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第8話:進路

 折ってから完全に逃れたところで、リデルは一度馬を止めた。

「もう、追ってきませんね」

 森の入り口近くで後ろからの喧騒が消えた。余りにも唐突な事に3人とも何か不安を感じていた。

 しかし今、この場所からは伏兵の気配は微塵も感じられない。

 リデルは取り敢えず馬を下りると辺りを注意深く観察してみた。

 理と威は馬上で同じように辺りを見渡した。

「安心、できそう?」

「できないだろうな」

 自分の言葉に即座に答えた理に、威は「やっぱりね」と呟き馬上に突っ伏した。

 逆にリデルはどうしてそう思うのか不思議そうだった。

「あいつらは、森に入る直前に足を止めた。まるで森に入るのを厭うように、だ」

 狩人の猟場になっていてもおかしくない普通の森・・・それなのに、彼らは一歩たりとも入ろうとしなかった。

「考えられる可能性は、ここが神聖な場所で入る事が禁忌とされている場合───この場合、入ると天罰がくだるみたいな部分も考えられる。

 そしてそれとは逆に呪われた場所という場合───怪物が徘徊する場所であり、人が入るのを拒んでいるという場合だ」

 息を荒くしている馬を休ませるために、取り敢えず理は馬から下りた。

 威も、大きく溜息をついてから彼に倣って馬を下りる。

「緊張感は緩めないでおこう」

 理の結論にリデルは少し落ち込んだ。

 森の民である自分がそんな事を気づけないとは情けなかった。第一、自分はエアルに選べれた案内役なのにそれすら上手く果たせてないような気がする。

「すみません、僕が土地勘がないせいで・・・」

 地図を見る上では普通の森だと思ったのだ。入り口の木々にも別に以上はないと感じた。

 だからこそ、今、こうして話している間ですらここが『魔物の森』である可能性を少しだけ疑問視する自分が居た。

 だがそう思っているのは自分だけで、目の前の少年たちは一向に緊張感を解こうとしない。

「別に気にする事はない。俺と威だけで逃げた方がもっと悪い結果が出たかもしれない。鬼が出るか邪が出るか・・・何事も起こってみない限り誰にも判断できない事だ」

 やけに達観した理の言葉に、リデルは済まなそうに頷いた。威もそれほどその件は気にしていないのか、リデルを責める気配はなかった。

「それよりも少し上の枝が開けたところに出よう。ここじゃ、彼女が降りてこられないだろう」

 理はそう言うと食事をし始めていた馬の首を叩いて、身を起こさせた。そのまま手綱を引いて、森の奥へと進もうとする。

「あああああ────っっ!!」

 歩き出した理の左腕を見て、威は森中に響きそうな声を上げた。

 逃げる際に殿しんがりを務めた理は左の上腕部に放たれた矢により傷を負っていた。

 まるで平然としていたので気付かなかったが、切れた3cmほどになっており白い夏の制服の腕の部分は赤く染まっていた。

「さっきの矢だな?怪我をしてるならさっさと言えよ」

 傷を見たリデルは急いで自分の馬の鞍部分から綺麗な白い布を持ってきた。威はそれを器用に長く切り裂いて包帯代わりに理の腕に巻きつけていった。

「矢の先に毒でも縫ってあったらどうするつもりだ。手当が遅ければ命の危険性だってあるんだからな」

 ぷんぷんと怒りながらも手際よく手当をしていく威に、理は呆れたようにつぶやく。

「まさか、普通の村人だろ?そこまでは・・・」

「逃げていく無抵抗な人間の背に向けて矢を放つってだけで凶悪だっ!それを普通の村人だとくくるな」

 理の楽観的な言葉に、とうとう威が言葉を荒げた。

 理は義弟がこれ以上怒らないように、「はいはい」と返すと彼の好きな笑顔で

「手当、本当にありがとう」

とお礼をいった。

 滅多に見られないその笑顔に威は顔を赤く染めた。怒りの持って行き場を失った彼は照れを隠すように自分の乗っていた馬の元へと戻ると、食事を再開していた馬の手綱を引いた。

「さ、本当に、早く移動するぞ」

 理を追い抜き、さっさと森の奥へと進んでいく威の姿に理は穏やかな表情を浮かべると離れないように自分も歩き始めた。




 歩き始めてから然程しない内に3人は空が見える場所に出る事ができた。

 それに合わせて森の上の方で翼のはためく音が聞こえた。

「エアルさまが降りられてきたようですね」

 リデルの声に二人が頷くと同時に、白い羽をもつ栗色の髪の天使が森の木々の隙間に急降下してきた。彼女の身長よりもずっと大きな翼は見事に枝を避けきると、3人の前に静かに身体を降ろす。

「ご無事で、何よりです」

「まあ、なんとかね」

 エアルの言葉に答えた理に、威は不満そうな顔をする。怪我をしている以上、無事とは言わないのではないだろうか。

「それにしても、すごい所に逃げ込みましたね・・・ここは地元で有名な『魔物の支配する森』ですよ」

 彼女の発言に残り3人はやっぱり、と小さく返した。

「でも、この森を越えると目的地には近いです」

 エアルは懐にしまった地図を地面に広げた。理と威も地図の回りにひざまく。

 広げられた地図は大分古く、使い込まれていた。彼女はまず地図の一点を指さした。

「今はこちらです。そして、つい先程いた村がここ」

 そこには見慣れない記号が並んでいた。もしかしたら、こちらの世界の字なのかもしれない。

 二人の頭に『何故会話ができるのか』という疑問が浮かび上がったが、彼女ではそれに答えられない気がして質問するのをやめた。

「私たちが向かうのは、このメガリスの山です」

 彼女は森を抜けた先にある山を指さした。

 たしかに公道を使えば森を迂回せねばならず、馬を使ったとしても一週間ほどを有するだろう。

 だが森を抜ければ、その目的地まではさほど遠くはないように見えた。

「危険ですが、先程の村の件もあります。とりあえず森を通り抜けることにしましょう」

 エアルの言葉を受けて、リデルはあらかじめくくりつけてあった荷物の中から大振りの剣を2本持ってきた。

「ここが魔物の森だというなら、武器はそれぞれで持っていた方がいいですよね。剣は使えますか?」

 差し出される剣を受け取りながら、威は疲れたように息を吐いた。

「剣一本で、魔物だとかに対応できるのかな」

 理は威よりもさらに大きな件を肩にかけると、ぼやいている義弟に戯けてみせる。

「威だったら、大丈夫だろ?」

 理の言葉に、威はじとーんっと少し背の高い義兄を見上げた。

「それ『理だったら』の間違いだろ」

「いや、俺は普通の人間だし・・・」

「嘘付け・・・普通っていうのは俺のことを言うんだ」

「そうなのか?」

 少し感性のずれた言い合いに、リデルとエアルは今までの緊張がほぐれたのか、顔を見合わせて笑った。

「さあ、言い合いはほどほどに、暗くなる前に先へ進みましょう」

 エアルは本来の彼女の持ち味である優雅な笑みを浮かべると、まだまだ言い争いをしていそうな義兄弟と自分の従者の前を歩き始めたのだった。

これでマンガで書いた部分の半分が終了しました。

キリが付かなかったので通常の2話分の長さに近いです。

物語としてはまだ第一部ぐらいが終わった程度です。

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