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The possible world  作者: テスター
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1話

「暇だ」


 目を覚まし、30分程ぼうっとしたあとそうつぶやいた。

 更に5分程そのまま動かずにいると腹の虫がなった。

 その音を聞いたとたんに腹が減った気がしてくる俺の頭は、かなり都合良くできているようだ。


 身を起こし、ベッドの足側に配置された冷蔵庫のドアを開け中身を見ると調味料ぐらいしかない。


「そうか…昨日の夜にやけ食いして全部喰っちまったんだったな」


 昨日はバイト先に顔を出して辞めると言ってきたのだった。

 長く勤めていただけに辞めるのには抵抗があったのだけど、さすがにあんなヘマをしてしまうとバイト先には居られない。


「結構給料良かったんだけどなぁ」


愚痴りながら部屋備え付けのキッチンまで歩き、炊飯器の中身を確認するとまだ白飯が残っていた。


「よし!」


 少しテンションが上がり、冷蔵庫からバターを取り出しスプーンですくいフライパンに乗せ、火をかける。

 バターをフライパンいっぱいに溶かしながら広げ、ご飯を投入。ご飯の上に塩こしょうをふりかけ、しばらく炒めた後に醤油を入れる。最後にもう一度炒めると特製醤油バターライスの完成だ。


「男が作る適当料理だよな」


 苦笑いしながらも香ばしい匂いに食欲がそそり、いそいそと皿に盛りつけテーブルへと持っていく。


「いただきます」


 両手を合わせつぶやくと、早速右手にスプーンを持ち食べ始める。

 食べながら、左手を軽く振ると左手首のDデバイスが光り、左手の先に長方形の立体スクリーンが現れる。そこに左手の人差し指を這わせ、画面をスクロールさせニュースのアプリを開く。


「今日も特に気になるニュースは無い、か」


 その後はネットブラウザを開き、いつも見ているサイトを巡回していく。


「しかし…便利なものだよな」


 食事を終え、音楽アプリを起動させながら本格的にネットサーフィンを始めた時、ふと思い立つ。

 今の世の中はDデバイスがあればたいていの事ができてしまう。勿論料理などは無理だが、かつては別々だったというPC、携帯電話、ゲーム機等電子機器の類が全てが集約されているのだ。

 といっても俺自身はそれらが別々だった時代をあまり覚えていないのだが。


 画面から目を離し、自らの手首にある物を見る。

 Dデバイス―正式名称は違うはずだが、世間的にはそう呼ばれている機械だ。

 電子機器の類のほぼ全てが集約され、更にはVRダイブを行うためになくてはならない物。

 VR技術が発展し、各種VR製品を使用するためには必要不可欠であり、全世界でほぼ全ての個人が所持しているといわれているが


「実際どんなもんだか。この時代にだって電気を使わない生活してる人も居るって聞くしな」


 まぁしかし、少なくともこの日本では全国民が所有していると言っても嘘にはならない。

 なにせ、今やこれで口座の確認や買い物の支払いなどを行えるし、個人判別も行えるので最高峰の身分証明にもなる。免許等もデータで呼び出せるので免許不携帯になる心配も無しと素晴らしい物だ。

 常に身につける事が習慣化しているため盗まれる事もないし、DNAによる識別があるので他人の物を使う事もできない。最早良いところしかないように思えるが、面倒くさい事もある。

 Dデバイスが頭部、両の手首、腰、両の足首の全てにつけなければいけない物だからだ。


「けどまぁ、仕方ないよなぁ」


 これも全てはVRダイブを行う際に身体データを取得するために必要なのだという。

 そう言う事もあり、Dデバイスは今では世界中で生産されている。

 企業により色々と違いがあり、Dデバイスの選び方でセンスを問われる事もある。

 俺の場合は実用性を取り、日本製の通信速度とデータ容量に特化したモデルを選んでいる。デザインは黒字にメタリックブルーの線が入った物だ。ちなみに一月のデータ通信料金は5000円である。


「あ…そうか、こいつの金も考えないと駄目だな」


 本体はともかく月々の通信料金、そしてこの部屋の家賃に生活費。

 今までは全て自分で払ってきた。

 その為に結構な時間をバイトに費やし、貯蓄も殖やしてきたのだが…そのバイトは昨日辞めてしまったのだ。


「貯金は…50万か」


 銀行口座をチェックし、考え込む。

 これだけあれば2ヶ月は大丈夫なはずだ。となれば、その間に新しいバイトを見つければいい。幸い今は夏休みが始まったばかりであり、時間はいくらでもある。


「しかし、それで良いのか?」


 大学に入って2年目の夏。1年目はバイト三昧だった。来年からは色々と忙しくなるだろう。何かやるとしたら今しかないんじゃないか?


「ふん、ばかばかしい」


 一瞬頭に浮かんだものを気の迷いと一蹴する。

 今の時代、技能インストール学習法が広まったこの時代ではとにかく金を貯めるべきなのだ。金さえあれば何だってできるようになるこの時代では。

 しかし、しばらくバイトをする気になれないのも確かではあった。

 失敗という物は思う以上に身に応える。

 気晴らしにネットサーフィンを続けていると、興味を引かれる広告を見つけた。


「目指せ一攫千金、開拓者求む…何だこれ?」


 随分と大々的な広告だった。

 美男美女が左右に立ち、船に向かって手を向けている絵に大きな文字で誘い文句と共に書いてあるものがあった。


「The possible world…そうか、こいつが噂のネトゲか!」


 『The possible world』

 VRMMOといわれるゲームの1つだ。

 VRMMOというのは、VR技術の発展により可能となったVR製品の1つで、まぁ簡単に言えば仮想現実で行われるネトゲである。

 確かThe possible worldは2年前から始まったはずだが、俺はあいにく受験とバイトで縁がなかった。

 ただ、今あるネトゲの中で1番人気があるという事だけは聞いていた。ネトゲに触れない俺がその噂を目にする程なのだから、よほど人気なのだろう。


「なになに、2年連続ユーザー満足度全世界1位、総プレイヤー人口全世界1位、他色々あるな…ん?」


 ざっと説明を流し見していると、見慣れない単語が飛び込んできた。


「全世界初、脳内インストール型スキル制を採用。身につけたスキルを売って君も一攫千金を目指せ、か」


 脳内インストール型スキル制とは初めて聞く単語だ。だが何となく分かる。これはきっと現実と同じなのだ。

 身につけた技能を売り買いする。今の世の中ではそれが可能だ。

 理屈は知らない。大事なのはそれが可能という現実だ。

 医者になる方法は最早医学部に入るだけではなくなった。

 医者としての技能データを買い、脳内にインストールすることで、人は試験のみで医者になる事が可能になったのだ。

 だが、技能データは有限だ。それゆえ市場では秒単位で値が変わる。

 需要と供給を見極めれば、自らの持つ技能を売りさばく事で億万長者になることも夢ではない。


 つまりはこのネトゲもそうなのだ。ゲーム内で技能を磨き、それを売る事ができる。

 そして上手く売りさばけば


「一攫千金ってわけだ」


 ゲームの舞台はファンタジー世界での未開大陸。プレイヤーの目的はその開拓。

 ゲームシステムの詳しい内容はゲーム開始時にインストしてくれる、と。

 悪くない。気晴らしになり、更に上手くいけば儲ける事もできるときたもんだ。


 何故かは分からないが、かなり乗り気になってきていた。

 気が変わらないうちにユーザー登録だけでもしておくとしよう。まずは名前だな。

 

 飛渡 翔一っと。

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