第13話:追憶
「たっだいまぁ♪♪」
扉がぱたんと開き、威は満面の笑みで部屋に入った。
しかし、すぐに空気が何気に重いことに気づいて居住まいを正した。
「な、なんかあったの?」
思わず問い掛けた質問にエアルは苦笑しながら「いいえ」と首を振ってみせる。
リデルも苦笑をしているところをみると原因は義兄・理であるらしい。
「理は?」
とりあえず市場で見つけた面白いものを義兄に報告しつつ3人の様子をみようと思ったのだが、彼の姿は部屋のどこにもなかった。
「つい先ほど、出かけられましたよ」
エアルの変わりに威とだいぶ親しくなっているリデルが答えた。
威は「入れ違いかぁ」と残念がりながらも、探しにいくことはせず、買ってきたさまざまな物を机の上に無造作に置き、羽織っていた上着を壁掛けにかけてしまう。
「探しに、いかないのですか?」
「一人になりたいから出て行ったのに、俺が行ってどうするよ?」
意外そうな顔をしているエアルに、今度は彼が困ったように笑う。かなり年上に見えるが目の前の女性は世間の機微に疎いぐらい若いようだ。
エアルはそんな威の考えなど察せず、少し考えた後、意を決して問い掛ける。
「少し、話をよろしいですか?」
「?」
目を大きくあけて視線で『どうしたの?』と問い掛けてくる威の様子を肯定と判断し、彼女は質問を続けた。
「理様のご母堂のことについて、です」
エアルの言葉に、威の表情が一瞬、冷たく変化する。
いつも明るい彼とは対照的な冷たさは、すぐに笑顔の下に隠された。
「俺は、知らない。会ったことないもの」
威はそれだけ言うとどっしりとベッドに腰をかけた。
「しかし、お二人は従兄弟だと・・・」
「エアルさん」
窘めるように威は言葉を遮ると、彼はじっと彼女の顔を見つめた。
「理の母親は駆け落ちして家庭をつくった。そして父さんが再会したとき、彼女は死んでいた」
今でも覚えている父親の叫び声。
『真帆、あなたは何がしたかったんですっ!答えなさいっ!真帆っ!!』
普段、絶対に声を荒げない父は眠ったままの叔母に向かい、霊安室の外でも聞こえるほど大きな声で怒鳴っていた。
父親の手には自殺前に書いたと思われる手紙が握られていた。
『私の狂気から、彼とあの子たちを救って・・・』
どうしてそんな手紙を書いたのかわからないまま、駆けつけたときにはすべてが終わっていた。救いの手は間に合わなかった。
「普通の両親は、まだ5歳の子供に親戚とはいえ会ったことのない人の死体を見せないよ」
次に覚えているのは泣いている従姉の真奈姉さんの姿。
理の心臓が止まったと、初めて会うはずの伯父の胸で泣き崩れていた。何が起こっているか判らず、威は白い服の女性たちの足元を抜けて病室に入った。
「真帆おばさんは自殺する前に、俺の父宛てに手紙を書いてきた。そこで住所と現状がわかり、父さんたちは急いで駆けつけた。
しかし、すでにすべては終わっていた。真帆おばさんは死に、理は生きることを放棄した」
そこで見たのは自分と同じ年齢ぐらいの少年がいろんな機械をつながれている姿。
ぴ────っという耳障りな音が部屋に響いていた。
顔立ちはあまり父に似ているとは思えなかった。だが彼は自分と同じ血を持つものだと感じた。
『目を、覚まして・・・僕たちと一緒に家に帰ろう・・・家族になろう』
そんな言葉を呼びかけていたと思う。
ぴっ・・・ぴっ・・・
耳障りな音が不規則ながらも違う音へと変化した。
途端に周りで心配そうに見ていた白い服の人たちが慌て初めて、自分は改めて部屋の外へと連れ出された。
「何とか理だけは死なずにすんだけど、助けることなどできなかった」
狂気という刃で息子である理の心を傷つけたまま死んでいった・真帆おばさん。
ショックのせいで何も見ず、何も聴かず、自分の存在を拒否した・理。
家族を失い、それでも父親についていった・真奈姉さん
威は沈痛な面持ちであの当時の理の顔を思い出していた。
今度は威の方から見た真帆さんの死です。
威にとり、彼女は理を傷つけた張本人ということであまりよく思っていません。