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第32話:終章〜地球〜

 ──────地球世界


 威が目を覚ますと、そこは見知った自分の部屋だった。

 先ほどまで自分がいた世界は夢だったのか・・・それは夢で、理はこの世界にいて・・・そんな風に頭を巡らせる。

「目が、覚めましたか?」

「父さん・・・」

 心配そうに覗き込んでくる視線に、自分が体験したことはすべて現実であると思い知らされる。

 見ると父の横では洸野が静かに自分を見ていた。母も珍しく早く仕事を終わらせたようで、父とは反対サイドで自分の顔を覗き込んでいた。

「勝さんに連絡を入れた。理は行方不明という形で、高校には休校届を提出してある」

 すべて電話一本で済ませた。

 理の父親の勝は声も出ないような状態だったが、息子が選んだ選択肢をそれなりに理解し、彼の帰還を信じるといっていた。

 学校も副理事長であるみのる自身から理事長である風原かざはら和久かずひさに連絡をいれてある。

 報道機関には、麻樹の全勢力をもって圧力を掛け、彼が行方不明になった事実は家族のみが知る形に替えた。

 とりあえず、警察にも連絡は入れてあるが、彼らには見つけられないだろう。

 なぜなら、理はこの世界とは違う世界にいるのだから。

 威はぎゅぅっと布団を握り締めた。自分の不甲斐なさをかみ締めるように。

「お帰りなさい、というべきですかね・・・・」

 良弘は自分を攻めている自分の息子の頭を抱きしめると、静かに静かにその背中を撫でてやる。実はベッドに腰掛けると夫の胸で悲しみに肩を震わせている息子の髪を梳いてやった。

 洸野はその様子を暫く眺めてから、静かに部屋を出た。

 今は3人だけにしておいたほうがいいだろう、そう思った。

「洸野お兄ちゃん」

 部屋を出て暫く外を眺めていると、背後から声を掛けられた。振り返ると由宇香が心配そうにこちらを見ていた。

「威・・・お兄ちゃんだけが、帰ってきたって・・・」

 彼女に伝えたのは若い女中のうちの誰かだろう。年配の女中たちは実の指示があるまでは絶対に彼女に告げたりはしないはずだ。

「威は部屋にいるよ」

 洸野は何とか笑いながら、彼女に威の部屋を示す。

 だが彼女は彼の足にしがみ付いて、無言のまま首を横に振った。

 誰よりも悲しいはずの彼が、笑っていることが辛かった。この優しい人を泣かせてあげられるほどの腕を持っていない自分が悔しかった。

「由宇香ちゃん・・・?」

 声をかけると少女はもっと強く自分の足に抱きつく、どうしたものかと困っていると威の部屋の扉が開いて実と良弘が揃って出てきた。

「由宇香、放してあげなさい」

 ははの言葉に由宇香は渋々巻きつけていた腕を外した。心配そうに見上げてくる視線を受け流しながら、洸野は威の部屋の扉に視線をやった。

「威は、もう一度寝ました。まだ話せる状態ではないみたいです」

 丁寧な口調で、洸野の欲しい言葉をくれる良弘に彼は「そうですか」と小さく呟いた。良弘はそんな彼の頭をぽんぽんと優しく撫でてあげる。

「リュウファさんに聞きましたが、理はここへ帰ってくると約束したのでしょう?威も同じことを言っていました。

 では私たちができることは無くしたことを嘆くのではなく、取り戻す術を見つけることです」

 そのための能力は誰もが持っている。ただ扱いきれないほど強力な能力で、それを開放することがまだできないだけだ。

「できるだけのことはしてみましょう、君達も・・・そして私達も」

 すべての可能性を投げ出すことは愚か者のすることだ。

 時はまだまだある。理が一人で異世界キュスリアでがんばっているというのなら、地球世界こちら側の人間がただ呆然と待っていてはいけないはずだ。

「そうですね、とりあえず、連れ戻して、頭を殴って・・・笑ってやります」

 半泣きような笑顔で、洸野は良弘の言葉に同意した。

 たぶん、今、眠りについている威も同じように思っているはずだ。

 自己犠牲の大好きな親友を殴るために、自分がなすべきことを見つけようと洸野は静かに心に決めた。

やっとこさ終章になりました。とりあえず事件後の地球側の話です。威はまだショックが抜けきっていません。リュウファはどうやら帰って、アメリカにいる恵吏に報告しに言ったようです。

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