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The possible world  作者: テスター
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5話


 その後、起き出した他の人達も鬼灯さんの洗礼を受け、ある人はしきりに興奮し、またある人は不思議そうな顔をしたりと色々だった。


「さて、全員スキルインストールがどんなものか分かったな?こいつを忘れるな。この世界ではこいつが常につきまとう事になるからな」


 全員の顔を見渡し、満足したのか彼は大きく頭を縦に振った。


「さて、さっきお前らにくれてやったスキルデータだが、手に入れる方法は簡単だ。街に行って買う、これだけだ」

「買う、んですか?」

「そうとも、現実と同じさ、これは。街に行けば各種ランクのスキルデータが売ってるし、その中には各人の身体能力に適合したスキルデータがあるはずだ。低ランクなら数が多いからなおさらだな」


 あの、と獣人の男が遠慮がちに鬼灯さんに声をかける。


「身体能力の適合って…なんですか?」

「そうか、ここは知っとかないとまずいところだからな、知らないなら全員良く聞いておけ」


 いいか、と言い聞かせるように彼は言う。


「スキルデータってのは、元は人間から抽出されるものだ。だから、同じランクのスキルデータでも、抽出された人間によって内容が異なる。勿論、同じランクなら技能的には大差ない。だが、同じ1ランク回避スキルでも身長200cmの奴から抽出された回避スキルと、身長150cmの奴から抽出された回避スキルじゃあ避け方が全然違うって分けだ」


 これも現実と同じだ。ここら辺は、技能データのことに詳しくないと知らない事だろうな。

 そういった事もあって、技能データにはランクと同時に抽出者の身体能力が併記される事になっている。


これを偽装したりすると重大な犯罪だ。

 何せ、1度インストールした技能は元々自分にあったその技能と混じり合う。その結果身体能力の差によって技能がなじまず、技能を抽出する事になった場合


「元からあった技能も抽出され、脳から消えてしまう」


 身体能力の差も、少しなら問題は無い。が、さっきの例のように身長が50cmも違えば色々と大変な事になるだろう。

 しかし、この世界にはそんなに無数の技能データ、スキルデータが存在するのか?

 各人のニーズにあったデータが都合良く存在する。にわかには信じがたい話だな。


「どうやら、知ってる奴は信じられないって顔してるな。だから教えてやるが、お前らが考えているとおり、そんなに都合の良いスキルデータがいっぱいある分けじゃない。だが、この世界ではスキルデータの買い取りとコピーによってできる限りのスキルデータをそろえているのさ」


 スキルデータの買い取りとコピー。

 この話が出たとたん、雰囲気が変わった奴が2人。

 さっき質問したのとは違う獣人の男と妖精人の女だ。


「お前らも宣伝の広告ぐらいなら見ただろう?俺たちはお前達冒険者からいつでもスキルデータを買い取っている。しかも、それはこっちの金だけじゃない、お前達がよく知っている世界の金でも買い取っている。だから、俺たちの元にはスキルデータが集まってくるし、それをコピーして増やしている。お前達も要らないスキルデータは売ってくれて構わんぞ?」

「しかし、さっきの話ではスキルデータは買う必要があるんですよね。それを売ったのではこちらには赤字しかないんじゃ?」


 最初に質問した獣人がまた質問をする。

 それにそんな事も知らないのかという目をするもう一人の獣人と妖精人。

 いや、そこまで馬鹿にする事無いんじゃないか?

 俺も知らないし。


「良い質問だな。スキルデータは買わなければ手に入らない。それは変わらないが、1つだけ勘違いがある。スキルデータを買うのに必要なのはこの世界の金だぜ?」


 それに、と鬼灯さんは言葉を続ける。


「スキルデータは、ランクが高ければ高い程高値で売れる。そして、スキルを高ランクにする方法はなにもデータを買うだけじゃない」

「その方法は…なんですか?」


 その言葉に鬼灯さんは身体の前で左の掌に右の拳を打ち付けて言う。


「鍛錬だ!」


 鍛錬、つまり鍛えろって事か。

 鍛える…か。


「鍛錬し、訓練し、実戦しろ。そうすればお前達のスキルランクは絶対に上がる。そしてそれからどうするかは…お前達次第だ。もちろん、どうやってスキルランクを上げるかもな」


 そこで鬼灯さんは口を閉じ、俺たちを見た。

 どうやって上げるかは俺たち次第。

 金か、鍛錬か、悩む必要もないような事だ。どっちが楽かなんて一目瞭然だろう。

 そうとも、決まり切った事だ。


「自分のスキルがどの程度のランクか知りたかったら、Dデバイスを開いて知りたいスキル名を検索してくれ。そして最後に言っておくが、このスキルはお前達の頭に存在するもんだ。だから、この世界で得たスキルはお前達の世界でも問題なく使える」

