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第5話:異界

 異世界・キュスリア────

 かつて主なるせかいの『闇の王』とせかいの安定を図る『和なる女神』によって作られた世界には、様々な異変が起こっていた。

 『闇』士族の暴走、『土』の神官たちの急死、『光』の最高神官にはその職に合わぬ者がたち、『森』の士族は『王』たる少女のみを残して全滅した。他の『炎』・『水』・『風』にはさしたる予兆はでていないもののいつそれが現れるか不明の状態だ。

 風の巫女姫・エアル=セリシアは、風の最高神官の身でありながら、この窮状を救うための旅をしていた。

「風が・・・」


 異質な、風が吹いた────


 自分の知っている風ではない───あきらかにこの世界には属さない風が何かを告げていた。

『主なるせかいとの扉が開いた』

 それは若い女の声だった。

 自分と同じぐらい、いや、それよりはもう少し上かも知れない。

『二つのせかいは重なり合う』

 風と光を纏いながら、闇のヴェールに包まれた声が、天空を網の目のように覆い尽くす。

 どれぐらいの翼を持つ一族・・・デュファ族の者がこの声を聞いただろう。少なくとも上位の神官位のあるものは全て、この声を聞いているはずだ。

 その中で自分だけがこの声の方向を見つけた。声の強くなる場所───そこは大きな歪みと、主なるせかいの音が届く場所でもあった。

 ここ数日で風の発する声が一段と強くなってきている。

 もうすぐ、何かが起きるのだと自分の中の『何か』が告げている。

 彼女は背に生えた大きな翼を広げると天高く飛び上がった。




 眼下に広がる景色の中で神殿の神官達が自分に付けてくれた従者・リデルが馬を駆り走っているのが見えた。

「エアル様っ!」

 ある茂みに近づいた彼が大きな声を上げて自分を呼んだ。

 彼女は急降下すると従者の側に降り立った。

 そこに居たのは自分と同じ年齢ぐらいの少年達だった。

 服装は余り見慣れない衣装であり、何のために使うのか判らない布が首から下がっている。

 この世界では余り見かけない光をも吸い込む漆黒の髪と、どこか紫色の輝きさえある黒髪を持つ少年たち。意識を失っているのかその奥にある瞳は見て取れないが、それぞれ髪の色と呼応した色をしているに違いない。

 何よりも、彼らの回りに漂っている風が『彼ら』が王であることを自分に告げていた。

「彼達です。運びましょう」

 エアルの言葉に、リデルは急いで予備の馬を連れに行った。

 二人の顔をじっくりと見たエアルは「歯車はどう回るのでしょうね」と、誰にも聞こえないように小さな呟きを風に乗せた。




 顔に差し込む強い光が不快すぎて理は目を覚ました。

 見知らぬ部屋・・・どこか判らず視線だけで辺りを見回す。

(俺は・・・どうしたんだっけ)

 記憶の糸を手繰り、理は自分の置かれた状況を更に探る。


 そう、自分たちは黒い風に拘束されて・・・・っ!!


 理はその事を思い出した瞬間、ベッドから身を起こした。

 自分が寝ていたのは少し広めのダブルベッドだった。横を見ると義弟は何も感じないように静かに眠っている。

「無事、か」

 とりあえずは、それだけで十分だった。

 見たところ、威も自分も怪我はしていないようだ。

 手持ち無沙汰で威の髪の毛を撫でていると、彼はむずかりながら目を覚ました。

「ここ・・・どこ?」

 光から逃げるようにうつ伏せながら、威は隣にいる理に訊く。

 理はベッドから足を降ろして窓の外を確認する。窓の外にいる人、景色、それらはまるで外国の片田舎にも見える。

「さあな・・・日本ではなさそうだ」

 窓から覗く自分の容姿を見て、恐ろしそうな表情を浮かべる彼らの行動に理は眉を顰める。

 どうやら自分たちは歓迎されていないようだ。


トントン・・・


 小さなノックが響いた。

 威が「はい」と答えると、扉は開き一人の女性が顔を出した。

 流れうつ栗色の髪は膝まで伸び、涼やかな目元は若葉色をしている。彼女は目覚めていた彼らに笑顔を見せると、深く礼をした。

「初めてお目にかかります、我らが王よ」

「「え?」」

 身に覚えのない呼び掛けに、二人は顔を見合わせた。

 エアルはまだ頭を下げたまま、挨拶を続ける。

「私は風系神殿にて巫女姫をしております、エアル=セリシアと申します」

 聞いた事のない神殿や、覚えのない『王』という呼び掛け・・・それよりも、ずっと頭を下げたままでいるエアルに理達は困惑する。

「とりあえず、顔をあげてくれる?」

 そのままで居られる事が嫌だった威は、お願いしてみた。

 エアルは「しかし、・・・」と少し顔をあげて二人を見る。

 理も威の意見に同意すると、エアルに静かに頷いて見せた。

「俺達にそうされる覚えがない以上、頭を下げたままでいられると気持ち悪いんだ」

「わかりました、闇王殿」

 理の申し出に、エアルは静かに頭を上げた。

 やっとまともに顔を見る事が出来た状態で、彼らは彼女に椅子を勧める。

「立ったままだと話しにくいから、座って」

「はい」

 威はベッドに寝転がったまま、理はその横に腰を下ろし、エアルは部屋に唯一ある椅子に腰掛けた。

理と威が異世界で目覚めました。

しばらくはこの世界で話が進みます。

後、頭に出てくる『和なる女神』はリディア王国物語に出てくる『和なる女神』と同じものです。

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