表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The possible world  作者: テスター
3/17

2話

「これで終わりかな」


 登録完了のメールが届き、一息をつく。

 登録が随分細かかったため、少し疲れが出た。


「まぁ仕方ない事かもな」


 なにせこのゲームはゲーム内で技能―ゲーム内ではスキルと呼ぶらしいが―をやりとりするのだ、厳重にしすぎて悪い事はないのだろう。

 とは言っても、技能の抽出やインストールをするためには必ずDデバイスを介す事になるし、そこら辺は他人の好きにできないようにDデバイスにセイフティがあるはずなので問題は無いはずだが。


「実際、今までそう言う事故は起こってないようだしな」


 技能抽出は本人の意志でしか行えない。Dデバイスに個人認証機能が入っているのもこのためといえるだろう。

 もし、他人の手で技能抽出が行えてしまうと危険だからだ。

 何故危険なのか。それは抽出した技能は、抽出された人の脳内から消滅するからだ。

 仮に「呼吸の仕方」という技能を抽出した場合、抽出された人は即座に「呼吸の仕方」を忘れてしまう。これはどうする事もできない。


 だからこそ、技能抽出は本人の意志でのみ行われるし、抽出されデータとなった技能はあまり多くない。

 抽出されたデータの中でも優秀な質を持ったデータは更に少ない。

 それゆえに、技能データの売買で一攫千金が狙えるのだが。


「まぁ子供に買い与えるデータならたいしたことないんだろうけど…」


 少し嫌な事を思い出した。

 頭を軽く振り、頭に浮かんだ記憶を消す。


「とりあえず、天下のWCDが運営してるんだ。おまけに月額1万、やばい事にはならないだろう」


 WCD、俺も詳しくないが多国籍企業でVR技術系の企業の中ではトップクラスの大企業だ。確か社訓が『私達はできる!』とかでとにかく何でもやる企業だったはずだ。


「どうせやる事もないんだ、さっそくやってみるとするかな」


 ベッドに横になり、さっきDデバイスにダウンロードしたThe possible worldを起動する。


<このゲームはVR製品です。使用するためにはVR空間に行く必要があります。>

<VRダイブしますか?>

<Yes/No>


 Yesをタップすると目を閉じる。

 すぐに独特の音が聞こえてくる。風鈴のような音だ。それが一定の間隔で聞こえてくる。

 これは俺のDデバイスがVRダイブを行う時に鳴る音だ。結構気に入っている。

 そして、段々意識がなくなっていく。風鈴の音が遠ざかっていく。


 ふと気づくと、俺はどこかの部屋にいた。

 3畳程の広さの部屋で椅子に腰掛けている。


「ここは?」


 VR世界に行くのは初めてではない。今の世の中、むしろ行った事の無い人の方が少ないだろう。

 VR世界といっても現実と殆ど変わりはない。Dデバイスによる個体認証で身体情報も現実とほぼ変わりがない。違うのはせいぜい身体ダメージを受けても死なないといったぐらいか。

 実際に臓器等があるわけではないので死ぬ事はない。だが痛みは感じる。それが何故かと言えば。


「確か、リアリティを保つ必要があるからだったか?」


 元々VR技術が発達したのはVR世界で人の技能を上達させるためだとか学校の授業で習った気がする。

 その為には限りなく現実と近しい状態にする必要があるとか。


「まぁショック死はしない程度にリミッターがかかってるから大丈夫なんだよな」


 良いながら席を立ってみる。視線の高さはいつもと同じ170センチちょい上。

 問題なく身長は同じのようだ。左の壁に掛かっている鏡を見れば、何処にでも居るような顔立ちの男の姿がある。年齢に比べて老けてると言われる顔、俺の顔だ。


「そろそろよろしいでしょうか?」

「!?」


 あわてて辺りを見渡すと、正面に女性が立っていた。

 美人と呼んで良いだろう。顔立ちはアジア系の中でも日本人に近く、髪と目は黒いが肌は日本人にしてはかなり白い。目はくりっとして大きく、髪は肩までのショートボブ。身長は俺の肩ぐらい。

 服装は、何というかまさしくファンタジーだ。

 全身を金属でできた鎧で着飾っており、腰からは純白の鞘に包まれた剣を下げている。

 鎧でよく分からないが、腰つきが色っぽい割に胸はあまり大きくないようだ。


「あの、大丈夫でしょうか?」

「あ、はい、大丈夫です!」


 思わず呆然としてしまった。

 いきなり美人に声をかけられれば誰だってそうなる…はずだ。


「すいません、いきなりだったからビックリしてしまって…えっと、あなたは?」

「はい、私はTPW、The possible worldの日本地区担当GMの一人、山桜と申します」


 彼女はにっこりと笑って告げた。

 しかし…GMだって?


