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第2話:日常

 優雅に料理を消費しながらの食事は終始、和やかに進む。

「今日は全部食べられたな」

 朝のお粥をしっかりと食べきった由宇香の頭を理は優しく撫でてやった。

「顔色もいいし、昼間は庭で遊べるな」

「でも、今日は槍でしょ?」

 おしゃまな妹のものいいに、理は苦笑しながら、隣に座る義弟を睨め付ける。

 威は視線を出来る限り反らせて、義兄の怒りの表情を見ないようにした。

 由宇香はくすくす笑いながら、そんな二人の様子をみていた。

(・・・・・・なんだろう、これ?)

 何か微かに音がした。

 何の音かは判らない。透き通るような、不安にさせるような音だった。

 それが兄二人の回りから、波紋を描くように響いている気がする。

 何か、いやな予感がした。

 でもそれが何か判らなくて、由宇香はそんな自分の考えを払拭するように、兄たちに問いかける。

「お兄ちゃまたちは、今日早く帰ってこれる?」

 妹のすがるような眼差しに不思議そうな顔をしながら、理は自分の放課後の予定を思い出す。

「執行部が、あるかも・・・・だから、保証はできないかな」

「最近、部活行ってなかったら、昨日、呼び出し貰ったんだよねぇ」

 可愛い妹の申し出だが、高校生には高校生なりのつき合いがある。

 だが由宇香にはそれが気に食わないのか「む〜っ」と頬を膨らませた。

「じゃあ、洸野こうやお兄ちゃまは?」

 洸野・・・山下洸野は理と威の幼なじみに当たる少年だ。

 フランス人と日本人のハーフである母とある旧家の跡取りとの間に生まれた少年で非嫡出子として育った。性格が穏和で由宇香のお気に入りでもあった。

 彼は中学最後の年に母親を無くし、今は兄である剣人けんとと同居を始めていた。そのせいか以前よりこの屋敷に訪れる回数は減っている。

 また彼以外に月路つきじ恵吏えりという少女を含めて、幼い時の彼らはいつも4人で行動する事が多かった。

 今、彼女は親の都合で渡米し、16才という若さでありながらMITに通っている。

 妹の口からあがった友人の名前に理はいたずらっぽく笑ってみせた。

「洸野は俺と一緒の行動になるだろ」

 実際、理は洸野と行動する事が多い。

 恵吏がいた頃は威は恵吏と、理は洸野といつも行動していた。一人かけたことにより威が洸野と過ごす時間も増えたが、圧倒的に理といる時間の方が多い。

「お・・・」

「お?」

 顔を伏せて、拳を握った由宇香は地を這うような声で文句を言った。

「お兄ちゃま達のいけずぅぅぅぅっ!」

 妹の可愛い文句を聞き流しながら、二人は鞄を持つと、「いってきまぁす」の声と共に玄関ホールへと向かってしまった。




 理と威は学校まで送るという運転手・松山の申し出を「だいぶ早い時間だから」と断り、広大な庭を抜け屋敷の外へと出た。

「まあったく。どこでああいう言葉を覚えてくるのかねえ」

「俺達の会話の中で、だろ?」

 生まれた時から余命を宣告されている由宇香は、今まで一度も学校には通った事などない。彼女と接する子供は自分たちぐらいだろう。

 常に自分よりも年上の人間とばかり居るために、彼女は普通の子供よりも幾分大人びていた。

 そんな身体の弱い妹のことを理も威も・・・そして彼の友人達も大切に思っている。

「なあ、理だけでも早く帰れないか?」

 いつもなら我がまま一つ言わない妹の言葉に、威が前を歩く義兄に問う。

「そういう事を生徒会長が聞いてくれたら、な」

 理はそう言いながらも、生徒会長に今日の執行部を休むように願い出るつもりでいた。

 子供に甘い彼女の事だ、こういう理由ならばきっと承諾してくれるだろう。

「俺も、できるだけ早く部活キリつけて帰る」

「そうしてくれ」

 威の言葉に理は優しい瞳で応えると、大きく伸びをした。

 いつもと同じ朝だった。その時までは・・・・

麻樹家の日常の風景です。病気がちな妹に優しい兄たち+その友人。

兄たちはちょっとばかり心身の出来が特殊で、両親たちの職業が特殊ですが本当に普通の家庭です。

二人の通っている学校は『風原学園』の高等部です。

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