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第7話:逃走

 村の代表の男は、見たことのない衣装を着ている理に少し怯んだ。

 身長は自分たちよりも高く、体格もがっちりしている。その上、彼の身のこなしは生粋の戦士であるかのように一分の隙も無かった。

「あ・・・あんたが、闇王か?」

(また『闇王』か───)と思いながらも、理は無表情を崩さない。

「俺にはその認識がないですけど、そのようですね。それで、そうだとしたらどうする?」

 不遜な態度を崩さない理に男は怒りで頬を染めた。彼の怒りにつられて、回りの人間達もさっといきり立つ。

「どうするか、だと?

 儂らがどれだけ闇の士族に・・・あの意識無き魔物に苦渋を嘗めさせられてきたかを思い知らせるまでだっ!」

 まさに掴みかからんとする相手の腕を理は無駄のない動きで払い、嘲るように笑った。

「では、俺を殺しますか?」

 殺せるものなら殺してみせろという口調に男は拳を握る。後ろに控えている村人も一斉に持っていた棍棒を構えた。

「当たり前だっ!貴様のようなやつがいるから、世界は異常を来たすのだっ!!!」

 繰り出される拳を理は小さな動きで避けると、向かってきた相手の足を払う。男はもんどり打って衝立に身体ごとぶつかり、大きな音を立てて転がった。

「理っ!来いっ!!」

 衝立が倒れると同時に窓の外で威が呼ぶ声がした。

「逃げる気かっ!」

「卑怯だぞっ!」

 理は罵っている男の内の一人を選び、胸ぐらを軽く掴みあげる。

「武器を持たない一人の人間に対して、武器を持った多数の人間が攻撃を加えることは卑怯ではないのか?」

 正論の問い掛けに言葉を詰まらせたその男を、理は背負い投げの要領で溜まっている群衆へと投げつけた。

「俺はまだ死ぬ気はないから、行かせてもらう」

 巻き込まれる形で数人が倒れるのを確認した彼は、丁寧に宣言すると窓の方へと身を翻した。

 部屋での騒ぎに玄関口に隠れていた傭兵たちは姿を現すと、転がっている村人を踏み越えてこちらに向かって突進してきた。

 抜き身の剣を確認した理は小さくしたうちすると、一旦、振り返る。彼は一番最初に斬りかかってきた相手にすり抜けざまに当て身を食らわし、意識を失ったその男の手から剣を奪いとった。

 理はそのまま剣道の要領で向かってくる兵に鋭く峰打ちを銜え、とりあえず一人残らず混沌させてしまった。

 力量の違いすぎる剣技を見せ付けられ、さらに後ろに控えていた傭兵は竦みあがった。

(今だっ!)

 その一瞬の隙を見逃さず、理は外へと続く窓の縁に手を掛けた。

 途端に色めきだつ兵たちを遮るために、手に持った剣を入り口脇の壁に投げつける。剣はその役目を果たすように、『ドスッ』という低い音を立てて壁に突き刺さり、追っ手の足を止めた。

「待てっ」

 様々な声のする中、理は窓をから外へと出ると、馬を連れている威の傍まで全速力で走り、その馬に飛び乗る。威も自分の馬に飛び乗ると義兄の身体に傷が無いかを目で確認する。

「悪いな、待たせた」

「理、遅いぞっ」

 理の悪びれない態度に無事を確認し終えた威が軽く返した。

「お二人とも、こちらです」

 上空のエアルに指示で待ち伏せする人間のいない道を教えて貰ったリデルが馬を走らせ始める。

 二人もそれに倣い、慣れた仕草で馬を繰り、村の近郊を一直線に駆け抜けた。

 

 ヒュンッ・・・ヒュンヒュン

 

 走り抜ける馬に向けて次々と矢が放たれた。どうやら傭兵たちは上空からでは見つけ辛い位置に弓兵を仕込んでいたらしい。

 的確に狙ってくる矢に、馬が脅え足が少し遅くなる。追手たちはの逃げ足が緩まったことに、色めきたち駿馬を生かして使い追いかけてきた。

「もう少し、投げ飛ばしてくるんだった」

 放たれる矢に怯える馬をなんとかいなしながら、理は小さくぼやいた。

 理の小さな呟きに、威はこの義兄の冷静ながらも売られた喧嘩は確実に買うという矛盾した部分をこの時になって思い出した。

「おい、ちゃんと手加減したんだろうな」

 すべての武道において有段者である彼が、本気で技を繰り出せば普通の人間など確実に死ぬ。

「当たり前だっ!じゃなきゃ死んじまうぞ」

 どうやら理も自覚は有るようで、全速力で馬を走らせながら義弟の言葉に怒鳴り返す。

 道にはどこまでも伏兵がおり、武器を持たない彼らには不利な事この上ない状況だ。

 リデルは馬で走りながら、何とか人の切れ目を抜けて目の前の森を指さした。

「あそこの森に逃げ込みます」

 リデルの合図で、理と威は速度を上げて森の中へと走り込んだ。

「あいつら、あの森にっ」

「おい、あいつら・・・」

 追手達が、口々に何かを言っていた。

 弓騎士は森の入り口で馬を止めると彼らの後ろ姿に向けて矢を放つ。だがそれは様々な方向から延びている木々の枝により阻まれた。

「ちっ」

 小さな舌打ちの後、やっと追いついてきた村人達に彼らは状況を説明した。

「どうしますか?」

 説明の後に確認してくる兵士達に、村の代表は静かに首を振る。

「この森に入る事はできん」

 短い追跡劇はここでうち切られた。

 取り敢えず村から厄介な闇の王が消えてくれただけでも彼ら村人たちにとり助かった。

 彼らはもう一度だけ、理たちが消えた森の奥を除き、無言のままその場を去ったのだった。

理は普通(?)の環境で育っているので、できるかぎり人殺しはしません。

他の話の主人公達と大違いです。

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