表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/34

第3話:狂風

 不意に、理と威の回りを包む空気が変わった。


「「!!!!!」」


 突如として現れた黒い風が辺り一面に吹き荒れ、二人を捕らえようと手を伸ばす。

 世界がぶれるように歪み、いびつに変わる。

「理っ!!」

 黒い風の中心にいた理に向かって、威は叫びながら駆け寄る。

「逃げろっ!!威っ!!!」

 異質な風に身体を拘束されながら、理も返すように叫ぶ。

 その声を封じるように、風は更に強く理の身体を締め付ける。

 どこからか、声が聞こえる。今日、見た夢の声が風の向こうからする。

『運命の輪が、回り始める・・・・』

 夢の中より明確に『何か』を伝えようとする声と呼応するように、風の力は強まっていく。

『すべての輪は、あなたを中心にその宿命を紡いでゆく』

 理を完璧に捕らえた淀んだ風は、今度は威へとその触手を伸ばす。

(引き込まれるっ!?)

 思った時にはすでに、その身体は風により動きを封じられていた。

『世界は、暗黒と混沌の中、自らの行く末を決める』

 ただ訥々と語られる言葉は、威の耳にも届く。

『歪んでしまった、ことわりを正す為に・・・・』

 もがく力も奪われ、二人を包む風は異界への扉を開いた。

『すべての、世界が、動き始める・・・・』

 最後の言葉と共に、二人の身体は扉の向こうへと連れ去られた。異質な風を非難するように、冷涼たる風が、扉のあった場所を吹き抜けた。

 ──────何かが、始まろうとしていた。




 由宇香は、胸騒ぎを憶えて窓の外を見上げた。

 空が泣いている。風が叫んでいる。

 『何か』を奪われたと・・・悔しさを訴えかけてくる。

「理お兄ちゃま・・・威お兄ちゃま・・・」

 名前を呼んでも、何の返事も返ってこない。

 由宇香は胸の前で手を組むと天に向かってただひたすら祈る。

『神様、お願いです。私のねがいを聞いてください』

 無言の声は、叫び狂う風にかき消されそうになりながらも、天を望む。

『お兄ちゃま達を、すべてのわざわいから護ってください』

 ただ一つの願いを胸に、幼い少女はただひたすら窓の外に広がる空を見つめていた。




 ──────アメリカ・マサチューセッツ州

 恵吏は自分の講義を終え、研究室へと向かっていた。

 空は晴れ渡り、風は凪いでいた。

 所々で声を掛けてくる自分よりも年上の下級生に挨拶をしてから、恵吏は余り人の通らない道へと入った。


「!!!!っ」


 不意に強い風が吹いた。

 どこか異質で、狂ったように叫んでいた。

 荒れ狂う風は恵吏の襟元近くを通り過ぎると、またどこかへと消えていく。

(今のは・・・)

 恵吏は風の行く先を視線で追ってみるが、何も見えない。

『時が・・・来たのか』

 夢の啓示は大分前から受けていた。いい知れない不安と、やるせなさが恵吏の胸に渡来した。

『動き始めた時は、誰にも止められない』

 夢に出てきた『金色の髪を持つ天使』は、恵吏に嘆くように訴えていた。

 そして、もう一人──────『風を操る少年』も・・・・

「リュウファ、聞こえているんだろう?」

 恵吏は、誰もいない空間に話しかけた。

 その声に答えるように涼やかな風が木々を揺らす。

「洸野と由宇香ちゃんに、力を貸してやってくれ」

 遠く離れたこの地からでは、どうすることもできない。

 願うのは自分の大切な幼なじみ達の無事だけなのに、『今の自分』では何も出来ない。

『神様、お願いです・・・僕らに力を与えてください』

 遠い遠い空を見上げながら、恵吏は無言で願った。

『大切な人を護るには、僕らはあまりに無力です』

 虚しいほど無力な自分・・・護りたくても、護る事ができない────駆けつける事すらできない本当に自分は無力だ。

『神様、お願いです。彼らを護る力を、僕らにください』

 切なる願いだけを持って、風は中空へと上がり、海を渡ったのだった。

メインの主人公・理と弟の威がやっと異世界に行きました。

次回、地球世界側の主人公・洸野が出てこれば、マンガでかいた部分の4分の1がかけた事になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