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第27話:決断

 ──────キュスリア


 開かれた水晶メガリスへの入り口を入ると、雰囲気が一変した。

 外にあったような禍々しい黒いよどみはなく、ただただ木漏れ日のような光が当たり一面を満たしている。

「外とは雰囲気が違うなぁ」

 威も理と同じ意見らしく、繁々と柔らかい光を放つ壁を眺めながら歩いている。

 通路は一直線に続き、その先には祭壇のようなものがある部屋があった。

 ここも通路と同じく光る石の壁でできており、その中心には何かが嵌め込まれていただろう跡だけが、空虚むなしく残っていた。

 部屋の隅には3mはありそうな黒い石がおいてあった。

 光の部屋の中でそこだけが闇を生み出している。

 だが石の有する『闇』は夜の帳のように優しく、暖かい気を出している。その石の表面は鏡のように磨きこまれていて、前に立つ人物の姿をしっかりと映し出していた。

『道ヲ見ツケニ来タノデスカ?』

 外にいたときよりもはっきりとその声は二人に問いかけてきた。

 あくまでもそれは平静でまるで狂っていないようにも感じる。

「ああ、あなたがたが主なるせかいと呼ぶ地球へ帰る道を見つけるためにきた」

 理はそういうと何かが奪われた祭壇に向かって自分の言葉を伝える。その言葉に、水晶の中の光が悲しそうに明滅する。

『ワカリマシタ、貴方ガソウ望ム以上、私ニ止メルすべハアリマセン』

 少しの沈黙の後、声は悲しそうにそう告げた。

 理は悲しそうに何もない祭壇を見上げた。

 やはりメインのシステム部分は狂っていない・・・自分たちを呼んだ声も、彼女のものでも、そして奪われた少女のものでもないのかもしれない。

 だがその答えを出すには、自分たちの持つ情報があまりにも少なすぎた。

『シカシ、私ノ能力ちからハ既ニ大半ガ失ワレツツアル・・・』

 声の主はどこか達観したように静かに言葉を続ける。

『コノ世界キュスリアガ何者カニヨッテ狂ワサレタ時カラ、ソシテ『彼女イリュージア』ガ心亡キ者に奪ワレテシマッタ時カラ・・・能力ちからノ汚染ガ始マッタ』

 心亡き者・・・新しく就任したという『光の最高神官』によって『黄金の天使』が奪われたことにより『光』と『闇』のバランスで封じられていた『魔』が能力を得てしまい、その一部が残されていた『闇』を喰らって世界へと流出してしまった。

 メガリスを守る水晶たちも、内側から来る魔の汚染に戸惑い、すべての人間を排除しはじめ、本体の『彼女』は残りの『魔』に飲み込まれないように特定の人物のみにしか『入口みち』を開かないようにした。

『私ニ従ウ能力ちからハ後ワズカ・・・今ノ私ニハ一人ノ人間ヲ運ブ能力ちからシカ残サレテイマセン』

 贖罪をするように告げる彼女の口調が、エアルの言葉と重なった。

水晶メガリスの扉は一人しか通れない)

 最期に告げられた彼女エアルの予言−−−彼女はやはり巫女だったのだろう。

 こういう未来を知り、自分に残るための理由を残してくれた。

 理は隣で衝撃を受けている威を見た。信じられない、と見開かれた瞳は状況をうまく判断できないようだ。

「威・・・お前が地球に帰るんだ。エアルが、翼を残したということは俺がこの世界に残る未来を知っていたんだろう。だから・・・」

「やだ!絶対にやだっ!!二人一緒に帰るんだっ!理が残るっていうんなら、俺も残る」

 威はむずかる様に「いやだ!」と否定を繰り返す。

 彼には理を一人で残していくことなどできるはずもない。義理の兄弟だとしても、5歳のときからずぅっと一緒に暮らしてきた『家族』のだ。『他人』だなんて思ったこともない。自分のたった一人の大切な兄をどうして置いていけるはずがない。

「ここで二人一遍に行方不明になって、義父さんや義母さん、由宇香を悲しませるのか?」

 理の言葉に威の肩がびくんと揺れた。

 彼はそんな家族思いの義弟の姿に普段は誰にも見せない最上級の笑みを見せた。自分よりも幾分か低めの位置にある頭を優しく優しくなでながら、諭すように彼にお願いする。

「それに、威が残るより俺が残ったほうがいい。順応能力だって俺の方が優れてるしな」

 威はその言葉を非難するようにやっと視線を上げてくれた。

 それに向けて、理ももう一度笑顔を作って見せた。だが今度は先ほどのように自然に笑うことはできない。義弟の瞳に浮かんだ涙が、自分との別れを本当に悲しんでいることが見て取れた。

「それに、山下を一人にするのか?」

 理が最後に出したのは究極の一言だった。

 4人の幼馴染みのうち、恵吏はすでに望まぬ海外生活を強いられている。その上で自分たちまで彼の元からいなくなってしまったら彼はどうなるだろう。

 確かに彼と一緒に暮らしている兄もその婚約者も・・・麻樹家の人間だって彼を慰めることに努力は惜しまないだろう。しかし彼が人に言えない孤独に苦しむことは自分たちが一番知っていた。慰めてくれる人に『大丈夫』と笑って応えながら、心の中でずっと泣きつづけることを。

「やっぱり、理が帰ればいい」

 洸野の心と一番繋がっているのは理だ。それぞれと先に出会っている威よりも深い友情を彼らは築いている。

 それは理の深く深くに負った傷を、直す術を洸野が持っていたからかもしれない。

 洸野の内に秘めた孤独を埋める術を、理が知っていたからかもしれない。

 逆に威が一番仲がよかったのは恵理だった。彼女は一人で孤独に耐えながら、常に新しい道を切り開いている。二人でいることは確かに意味があるが、一人で生きていける人間の強さを彼女も自分も持っている。

 威が出してくる反論をある程度予測していたのか理は、背中に生えた翼を大きく動かして「こんなものをつけて?」と自嘲してみせた。

彼女エアルのようにしまっておけばいいだろ」

「だめだな・・・絶対に何かしらの不備が出てくるはずだ・・・お前が帰るべきだ」

 理の言葉を聴きたくないとでも言うように威は思いっきり頭を振った。

威が「一人しか帰れない」という事実をやっと知りました。理視点でできるだけ話を進めているのでわかりにくいかもしれませんが、威の方は理の背中の羽を見たときに漠然とした予感として理との別離を予測しています。

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