「そうなんですか?」

「ああ、だからお前達の世界で鍛錬すればこっちの世界でも無駄にならねぇ」


 さて、と鬼灯さんは後ろを向き、少し離れたところに置いてある、えらくでかい袋を取ってくる。

 そして袋を逆さにして中にあるものを床にぶちまけた。

 大剣、杖、腕輪に服など他色々。これはもしかして。


「さぁ、こいつが何かは分かるだろう?さっきも言ったように、お前達はみんな素人。いくらスキルインストールがあるからといって、最初から高ランクのスキルを買うのは懐具合を考えても難しいってもんだ。そんなお前達がどうやって凶暴なモンスター達に対抗するか。その答えがこいつらアイテムって訳だな」


 言いながら、鬼灯さんは床にある杖を拾い上げた。


「こいつは炎の杖だ。魔法系の装備では1番低ランクの武器だな。ぱっと見はただの杖だが、こうすると」


 彼は杖を横に構え、左から右へと大きく振り、そのまま流れるように杖の先を頭上に持っていく。そしてそのまま振り下ろすと同時に言葉を発する。


「炎よ!」


 その瞬間杖の先から炎の塊が現れ、炎塊は真っ直ぐに進み、そのまま船外へと消えていった。

 俺たちは皆、その光景を呆然と見つめていた。

 この瞬間だけは、ごつく、むさ苦しい鬼灯さんの姿が神秘的な、魔法使いのように見えた。


「とまぁ、こんな風に魔法が使えるって訳だ。ちなみにこの世界は今のように特殊な動作に発声を加える事で魔法を発動出来る。これら一連の動作を合わせて魔法スキルと呼んでいるな」


 杖で床に突き、俺たちを見回す。


「この世界はアイテムに様々な特殊効果が付いている。だからアイテムを上手く使えば開拓を有利に進める事ができるだろう。ただし…」

「ただし…なんです?」


 もう獣人君は質問役が板についてるな。俺が質問しなくて良いので素晴らしく楽だ。


「この世界のアイテムは条件を満たしていなければ装備する事ができない。例えば、この大剣だが、おいフランベルだったな、持ってみろ」


 鬼灯さんは床の大剣を指さし指示する。すると隣の小人が前に出て大剣を持ち上げようとする。

 なるほど、あの小人がフランベルか。

 しかし妙だな。あの大剣全く動かないぞ。

 彼女が大剣を持ち上げようと、全身を使って頑張っているのだが、持ち上がるどころかピクリとも動かない。


「そこまで、もういいぞ。何故フ、ランベルがこいつを持てなかったか。それは力がなかったからじゃない。こいつは妖精人と小人が持てないように制限されてるからだ。そして、カケル。こいつを持ってみな」


 今度は横にある槍を指さし、俺に向かって言った。逆らう気もないので、俺は素直に槍を持とうとする。

 人間種族は装備の制限が少ない。しかも槍なんてポピュラーな武器が制限されてる筈もなく、簡単に持ち上が…持ち上が…らない!?

 床を思い切り踏みしめ、引っ張るように持ち上げようとするが、槍は全く動かない。

 どうなってる!?


「よし、やめろ。さて、今度はカケルが槍を持てなかったわけだが、今度は装備制限のせいじゃないぞ。人間種族は制限が少ないからな、この槍も勿論人間種族に制限は入っていない。では何故持てなかったか分かるか?」

「それは、そこのカケルさんの体力が足りなかったからでは?」


 妖精人の女性が情け無さそうな目でこちらを見てくる。

 おい、ちょっとイラッとくるんで止めてもらえないかな?

 視線で通じたのかそうでないのか、彼女は興味なさそうに鬼灯の方へ向き直った。

 獣人2人が気の毒そうな顔でこちらを見る。同情は要らないがありがとう。

 ちなみにフランベルはこちらを見ようともしない。


「足りなかったのは体力じゃない。足りなかったのは…スキルランクだ」


 こちらを見てニヤリと笑う。段々この笑い方には慣れてきたぞ。


「この槍は、装備するのに槍スキルのランクが5以上必要な槍だったのさ。この様に、アイテムは種族制限だけじゃなく、ランク制限も存在する。勿論強いアイテム程高ランクのスキルが必要になるってわけだな」


 種族制限とランク制限。これはちゃんと覚えとかないとな。

 恥をかかされたせいで、むしろ忘れられない気もする。


「アイテムは、見ただけじゃどんな効果や制限があるかは分からない。店売りなら店主に聞けば教えてもらえるが、外で見つけたようなものは、本で調べるか、知ってる奴を捜し出すかするしかないな」

「外で見つけるというのは?」

「宝箱だったり、お前らのお仲間が落としたものだったりだな」


 仲間が落としたもの?

