第10話:震撼
──────地球世界
理と威の鞄を持って現れた洸野に麻樹家の門衛である葛西は驚いた。
「どうなされました、洸野さま」
自分の屋敷の子息ではないが、それに準じる立場にある洸野に対しても葛西は誠実な態度で問いかけ、門を開ける。
「おじさんと、おばさんは?」
息を整えながら聞いてきた洸野に彼は二人がすでに仕事で出ていることを告げた。
洸野は少しだけ考え込むと、肩の荷物をしっかりと抱え上げ、門の中に駆け込んだ。
「俺は屋敷まで行きます。葛西さんは、おじさんとおばさんに屋敷に連絡をくれるように伝言してください」
常になく慌てている少年に、葛西は何かを感じ取り「わかりました」と返して門衛の詰め所へと戻っていった。
洸野は門から屋敷までの道を常にない速度で駆け抜けると、屋敷の扉を大きく開いた。
「理!威!」
大きな声で二人を呼んだ洸野の姿に、古くから麻樹家に勤める家政婦長たる大野木美智子はいつも通り挨拶の礼をしてから、彼の顔を見た。
「どうなされました?洸野さま」
「美智子さん、理と威は、いますか?」
あがる息を抑えながら、洸野は彼女に問いかける。
異変を察知した美智子は時計を確認してから、彼に答える。
「今から10分ほど前にこちらを出ました。何か、あっ・・・」
「洸野お兄ちゃんっ」
美智子の声を遮りながら、少女の声が玄関ホールに響いた。
見上げると吹き上げの二階部分に顔面を蒼白にした由宇香が立っていた。
「由宇香ちゃんっ」
「由宇香さまっ」
体の力を搾り出すような彼女の呼び声と、あまりにも白い彼女の顔色に二人は驚きの声をあげる。
「どうしたの、洸野お兄ちゃん。お兄ちゃんたちに、何があったの?」
少女は何かを察しているのか、どんな異変が起きているのかを彼に尋ねた。彼女の手は胸元に当てられ、苦しそうに息を繰り返す。
本来なら、こんな時は安静にしてベッドに入っていなくてはいけないけれど、今はそんなことを言っている場合ではない。兄たちの事を確かめなくては・・・彼女はふらつく足で、玄関へと続く階段までなんとか歩みを進めた。
「胸が、ずっと痛いの」
この体調不良は、言い知れない不安から来るものだ。
「何か、あったのは・・・わかったの・・・でも・・・それ・・・が、なに・・・」
言葉をしっかり紡ぐはずが、うまく口が回らない。目の前が暗くなり、自分の喋っている声がだんだんと遠くなる。
ふらっ・・・・・・
彼女の努力も空しく、意識はそこで途切れた。
「危ないっ!!」
洸野はすぐにバッグを放ると階段から落ちそうになっている由宇香の体を抱きとめる。
倒れた彼女の体から力が抜けきっていた。ショックのせいか体温が少し下がっている。彼女の体からは冷たい汗が伝い、苦しそうに繰り返される息が、状態の悪化をしめしていた。
「美智子さん、ベッドの用意をっ」
洸野は彼女の体を抱き上げると、後ろに控えていた美智子に指示をだす。彼女は頭を下げてから急いで由宇香の部屋のベッドを整えに走った。
(由宇香ちゃん、何を知ってる?)
洸野は不安に押しつぶされそうになりながら腕の中で苦しそうな表情を浮かべる少女に無言で問いかけた。
だが、その答えが彼女からもたらされることはない。
(理・・・威・・・いったい、何があったんだ?)
いつだって一緒にいた幼馴染たちの突然の消失は、少年の心にも多大な衝撃を与えている。
だが自分まで倒れてしまったら、誰が自体を打開するのかという意地だけでたっているようなじょうたいだった。
(神様、お願いです)
洸野は胸の中で強く強く呼びかける。
いつもはいないと思っている神にすら縋りたくなるほど心が弱っている。
(理と威を、俺の大切なものたちを取り上げないでください)
切ないほどに強い願いは、彼のまだ目覚めていない未知なる力を介し、地球世界と異世界をつなぐあらゆる扉に向けて伝えられた。
やっと洸野君本格登場ですが、次はまた異世界に逆戻りです。
震撼したのは洸野の願いですべての扉が震えたという意味でつけました。
ちなみに異能力の強さでは
洸野>理>恵吏>良弘(威の父)>由宇香>焔>威
の順番で強いです。
武術的な能力では
理>良弘>浩一郎>恵吏>威=洸野
の順番です。つまり威はさほど戦闘能力が高くありません。