005
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「まじかよ・・・。」
無意識にこぼれた言葉だった。
反射的に出た言葉だった。
反応ではなく反射。
意識ではなく無意識。
抗力ではなく不可抗力。
第一声を発した後、僕は黙り込んだ。
いや、黙り込んだというよりは声が出なかった。
驚きの後に襲ってきたのは落胆だった。
脱力していく自分が間違いなくそこにいた。
沈黙が続く体育館に次の部活がやってきた。
僕達は一言も口にすることなく廊下に移動した。
廊下でも沈黙が続く。
・・・・・・。
「だ・・大丈夫ですよ!」
沈黙に耐えきれなくなったのか、もしくは、みんなを元気付けようとしたのか最初に声を発したのは愛可だった。
「確かに御神楽中学校は強豪ですけど負けると決まったわけではないですよ。」
最上級生なのに敬語を使う愛可。
「そうですよ。絶対勝てないと決まったわけではありません。」
それに便乗して言ったのが、もう一人のマネージャーである涼園真希菜。
真希菜も二年の時に愛可と一緒にマネージャーとして入部した。
性格はクールでとても令嬢みたいなやつだ。
だが冷たいやつではないので冷嬢は決してないといえよう。
彼女を一文字で表すというのなら「静」である。
・・・いや別にこいつは高飛車な感じがたまにあるけれど別に静かというわけではないので「清」というところだろう。
文字通り清楚なやつだ。
2年生の時は違ったみたいだが3年生になった時に愛可と一緒のクラスになった。
ということは必然的に僕と同じクラスである。
顔も可愛いし、しっかりしていて成績もいい。
勉強もできるし運動神経もいいしリーダーシップをとれるような存在だ。
もちろん僕のクラスの委員長である。
噂で聞いた話だが中一から中三の今までで一二人の男子に告白されたという武勇伝を持っているらしい。
だけれども真希菜はそれを全て一蹴したらしい。
ちなみに愛可はそれを超える一五人に告白されたという伝説を持っている。
それを愛可は全て同じ理由で断ったらしい。
ん?
一二人とか一五人はそこまで多くはないって?
武勇伝や伝説にするには少なすぎるって?
バカ言え。告白されたのがそれぐらいだって言っているんだ。好きな奴なんか、もっといっぱい、いるに決まっているだろう。
・・・すまない。柄にもなくムキになってしまった。
というかシリアスな感じだったのに茶化してすまない。
ともあれ、この二人の言葉で僕をはじめバレ―部全員が勇気づけられた。
実に僕は情けない。
こういうのは主将である僕がやらなければならないのに・・・。
「ありがとう。二人とも。」
僕は二人にその言葉を言って僕は帰ることにした。
その途中、二人が
「明日も頑張ろうね。」
と言っていたような気がした。