 どういう事だ?


「どういう事ですか?」


 良く聞いてくれた、獣人君。


「お前達がアイテムを落とすパターンが何種類かある。単純に気付かずに落とした、荷物が持てなくなったので捨てた、などがあるが、一番多いのは…死んだ時だ」

「死んだ時、ですか」

「そうだ。この世界は死んでも、指定されたホームポイントに帰還する事になるだけだ。スキルのランクが下がったりはしない。だが…持っているアイテムは全てその場に落とす事になる。お金も装備品も、死んでも落とさない効果のあるアイテム以外は全部だ」


 きつい、な。

 ホームポイントの近くならともかく、ダンジョンのど真ん中で死んだりしたら取り戻せそうにない。


「だから、なるべく死ぬな。危ないと思ったら、さっさと逃げろ。良く言う言葉だが、まだいけるはもう危ないってやつだな。さて、これで俺からの訓練は終わりだ。何か質問はあるか?」

「ひとつ、質問があります」


 フランベルが手を挙げ、鬼灯を見る。


「何だフランベル。言ってみろ」

「ありがとうございます。先程、外でもアイテムを見つける事があると言ってましたけれど、外で見つけたアイテムが制限で持てなかった場合は、諦めるしかないのでしょうか?」


 確かに、それは気になる内容だ。

 外で見つけるアイテムは、冒険者が死んで落としたものが多い。とすれば、結構な掘り出し物の可能性も高いし、ランク制限の高いアイテムも多いだろう。なら、出来る限り持って帰って売りたいところだ。


「良いところに気がついたな。これは本来チュートリアルでは教えないんだが、質問には答えると言っていたし、教えてやる。制限により持てないアイテムも、直接触れなければ持つ事はできる。但し、持っても何とか運べる程度の重さだから、振り回したりはできないがな」

「しかし、それでは結局それ以外が持てなくなってしまって意味が無いのでは?」

「そんな事は無いぞ?ま、これ以上は自分で考えるか調べるんだな」

「…分かりました。ありがとう御座います」


 フランベルは不満げな顔をしつつも、幾分か納得した様子で下がった。

 しかし、今の情報はかなり大事だな。まぁ、鬼灯さんが言ったように、調べれば分かる事なのかもしれないが。


「もう質問はないか?」


 最後の確認とばかりに鬼灯さんが皆の顔を見渡すが、特に誰も声を上げない。

 俺も特に質問はない、はずだ。


「良し!それでは最後に、これだけは気をつけろという事を教えて訓練を終了する」


 良く聞けよ、と彼は言い


「まず、スキルのインストールだが、先程言ったとおり、インストールにはスキルランク×5分の時間がかかり、その間は無防備になる。出来る限りスキルのインストールは、冒険者の宿で部屋を取って行うと良い。そして、この世界から出る時、つまりログアウトする時だが、安全地帯で無ければログアウトすることは出来ない。これも基本的には冒険者の宿の部屋が適任だ。そして、これからお前達が大陸を開拓するに当たって資金が必要になるだろう。動物たちが落とすものを売るだけでは中々資金は貯まらない。そういう時は冒険者の宿でクエストを受けると良い。さて、ここまで言えば何を言いたいか分かるな?」


 彼は、最早トレードマークになったニヤリ顔で言った。


「まずは、冒険者の宿で部屋を取れ。全てはそこからだ。以上、訓練を終了する!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 勢いでお辞儀してしまったが、みんなしてたので恥ずかしくはない。

 それに、ここまでしっかりと『訓練』して貰ったんだ。お礼はちゃんと言っておきたい。


「良い返事だな、お前ら。さて、そろそろ到着するみたいだぞ」


 鬼灯さんは、船の向かう先を親指で指し示した。

 そこには広大な大陸が見えていた。何処まで続いてるのか分からない陸地、遠くには、てっぺんが雲に隠れて見えない程巨大な山脈がそびえ立ち、そして今船が向かう先には


「港だ。それもかなりでかい!」


 この船も5階建てのビル程度の高さがある船のようだが、同じような船が20隻以上泊まっている。

 港では、沢山の人が忙しそうに働いているのが遠目にも分かった。気付けば船が揺れている。


「でかいのは港だけじゃないぜ?港のすぐ外には、でっかい町並みが扇状に広がってる。冒険者としてセントレイル大陸に来た奴らが必ず最初に訪れる、始まりにして最大の港街」


 鬼灯さんは手を大きく広げ、もう何度目か分からないニヤリ顔で俺たちに向かって言った。


「グランポートシティへようこそ!新たなる冒険者達よ!」


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