黙秘
今回は前回のようなミステリ要素はないはずです。
車から降りた先は本当の面接会場。山の中にある施設だ。江角千穂は面接官の愛澤春樹に連れられて施設内に入る。
施設内は刑事ドラマのセットのようだった。愛澤は二次審査の説明をする。
「二次審査は面接試験です。ただの面接試験ではありませんよ。試験会場はこの施設内に作った取調室のセットで刑事に扮する組織のメンバーがあなたを取り調べます。試験時間は五分間です。勘のいいあなたならこれだけでこの試験の答えが分かるでしょう」
そして愛澤はどこかに行った。しばらく経った時刑事に扮する二人の面接官がやってきた。
「江角千穂だな。殺人の容疑で逮捕する」
二人の刑事は彼女を取調室に連行した。そして取調室での面接が始まった。
「あなたは退屈な天使たちのメンバーですね。ではあなたの仲間の連絡先を教えてください。そうすれば罪は軽くします」
そういうことかと江角は思った。それならと彼女は意外な答えを口にする。
「黙秘します。あなたたち警察に我々の組織が潰せるはずがないから。死刑にならなかったとしても組織のメンバーが死の制裁を与えます。警察がわたしを守ることが出来るはずがない。わたしがあなたたちの質問に答えれば組織はどんな手段を使ってでもわたしを殺しに来る。死にたくないし暗殺によけいな被害者は不要」
黙秘にしては話過ぎではないかと思うかもしれない。しかしこれは面接試験。馬鹿の一つ覚えのようにただ黙秘するよりは根拠を述べた方が面接をしやすいだろうと江角は考え配慮したのだ。この配慮が吉とでるか凶とでるかはまだ分からない。
それから刑事に扮する面接官はあの手この手で組織に関する情報を聞き出そうとした。江角千穂はそれでも黙秘を続けた。
面接開始から四分が経過した時アナウンスが流れた。その声は愛澤の物ではなく二十代前半の女性の声だった。
『残り時間が一分になりました。刑事役も皆さんは取り調べを終了してください。受験生の皆さん。最後は面接らしく自己PRを述べてください。制限時間は四十秒です。では始めてください』
突然の面接らしい質問に江角は慌てた。彼女は自己PRを述べる。
「江角千穂です。大分県で探偵をしていました。年齢は二十七歳です。この組織で諜報活動をしたかったので志望しました。探偵として培った観察力と洞察力を武器にして諜報活動を頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
言い終わった時アナウンスが流れた。
「これで面接試験は終了です。結果は三十分後発表します。それまでは自由行動です」
面接試験は終わった。取調室を出ると愛澤が待っていた。
「お疲れ様。どうでしたか。面接試験は」
「取調室での面接と聞いてだいたいの予想をしていたが、最後に自己PRがあるとは思っていなかったよ」
「一応面接試験らしいことをした方がいいかなと思ったからあのお方に提案しましたよ。結果は面白いということで採用ですが」
江角は愛澤に気になることを聞いてみる。
「面接の時に流れたアナウンスは誰の声。あそこまでかわいらしい声の主がこの組織にいるはずがないと思ったので」
「ウリエルですよ。この施設を建設した資金調達部のボスです。最もこの施設を建設したのは一代目のウリエルで今のウリエルはこの施設をリフォームしただけです。あのアナウンスは、二代目ウリエルがリフォーム記念アナウンス王座決定戦で優勝した記念に作成した物です。ウリエルはアイドル化しつつあります。何でもファンクラブが近日組織されるらしいですよ」
愛澤の話を聞き江角は疑問が浮かんだ。
「二代目というのはどういうことでしょう」
この質問を聞き愛澤は笑った。
「我々の組織は歌舞伎のように襲名式なのです。このことは中堅以上の組織メンバーなら誰でも知っています」
ウリエル予告編
「遺言はありますか。勇敢な警察官様。」
混沌とした世界の中でシリーズ 十月一日連載再開