、やばいよ! 三回くらい射精しちゃった! 親父を、僕は圧倒的な暴力で殺したんだ! でも、瑠伽、やばいからにげよう、瑠伽、僕が連れてってあげるから、逃げよう、もう親父に、いじめられないし、母さんにぶたれることもないし、好きな事を出来るんだよ! ほら、鎖をはずしてあげるから」 

 そう言って僕はメイドを殺して手に入れた鍵を使って、彼女を拘束している鎖の錠を外そうとした。しかし興奮のあまり、手が震えて、上手く鍵を外すことが出来なかった。

 僕は何度も、何度も何度も、おかしいなあ、おかしいなあ、と呟きながら、彼女の鎖をがしゃがしゃと動かした。おかしいなあ、こんなはずじゃないんだけどなあ、おかしいなあ、おかしいなあ、もっと、ぼくは、おかしいなあ、もっと、ちがうんだよ、はずれないなあ、くさりがはずれないなあ。僕は涙を零しながら、呟き続けて、でもいつまでも鎖を外すことが出来ずに、僕はどうしていいのか分からなくなって、膝から崩れ落ちて、涙を零しながら、おかしいなあ、と呟き続けた。僕はもうどこにも逃げることが出来ないような気がした。もう取り返しの付かないような事をして、僕は一生この牢獄から逃げ出せないような気がした。

 おかしいよ、はは、おかしいなあ。

 そんな僕を、彼女は見下ろすように、圧倒的な美しさで縛られ続けていた。

 一人で勝手に行動し、泣き続ける僕に向かって、瑠伽は最後にこう言ったのだった。

「……気持ち悪い」

 それが、僕と瑠伽の最後の言葉だった。


 


 

 


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