第21話:約束
突然現れた親友の姿に驚きながらも、理は冷静に状況を判断していた。
自分たちと同じようにかどわかされた訳ではないようだ。後ろに小さいリュウファがいるせいでか、やたらと足元を気にしている。
『時空のずれのせいでそちらからこちらに戻れるチャンスは明日のお昼過ぎ・・・それまでに扉の前に辿りついておいて欲しい』
洸野の説明から理は自分が向かっている先が間違っていないことを知り安心した。
自分だけならともかく、威もいる状況では僅かの判断ミスも許されない。威を地球世界に返す。そして自分も・・・・・・それだけを求めているのだから。
『こちらの『風』が扉を開くと必然的にそちらの扉も開くことが出来るようになるらしい。その後は俺がお前らを引っ張り出す』
大根でも引き抜くように軽く言ってくれているが、それが難しい作業であることは彼自身がわかっているのだろう。瞳が真剣なままだ。
『絶対に、帰ってこいよ・・・約束だぞ・・・』
声にノイズが入り始めた。時空がまたずれ始めているのだ。
「ああ、どれだけの時を経ようとも、必ず帰る」
「待ってろよっ、山下っ」
たとえこのチャンスが駄目になったとしても次を求めて行動を起こす。待つことなんてしない。
しっかりと親指を突き出した二人に洸野は花も綻ぶような穏やかな笑みで返した。
『ああ・・・やく・・・く』
声はノイズに消され、緑色の光が森へと霧散していった。とたんに森の一角が別世界の様に優しい空気へと変化した。
「すごい・・・すごいですね。さすが『主なる星』の『森の王』です。異なる世界に対しても影響力を持つなんて」
やや興奮したように顔を赤らめながらリデルが理と威の元へと駆けつける。
エアルも始めて目の当たりに見る凄まじいほどの力に少し興奮しているようだ。
普通、『闇』や『光』・・・その他の『エレメント』を持つ王ならば他の世界で力を振るうことが出来るが、『森』と『大地』は世界に縛られることが多い。
それゆれその『星』で最高の位置でいても、他の世界では無力になる。
しかし先程の『少年』は違った。他の世界でも通用する能力を持つ彼は、自ら発していた光により森の臭気と邪気を見事に払い除け、森に静寂を取り戻した。
「「森の王?」」
また『王』なのかとでも言いたげに二人は顔を見合わせた。
「あれほどの緑のオーラ、王以外ではありえないでしょう」
確かに、親友の身体は光っているようだった。
リュウファの能力を借りつつ、精神体のみこちらにシンクロさせたようだった。あまりにも普通に喋っていて気づかなかったがそれはとてもすごいことなのではないだろうか。
「とにかく、あの方のお陰で安心できるスペースができあがりました。朝までゆっくり眠れますよ」
清浄な森の気の中には、魔で汚された獣は入れない。
普通の獣もその中での不浄を犯さない。
たったあれだけの来訪だけでこれだけの場を作り上げた見事さに、リデルの尊敬の念は高まる。
「とりあえず、寝るか・・・」
「おう」
たとえ自分の友人がどのような人物であろうとも彼は彼だ。
そして彼は自分たちが安心して眠れるようにこの場を作って行ったに違いない。この澄んだ大気は彼の匂いがするようだ。
それだけのことにやけに安心している自分たちに苦笑しながら、理と威は眠りについた。
──────地球世界
緑の光が止むと同時に洸野はその場でくず折れた。
爆発しそうだった能力はすでになりを潜め、身体に少しのけだるさが残っている。
「伝言を伝えるだけにしてって言ったのに」
リュウファは洸野の背中を支えながら文句をいった。
まだ能力に目覚めきっていない洸野が、清浄の場を作るのは負担が大きい。
使ったのは純粋に森の能力だけだから30分もすれば体力も回復するだろうけど、それでも無茶は無茶である。
「ごめん、でも、あいつらがしっかり眠った方がいいかと思って・・・」
威は兎も角、睡眠不足の時の理は『少し』やることが荒っぽくなる。
そういうことを考えると彼にも安心して眠る場所を作ったほうがいいかと思った。
「とにかく、次に道が開くのは逢魔が時・・・後6時間ほどあるから眠って体力を回復してね」
リュウファはそういって洸野の身体を持ち上げようとしたが、体格差がありすぎてびくともしない。
「自分で移動できるよ」
洸野はふらつく足を支えて立ち上がろうとした。しかし足元がぜんぜんおぼつかない。
リュウファはため息をつくと、濃縮した風を呼び寄せ、彼の身体を浮かしベッドに運んだ。
「悪い」
「そう思うなら、次からは無理をしないでよ」
洸野はリュウファの忠告に「はい」と答えると瞼を閉じた。
森の王・洸野、本領発揮でした。
精神不安定の理にとり洸野の作り出す森のマイナスイオンは効き目のいい常備薬です。