第6話:天使
3人が座ったところで、威は話を切りだした。
「ところで、そのヤミオウってのは何?」
その問いに、エアルは驚きも露わにした。
どうやら彼女は自分たちが『王』という者だと理解していると思っているらしい。
「『闇王』は、言葉の通り闇の王です。光王・・・光の王よ」
「理は闇で・・・俺は光なの?」
何か納得できない様子で威は呟く。しかし、エアルの困惑もそれ以上だった。
その中で、理は少し考え事をしていた。
夢の中の啓示・・・見つけなくてはいけない、天使。あの夢は今回のことときっと関係があるはずだ。
夢の中の天使が残した言葉───『翼が闇に染まる前に見つけて』と、いう言葉通りに彼女を見つければ解決の糸口が見えるかも知れない。
彼女の希望通りに殺すのか、殺さないのかはその時になってから決めればいい。
「理、どうかした?」
ベッドのクッションを抱えながら威は隣に腰を下ろす義兄を見上げた。理は少し考えた後、エアルに向き直り問いかけた。
「エアルさん、でしたよね・・・───天使を、知りませんか?」
義兄の発した突拍子もない質問に、威は更に頭を訝しげに眉を顰めた。誰よりも頭がいい理が質問するのだからそれなりの意味があるのかもしれないが、どうも話が見えてこない。
「天使?」
エアルも威と同じなのかきょとんとした顔をしている。
彼女は、少し逡巡すると思い切って理に問い返した。
「すみません・・・『天使』、とはどういう物ですか?」
まさかこの質問が帰ってくるとは思わなかった二人は少し頭を抱えた。
「そうだな、説明すると・・・背に翼を持ち空を飛ぶ事が出来る人です」
地球世界にはいないその存在も、自分たちとは違う世界ならば居るのかも知れない。
駄目で元々という気持ちでした質問に、エアルはパアッと顔を明るくした。
「それでしたら、私たちデュファ族の事ですわ」
彼女はそういうと何もない背中から大きな羽を出した。白い白い、どこまでも純白の羽が少し狭い部屋を満たすように広がった。
「君は・・・天使だったのか」
眩しい者でも見たように目を細めた理に、彼女は丁寧なお辞儀で答える。
「『天使』ですか・・・主なる星ではそうよばれているのですか?素敵な呼び名ですね」
彼女はその呼び方が気に入ったのか、大きな羽を少しだけはためかす。それに揺られ、彼女の栗色の髪が緩やかにたなびく。
「君達、デュファ族の中には金髪はどれぐらいいる?」
続く理の質問にエアルは首を傾げた。
「デュファ族に金色の髪を持つ者は居ません。私の髪の色のように栗色や、黄土色・・・茶色が主流です。後は混血で銀色・黒・褐色などがありますが、金色の者は過去、如何ほどまで遡ろうともおりませんよ」
「そう、なのか・・・」
エアルの言葉に肩を落とす理を、威は不思議そうに見ていた。
理は少し考える素振りでその黒い視線をエアルの顔から外した。
バタンッ!
「エアル様っ!大変ですっ」
すさまじい勢いで扉が開くと同時に、黄金の髪の少年が現れた。服装からするとエアルとは別の種族のようだ。
「どうしたのです、リデル?」
慌てている彼にエアルは静かに問いかける。
リデルは状況が理解できていないエアルの背中を部屋の奥へと押し込んだ。
「近隣の村の者が闇王様の事を聞き及び、何か勘違いをしてこちらに乗り込んできたようです」
理は先程窓の外に見た人を思い出す。どうやらあれが村の偵察だったようだ。
「とにかく急いで馬の用意をします。逃げ・・・」
リデルの申し出を遮るように理は立ち上がると
「どうやら、俺は招かれざる客のようだな」
と呟き、リデルの入ってきたドアへと向かった。
彼は手短に逢った衝立で入り口を少し囲うとリデルに小さく耳打ちする。
「早く、見つからない内に窓から逃げろ」
「しかし、・・・」
言い返そうとするリデルを無視して、理は扉を開いた。
ついたての隙間からのぞき見た村人の様子にリデルは漸く時間のなさを悟り、威とエアルを連れて窓から出た。まだ村人は入り口にしか押し掛けていない。
とりあえず、戦力にはなりそうにないエアルに外へと飛び立ってもらうと、威とリデルは3頭の馬を厩から出し、先程抜け出した窓の外に連れてきた。
理は窓から逃げる3人の気配を感じながら、村人との間合いを確認していた。
柔道・空手・合気道・少林寺・剣道・・・すべての武術に通じる自分が本気で倒せば、彼らは普通に死ぬだろう。それは流石にまずいだろう。
「何か、ご用でしょうか?」
取り敢えず用件を聞くべきだと判断した理は、村の代表者と思しき壮年の男性と向きあった。
書いている本人が判りにくい説明です。
つまりエアルはこの世界での『天使』の種族になりますが、その種族には金髪はいないということです。
リデルは黄金の髪をしていますが、森の一族(士族ではありません)でデュファ族ではありません。