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次の街、ミルファーへ

フリッツがギルドに戻ると、ギルドの中は大騒ぎとなった。


他の人たちは魔物の中でも上位にいる火竜をフリッツ一人で倒したと思っているからだ。


実際にはスイと二人で倒したのだが、このギルドの人たちはまだスイが精霊だということを知らないために、フリッツが一人で倒したと思っている。


以前に竜種を倒したことがある二人としては何か複雑なものがあったが、気にしないことにした。




「すいません、依頼を達成したので確認お願いします」



人混みかき分け、受付のカウンターで竜から剥ぎ取ったものを入れた麻の袋を出す。



「分かりました。確認してきますのでしばらくお待ちください」



受付の女性はそれを手に持ち、奥の方へ確認を取りに行った。


3分ほどたった後、奥の方からさっきの女性と背の低い老人がカウンターへと歩いてきた。


老人が出てきた瞬間、いつも通り騒いでいたギルドの中がだんだんと静かになっていく。


どうやら、この老人はただの老人とは違うらしい。



「あなたたちが竜を倒してくれたのかね」



老人は穏やかに聞いてくる。


70歳は超えているのだろうか、その声音からは長年生きてきた貫禄みたいなものを感じる。



「ええ、そうですがあなたは?」



「儂はこの依頼のクライアントというやつじゃ」



「ということは、ここのギルドマスターのフジということですか?」



すかさずスイが質問した。



「まあ、そういうことになるのお」



フジは自分の白い顎鬚を撫でながら笑う。



「そう言うお嬢さんは精霊じゃな?それもかなり高位の精霊と見える」



「!」



フジは二人の耳元でそっとつぶやく。


スイはこんなにも早く自分の正体がばれたことに驚いた。


いままで会ってきた人物の中で一番早かったと思う。



「まあそれは置いといてのお、ほれ、今回の報酬金じゃ」



そう言って、75000キットの入った袋を渡す。


渡された袋は中の紙幣が重なって少し膨らんで見えた。



「ありがとうございます」



「ほっほっほ、それはこちらの台詞じゃな。もしかしたらこの街があやつによって何らかの被害を受けていたかもしれん。本当に感謝しておるよ」



ゆっくりと頭を下げるフジの後ろでギルドの女性も頭をさげる。


フリッツはなんと答えていいかわからず、結局こちらも頭をさげるだけだった。












「結局、あのフジっていう人は何者だったんだろうな?」



「私のことも一瞬で見破りましたし、ただのギルドのマスターってわけではなさそうですね」



陽はすっかり落ちて、二人は宿の部屋でジュースを飲みながら雑談していた。


時間も遅くて疲れていたので、あの後すぐに宿を取り、明日の朝に次の街のミルファーに向かうことになった。



師匠せんせいならもしかしたら出来るかもしれないけどなあ」



顎に手を当てて考え始めるフリッツ。


そこで、本当にあなたの師匠って何者なんだですか、と聞いてみた。


すると、



「あー、とりあえずいろいろと規格外な人」



と、あいまいな答えが返ってきた。


実際に会ってみるのが一番、というのが彼の意見らしい。


少し、ミルファーに行くのが心配になるスイであった。









翌日、朝の8時にフリッツは目を覚ました。


もともと荷物は多くはなく、前日に身支度は済ませていたので、30分後には宿を出ることができた。


道中、市場のあたりで1日分の食べ物を買い、朝食もその時にすませた。



昨日調べたところ、アコルからミルファーまで約40キロあるという。


途中、山を越えなくてはならないので、1日で着くか着かないかの距離だそうだ。



「魔物やグゾルが少なければ日の入りまでに外壁には着ける、とも言ってましたね」



スイが地図を見ながら言う。



「でも途中で山があるだろ。間違いなくそこで時間を取られるだろうな」


「ですね。迂回する手もあるんだけど、それじゃあ絶対に一日では着きませんからね」



山越えの道も一応整備はされているが、魔物やグゾルが頻繁に出現するため平地の道より凸凹や破損が激しいというのも昨日調べた。


それで、山を迂回する方法はないか、とも聞いたが、それでは2日以上かかるということなのだった。



「おっ、あれは」



突然、フリッツが民家の前で店を開いてる夫婦のところに駆け出して行った。



「ちょ、ちょっと主人、急にどうしたんですか」



「スイも来いよ、いいもの見つけたんだ」



フリッツは振り返ってスイの手首をつかみ再び駆け出した。


その顔には満面の笑みが浮かんでおり、なぜかとても嬉しそうだ。


スイは不思議に思いつつもついて行く。



「すいません、それってムルの実ですか?」



「ああ、そうだよ。街の外に出ていた時に偶然なっているのを見つけたのさ」



女性はとても嬉しそうに言う。



「2つをこのぐらいで売ってくれない」



そう言ってフリッツは財布から1000キット札5枚を取り出した。


スイは自分の主人が取り出したお金の額にぎょっとする。



(主人!?一体なにを)



(いいからいいから、大丈夫だって)



二人は契約の糸を通して頭の中で会話する。


スイが精霊だということを知らない他人がいる場合、二人はこうやって会話をすることにしている。


周りの人が「主人」という言葉に変な勘違いを起こすからだ。


実はフリッツはこのことで軽いトラウマがあったりする。


スイがこの時だけじゃなく、いつもの呼び方を変えればいいのだが、なぜか呼び方は変えてくれない。


スイ曰く、「マイルール」だそうだ。


なので、どうしても話さないといけない時は「主人」という言葉を抜いてもらうことにしている。



「毎度あり。でもホントにこんな額貰ってもいいのかい?」



お金を受け取った男性が心配そうに聞いてきた。



「いいんですよ、ちょうど欲しかったんで。それじゃあ」



フリッツは手を振りながら歩いて行った。


スイも一回お辞儀してから彼の後を追う。







「よし、このあたりでいいか」



中心部からかなり離れたころにフリッツはさっき買った2つのムルの実を取り出す。


そして、そのうちの一つをスイに渡した。



「ほら、食べてみろよ。食べたらすぐわかるから」



フリッツは笑顔で勧める。


スイは少し危険物を見るような目で見ていたが、意を決して一口食べた。


そして、二口、三口と、どんどん食べていく。


小さかったのですぐに食べ終わってしまったが、別段何も起こらなかった。



「主人、何も起こりませんけど…」



「いや、もうすぐ来るよ」





その数秒後、



「っつ!これは」



スイは、自分の体の異変に驚きの声を上げるのだった。

ルムの実とはいったい何なのでしょう。


あまり期待しないでくださいね。

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