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師匠

青い空が広がっている。


天気も良くて、歩くのには絶好の日だ。


その中で二人はミルファーへつながる道を走っていた。


しかし、ただ普通の速度で走っているのではない。



「おっ、そろそろ山の頂に着いたんじゃないか」



「そうですね。上り坂も少なくなってきました」



実はアコルを出てからまだ一時間半ほどしかたっていない。


普通の速度ならここまで来るのに4時間以上はかかるだろう。


では、なぜ二人はこんなに速い時間で来れたのだろうか。



「どうだ、ルムの実は面白いだろ。スイ」



「感覚に慣れるまで大変でしたけどね」



ルムの実


中に魔力が詰まったこの実は、食べると疲労と魔力の回復の効果がある。


しかしなかなか目にかかれないものであり、食べるのには少し調理する必要がある。


生のまま食べるとなぜか脚力だけ異常に強化されるがその原因は不明。


(一人旅には持ちたい食用植物一覧より抜粋)



街を出る前にこの実を食べた二人は全力疾走を続けたのだ。


ルムの実によって強化された足はすさまじく、道行く人たちを次々と抜いていくことができた。


今は休憩と軽食を取るため歩いている。



「主人、この実の効力はあとどのくらいなんでしょう」



「うーん、もう1時間ももたないかな。でも、1時間もあれば外壁までもう少しのところくらいに行けると思うぞ。ほい、水」



「ということは、お昼を少し過ぎたころには街の中心に着けますね。ありがとうございます。主人、パンです」



「ああ、最初の予定よりずっと早く着ける。おっ、このパン美味いな。これなら今日中に師匠に会えそうだ」


山道を軽食を取りながら歩いている二人。


それでも、ルムの実を食べているため無意識のうちに速度が出てしまっている。


既に道は下り坂に差し掛かっていた。










「おっと」



「きゃっ」



ミルファーの外壁が少しずつ見え始めてきたころ、二人はルムの実の効果が切れていくのを感じた。


先ほどのフリッツの読みは外れ、外壁まではまだ少しかかりそうだ。


それでも誤差は1時間程度であろう。


もともと予想していた時間よりははるかに速い。



ルムの実の効果が切れてしまい脚力が元に戻るので、当然感覚も元に戻る。


以前、何度か経験したことのあるフリッツはもうすぐ効力が切れるということが少し前からなんとなくわかっていた。


しかし、こんなことは初めてであり、ややドジなところがあるスイはというと……




効果音が出そうな勢いでおもいっきり転んでしまった。


隣ではよろめいただけのフリッツが笑みを漏らしている。



「うわー、また盛大に転んだなあ(笑)」



「にやにや笑わないでください。どうしてこうなることを教えてくれなかったんですか」



「ごめんごめん、精霊的な何かで大丈夫と思ったんだ」



「何ですかそれ。根拠も何もないですよね!」



スイはなかなかご立腹のようだが、フリッツはそれをぬらりくらりとかわしていく。


周りから見れば漫才としか見えないが、そんなことを言ったらスイはもっと怒るだろう。


ひとしきり文句を言い終えた彼女はとりあえずは機嫌を直した。



「主人はルムの実を食べたことがあったんですか」



スイはフリッツに尋ねる。


この実について詳しかったので、一度は食べたことがあるだろうと半ば確信はしていた。



「ああ、師匠との修行の時にな」



やはりスイの考えは当たっていた。


しかし、今回の目的である人物のことが出てくるのは意外だった。



「修行ですか?」



「そう、修行。夏休みの時は授業がないから結構遅くまで修行してたんだよね。その時はかなり遅い時間になっちゃってさ、学校内に(無断で)建てている小さな家みたいなところに泊めてもらったんだよ」



「そうなんですか、ちなみにその人の性別は?」



「えっ、女の人だけどどうかしたか」



「いえ、何も。続きを聞かせてください」



なぜか周りの温度が1度下がり、スイから黒いオーラが出ているような気がした。


それを無理やり無視して再び話し始めていく。



「朝起きたらさ、どこかの森の中だったんだ」



「えっ」



あまりの話の飛び具合に目を丸くするスイ。



「横に紙と一本のナイフが置いてあってさ、紙には、(とりあえず二週間ほど自給自足で頑張れよ。そのうち迎えに来るわ。by師匠)って書いてあった。」



「それで、無事だったんですか?」



「なんとかな。この時にいろんな木の実や果物を食べて色々と学んだんだ。ルムの実もこの時だな。」



フリッツは何やら遠い目をしている。


この修業はよっぽど大変だったのだろう。


まあ、めちゃくちゃな人だけど悪い人ではないんだよなあ、とスイに聞こえないような小声で言う。


実は少し会うのを楽しみにしているのだ。


ミルファーがだんだん近づいてきていた。

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