「えっと、GMってことは運営の人って事で良いんですよね?なんでそんな人がわざわざ?」

「それはですね、あなたがここに来てからずっと独り言ばかりでキャラメイクを始めないからです」


 頬を若干ふくらませ、いかにも怒ってますという風にこちらを見る彼女。

 それにしてもキャラメイク、確かにゲームを始める以上キャラメイクは必須だと思うが、始めないとはどういう事か。


「始めないと言われても、やり方が分からないんですが」


 憮然としながら言うと、彼女は信じられない物を見るようにこちらを見て。


「あの、規約とかはちゃんと読んでますよね?」

「勿論、大事な部分はちゃんと読んでます」

「ではホームページでキャラメイクの仕方などは読みましたか?」

「…いや、それは読んでませんが、しかしですね。こう言うのは普通説明がある物では?」


 彼女はため息をつき、こちらの手首を指さした。


「ほら、手首のDデバイスが反応していますよね?それを起動してキャラメイクを始めるんです」


 あわてて左手首のDデバイスを見ると確かに光が点っている。

 普通反応がある時は振動もするはずなのだが、気付かなかったようだ。


「どんだけうっかりさんなんですか、それにキャラメイクの仕方ぐらいは読んでくるものですよ?」

「お手数おかけしてすいません…」


 手首を振り、Dデバイスを起動させると画面が現れ、その中に俺の全身像が映っていた。


<これからキャラメイクを始めます>

<まず種族を決めて下さい>


「種族?」

「…まさか、そこから分からないんですか?」


 軽く首をかしげると、山桜さんがおそるおそる声をかけてきた。


「はい、どうもそうみたいで…」

「そうみたいって…はぁ、分かりました。軽く説明させて貰います」


 彼女は軽く首を振ると、右手を大きく振った。

 彼女のうっすらとピンク色をしたDデバイスが起動し、大きな立体スクリーンが現れる。それを彼女は指で操作し、しばらくして画面をこちらと共有設定にして見せてくれる。

 そこには5つの人らしき姿が映っていた。普通の人、何か頭に耳が生えててしっぽもついてる人、耳が長い人、えらくでかい人、えらくちっこい人の5人だ。


「TPWの世界にはかなりの数の種族が存在します。しかしプレイヤーが使用出来る種族は人間、獣人、妖精人、巨人、小人の5種類。更に巨人と小人には身長制限が存在します」

「身長制限ですか?」

「はい、VR世界では当たり前なのですが、プレイヤーとキャラクターの身体能力は同じになります。これは現実と仮想現実で違和感の無くすためですね。その為、巨人種族は身長250cm以上、小人種族は身長145cm以下と定められています」

「それはまた…随分と厳しい制限ですね。特に小人なんか、昨日145cmでも今日は146cmに成長してた、なんてこともあり得るんじゃないですか?」

「はい、その場合はゲームをする事はできません。その為小人種族になられる方は非常にまれです」


 なるほど、5種類とは多いと思ったが、自動的に2つは消えた。残りは3つなわけだが。


「えっと、人間はともかく獣人と妖精人について教えて欲しいんですが」

「獣人は見ての通り、動物の特徴が付与される種族です。何の動物になるかはランダムですね。妖精人は耳が長く、線が細くなります。」

「はぁ、見た目の違いは分かりましたが、身体能力としての違いはどんな物なんでしょう?」

「ありませんよ」


 あっけらかんと言う彼女に視線を合わし。


「無いんですか?」

「無いですね」

「じゃあ何のために仕様種族が用意されてるんですか!?」


 意味が分からない。能力に差違がないなら種族を選ぶ必要なんて無いじゃないか。


「んー、そうですね。一番の理由はやはり選べる種族が1つじゃつまらないでしょう?」

「そりゃまあそうですけどね…選んでも違いがないんじゃあ」

「まぁまぁ、そうあわてないで下さい。ちゃんと種族間に差違はありますから」


 あるのかよ!

