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第17話:幻視

 ──────異世界・キュスリア


「うっぅわぁぁ────すっげぇなあ」

 翌朝、太陽が上ると同時に村を出た一行は、まっすぐメガリスに向かっていた。お昼をすぎた頃に見えて始めた巨大な紫水晶の石柱に威は感嘆の声をあげている。

「あれ、全部、紫水晶アメジストなの?」

 麓の森を突き抜けるように生える石柱は、それだけで見ごたえがある。威のはしゃぎっぷりにエアルは小さく微笑みながら、「そうです」と答えた。

「中央にそびえるひときわ大きな石英せきえいが聖体・メガリスの本体で、その周りに散らばる石片はその目や耳のような役割をしていると聴きおよんでおります」

 森の所々には人の身長よりも大きい水晶が生えている。それが森の緑と相俟あいまって、なかなか不思議な光景を作り出していた。

「この世界のもう一つの支柱・世界樹ユグドラシルと対を成し、世界の安定を保っていると伝えられています」

 現在、世界樹を守っているのは森の王と呼ばれる小さな少女。

 まだ能力が目覚めきっていない彼女を嘲笑あざわらうかのようにメガリス周辺で異変が置き始めた。

 闇の士族の暴走・『闇』がが押さえていた魔物たちの横行、世界の歪みと呼応するように聞こえ始めた風を渡ってくる『ねがい』・・・。

 何かが動き出しているのに何が起きているのか判らなくて、『主なるちきゅう』から訪れたばかりの『彼ら』に縋ってしまっていることにエアルは少しだけ罪悪感を覚えていた。

「このメガリスの中には、主なるせかいへとつながる『扉』があると伝えられています」

 その言葉は、彼らが一番欲しかった情報だった。

 この世界の者でない自分たちが剣を携えて魔王を倒しに行くなんて、ロールプレイングみたいなことは御免だ。ましてやラスボスの名前が自分では洒落にもならない。

「それに、あそこには伝説があるのです」

 理が出会ってすぐに尋ねた『金の天使』・・・それを聞いてすぐに彼女はその伝説を思い出した。

「金色の豊かな髪を持つ光を司る有翼人種デュファが眠っている、と」

 その言葉と同時に、理の頭の中に鮮明なイメージが投影された。

 黄金の髪の、自分を慕う少女。彼女は真っ白な翼を広げて死にかけている自分の傍に舞い降りる。 その指先は暗闇の中で、無数に浮かぶせかいの一つを指差していた。

『待っています、あなたを・・・』

 夢の中と同じだが、ずっと落ち着いた声。

『私がこの世界の守護人もりびととなりましょう。やがて来る時まで、このせかいを存続させるために』

 彼女はそう告げると、白い羽を翻して指差した世界へと降りていった。死にゆく自分は彼女の決断に感謝をし・・・そして・・・

 ありえない記憶が自分を支配する。見えないはずの幻影がまるで現実かのように自分の記憶に雪崩れ込んでくる。

「理?」

 急に馬の脚を止めた理に威が心配そうに声をかける。その姿に、彼女の姿が重なる。

 理はぱたぱたと手を振ると、「たちくらみだ」と嘘をついた。

 なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

 夢の中の天使は性別による骨格の差異や髪の色を抜けば威と瓜二つだ。紫水晶を彩った瞳などはまったく同系の物だと言っても過言ではない。

 緩やかに広がる髪、自分を覗き込んでくる仕草、・・・そんな少女に対して、自分は妹に対するような思慕を持っている。

 『自分』は何かを知っている・・・この風景も、この『せかい』のことも。

 これが自分の前世の記憶だというのなら、自分はいったいどこからこのせかいを見ていたのだろうか。それすらも疑問だった。

 だが先に進まなくてはいけない。

 メガリスは見えているものの、森の入り口に差し掛かったところだ。どれだけ急いでも今日中にはあそこにはつけないので、森の中で野営をしなくてはいけないだろう。陽が沈む前に野営に適した場所まではいかなければならない。

「とにかく、先を急ぎましょう。夜の森はやはり危険ですから」

 同じように野営への不安を感じている森の民のリデルは馬を巧みに操り、深い森を切り開きながらも進んでゆく。

「手伝うよ」

理と威も剣で行く手をはばむつる草や枝を払うのを手伝いはじめた。

やっと金色天使の顔立ちを出すことができました。威と同じ顔です。つまりは威の母親と似ているはずなのですが、彼女とはまた雰囲気が違います。

金色天使がいるといわれているメガリスが紫水晶なのは彼女の瞳と威の瞳が紫色であることに起因しています。


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