第23話:問掛
どこか秘密にしていた彼女がやっと話してくれた真実に、少しだけ理の目元が柔らかくなった。
威も然程怒っているようには見えない。逆にエアルの従者であるリデルの方が驚いているようにも見える。
彼女は彼らの表情を見て驚いていた。
「別に怒るほどの内容じゃない」
「隠し事をしながら一緒に行動されるのが気持ち悪かっただけだし」
もし『地球世界』がそんな状態になっていて、更にそれを回避できる人間が異世界から降って来たなら、自分達だってその人を利用するだろう。
それぐらいの事で怒ったりなんかはしない。
ただ短い間とはいえ、一緒に行動しているのにすべて隠されていたことが気持ち悪かったのだ。
彼女は『そういうものなのか?』と視線で問いかけながら首を傾けた。その表情は年相応の高校生ぐらいの少女に見えた。
「さ、秘密もなくなったところで先に進もう」
理はこれ以上会話を続ける気などないかのごとく、メガリスまでの道を黙々と歩き始める。
『排除、セヨ・・・排除・・・スル』
水晶から響いてきた声が、ある明確な意思を持って変わる。
異変を察知した理は威を、エアルはリデルと共にその場から跳躍する。
ざあぁああああぁあぁぁぁあぁっ
耳障りな音と共に彼らが元いた場所の草が一直線に焼けた。
度重なる警告を無視して近づく者に紫水晶の防衛本能が『自らに害為す侵入者』だと認識して牙を向いたのだ。
「レーザー光線みたいなものかな、水晶の屈折を使って太陽光を焼くための力に替えているってところだな」
やけに冷静に状況把握をする義兄に、威は胡乱な目を向けながら状況をどう打開すべきかとエアルに視線を向けた。
「水晶の暴走を止めるためには光の王か闇の王が直接本体に手を触れて呼びかければいいそうです・・・しかし・・・」
少しでも物陰から出ようものなら先ほど放たれた熱き光によって攻撃される。できるだけ物陰だけを選んでいったとしても残り僅かの場所はやはり無防備になる。
「とりあえず、俺と威はあの巨大水晶の傍まで行く。エアルとリデルはここで待機していてくれ」
理が振り返ると、威も解かっているかのように一番近くまで行けるルートを辿り始めた。
レーザーを発射するのは巨大な水晶のみのようで、自分たちの周りにある水晶たちは言葉を発しても攻撃は仕掛けてこない。
とりあえず欠片から手懐けようと触れてみると、水晶はそれだけで言葉を発しなくなった。
どうやらどちらかが触れることにより、小さな水晶と巨大な本体とのリンクが切れるらしい。
「と、ここまでが限界か・・・」
残り10mの所で影となる場所が消えた。
麓で見る巨大水晶はまるで機械のように所々で光を放ちながら、彼らが出てくるのを待っている。
「とりあえず、俺がレーザーをひきつけるから・・・威はすぐに本体まで走って触ってくれ」
今までの水晶の構造からしてそれが一番正しい方法に思える。
「囮は俺がやるから、理の方が本体に・・・」
「威、俺の方が足が速い。囮になっても俺なら撃たれない」
いつもの言い聞かせる口調に、威は口を尖らせた。
確かにこんな危険な囮は足の速さや俊敏な動きが重要となる。理は威よりもウエイトも身長も一回り大きいが、俊敏な動きは威以上にできる。
だが胸に蟠った何かが『不安』を警告している。自分がこの決断を決めることで、何かを失う危険性を示している。
「それじゃ、行こうか」
理の声にはっと顔をあげるとすでに彼は物陰から出る準備を整えていた。
もうこうなったら自分が素早く本体までたどり着き、暴走を止めるしか手立てはない。
腹をくくった威は大きく深呼吸をすると理と視線を交わし、彼が飛び出した2秒後、本体に向かって走り始めた。
理はその言葉どおりに、自分に向かってくるレーザーを巧みによけている。
本体にたどり着いた威はこれで暴走を止められると信じてその硬質な表面に手を当てる。
しかし、今までとは違い、声はやまず、違う問いを投げかけてきた。
『アナタ・ハ・ダアレ?』
物語がやっと佳境に入ってきました。
サブタイトルは問掛です。本来なら送り仮名が必要ですが他のタイトルと同じようにするために外しました。