 思わず頭の中で突っ込んでしまった。

 しかし、身体能力に違いがないなら一体何に差違ができるっていうんだ?

 いいですか?と彼女は人差し指を立ててノリノリに解説してくる。


「そもそも種族間に差違がないのはこのゲームの肝である脳内インストール型スキル制を生かすためではあるんですが、それを説明すると長くなるので止めます。とりあえず覚えておいて欲しいのは1つ。種族によって装備出来る物とできない物がある、という事です」

「装備…ですか」

「そうです!このゲームでは装備はとても重要なファクターを持っていると言って過言ではありません。ですので、種族を選びはそこそこ重要なんですよ?」


 ふむ、確かにそうなると種族選びはかなり大事だな。


「じゃあ種族によってどういう物が装備出来たりできなかったりするんです?」

「そうですね、獣人なら金属製の防具などは装備出来ませんし、妖精人は更に革製も駄目ですね。妖精人はおまけに近接系の武器にも装備の制限があります」

「制限ばっかじゃないですか」

「いやいや、その代わりに妖精人は魔法系の装備に制限がありませんからね。魔法使いになるなら妖精人はかなりオススメですよ!」

「魔法使い…ですか?」


 きょとんとして山桜を見つめると、彼女の方もこちらを見つめてきて。


「えぇ、魔法使いですが…どうかしましたか?」

「いや、魔法使いなんてなれるものなのかと思いまして」


 VR世界は技能学習のために発展した。それゆえにVR世界では現実でできない事はできない。これがVR世界の常識である。

 実際、魔法を使えとか言われても全く想像出来ない。


「あぁ、そうですね…厳密には魔法使いとちょっと違うわけですが」

「というと?」

「さっきも言ったように、VR世界であってもプレイヤーとキャラクターの身体能力に差はありません。だから、物語にあるようなMPなんてものもあるわけがないんです。そのため、この世界は魔法が使える装備という物があります」

「魔法が使える装備?」


ちょっと分かりにくいですね、と彼女は笑いながら説明を続ける。


「現実世界の銃みたいな物ですよ。例えば炎の杖というアイテムが合ったとします、その杖特有の発動動作を行えば炎を敵に向かって放つ事ができるというわけです」

「あぁ、なるほど、確かに純粋な魔法使いでは無いですね」

「はい、この様にTPWではアイテムに様々な能力が付与されています。それを使う事で現実には不可能な事も可能となるんです!」

「だから可能の世界、なのか…分かりました」


 色々と納得がいった。

 しかしそうなるとますます種族選びが重要になってきたな。

 顎に手を当て、どれにするか悩む。しかしこれといったものがないな。逆に言えばどれも面白そうな気はするしな。


「特にこれがやりたい、といったものがなければ人間を選ぶのが良いと思いますよ」


 迷っている俺を見かねてか、彼女が声をかけてきた。


「それは何故でしょう?」

「人間種族は他の種族に比べて装備の制限が圧倒的に少ないんです。だから人間種族なら色々な事をとりあえず試せると思いますよ」

「はぁ…しかしそれじゃみんな人間種族を選ぶんじゃないですか?」


 いくら見た目がいつもと変わらずつまらないといっても、人間だけそんなに優遇されていれば皆人間を選ぶだろう。

 そんなこちらの思いを知ってか、それはですね、と山桜が説明を始める。


「人間は確かに装備制限が少ないんですが、逆に専用装備も圧倒的に少ないんです」

「専用装備?」


 また新しい単語が出てきたぞ。


「専用装備というのは、そのまま種族専用の装備の事です。人間専用とか獣人専用とかですよ」

「そんな物まであるんですか」

「まぁ、まだゲーム内でも数えるくらいしか見つかっていない物ですが、比率から言って人間種族専用の装備が少ない事は確かですね」


 なるほど、人間は確かに汎用性はあるかもしれないが、最終的に上に向かうなら違う種族の方が良いのだろう。

 さて、今まで出た情報を踏まえて俺が選ぶ種族は…


「よし!」


 そこから更にしばらく考え、結論を出した俺は自らのDデバイス画面を操作した。

 軽い音と共に画面に文字が現れる。


<種族撰択>

<人間種族が選択されました>


<次の選択肢へと移行します>

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