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The possible world  作者: テスター
13/17

12話


「What? 何でお前がここにいる?」


 青空草を手に入れるため、西門を抜けたところに先に出たはずの男が居た。

 何をすればいいか分からなかったので準備も特にせず来た結果、追いついてしまったようだ。

 男は、今回はそれ程敵意は見せず、かといって友好的ではない目つきでこちらを見てきた。


「別に、何だって良いだろう? 俺は俺でやる事があるからここに来ただけだ」

「…そうかい。 ま、何しようが勝手だが俺の邪魔だけはするなよ、Beginner」


 そういうと、男はさっさと先に進んでいく。


「邪魔しようと思った事なんか1度もないっつーの」


 そうつぶやき、俺も男と同じ方角へ足を進めた。

 しかし、ここから1時間は歩かなきゃいけないって事だから、気長にいかないとな。

 辺りを見回し、観光気分で歩いていく。

 勿論モンスターを警戒してるってのもあるが。

 周囲は見事に草原としか言えないような景色が広がっている。

 草が生い茂り、所々に木々が生えているのも見かける。

 ちなみに俺が歩いているところは草が生えておらず、道のようになっている。どうやら何人もの人がここを通って地面が踏み固められたせいのようだ。

 また、時折近くを羊などが通りがかる。俺が近くを通っても特に反応せずに草を食べていたりと実に牧歌的だ。ここでピクニックとかするのも楽しそうだよなぁ。


「Hey! お前、どういうつもりだ!?」


 声に驚き前を見ると、前を歩いていた男がこちらを見て怒鳴っていた。


「何だよ? 人が楽しんでたってのに」

「楽しんでたじゃねぇよ! 何のつもりで俺について来てるんだお前!」


 はて、ついて来てるだと?

 確かに俺はさっきから男の後ろを歩いてたからそう思われても仕方ないか。


「いやいや、別についていってるわけじゃないぞ。 ただ、この方角に目的の場所があるだけだ」

「目的の場所?」

「そうだよ。 ここを真っ直ぐに行けば泉に着くって聞いたから…あ」


 しまった、何で気付かなかったんだ。

 こいつも青空草取りに向かってるんだから、同時に出発したら道中一緒になるのは当たり前じゃないか。

 どうしよう。他に青空草が生えてる場所は聞いてないしな…


「はっ、お前もBlue sky grassを取りに来たのか? やめとけ、Beginnerが取りに行くような場所じゃない」

「む…人の事をビギナービギナーって呼ぶがな、そういうお前はどうなんだよ! お前なんか服が初期装備のままじゃねーか」

「馬鹿が、俺は金を貯めてるだけだ。Armorなんざ攻撃を喰らわなければ関係ねぇ。そんなモンに金使うぐらいならスキルでも買った方がマシだな」

「なんだと!?」


 くそ、馬鹿にしやがって。

 やっぱりこいつはいけ好かない。

 いや、だが待てよ。


「だが、金を貯めてるにしろお前がカーネイア・ハウンドを狩っていた事には変わりは無いはずだ! あれはこのゲームでも雑魚中の雑魚だろ? それを狩っていた以上、お前も初心者に違いは無い!」


 どうだ!

 これには反論出来ないはずだ!

 だが、人差し指を突きつけた俺に向かって男は両の掌を上にし、首を振る。やれやれ、といわんばかりに。


「お前もあの店に居たならQwestを受けたんだろ? 俺も同じようにあのQwestを受けていた、それだけの事だ。少し考えれば分かるだろうがよ」


 ぐぬぬ。

 スジは通ってる気がする。やはりこいつは初心者ではないか。

 俺よりも色々知ってるのは確かだしな。


「もう良いか? 分かったならさっさと街に帰るんだな」

「…別に、初心者だからって青空草を取りに行っちゃ駄目なんて決まりは無いだろ? だったら取りに行ったって何の問題もない」

「チッ、勝手にしな! 人が折角親切で言ってやったんだ。死んでも知らねぇからな!」


 男はそういうと、早足で進んでいった。

 …そういえば、今のは忠告してくれてたのか。今までの印象でそんな事する奴にはみえなかったから分からなかった。

 よく分からない奴だと思いながら、結局俺は男の後ろを付いていく事になった。

 できれば一緒に行くのは勘弁願いたいが、あいにくこのルートしか分からない。下手に別のルートを探して迷子になるのも避けたい。

 結果、黙々と辛うじてそうと分かるような道を進んでいくしかなかった。途中から周囲の草が膝ぐらいまでの長さになって、道を外れるのも大変になったため、別ルートを検討する事も止めた。

 そして、しばらく何も起こらず進んでいると、突然前を歩いていた男が立ち止まった。


「…? おい、進まないならどいてくれないか? この道あんまり広くないんだからさ」


 男は俺の言葉が聞こえなかったのか、それとも聞こえてて無視したのか、とにかく何も応えなかった。

 こうしていても埒があかない。

 俺は男を避けようと、男の右手にある草陰に足を踏み入れようとした。

 その時、男がその草陰に向かって思いきり前蹴りを放つ。

 俺の足はギリギリで蹴りから外れたが、勢いに押され俺は尻餅をついてしまった。


「何をする! どういうつもりだ!?」

「…shit!」


 男はまたもこちらを無視し、身構えたようだった。

 そして、周囲の草むらからは何かが草を掻き分けるような音がし、唸り声のようなものも聞こえる。

 ここまでくれば俺にも分かる。敵襲だ。

 聞こえてきた唸り声は今日何度も聞いた声に似ていた。おそらくカーネイア・ハウンドだろう。

 急いで身を起こし、木刀を正眼で構えて周囲の様子をうかがう。

 草を掻き分ける音は左右両方の草むらから聞こえてくる。しかも、音からしてどちらも1匹じゃない。


「おい! 囲まれてるぞ!」

「Shut up! そんな事は分かっている。気付くのが遅すぎるぞ!」

「お前だって気付いたのさっきなんだろ!?」


 思わず男の方を向いて怒鳴る。そして、男に意識をやった瞬間草むらから一匹の犬が飛び出してきた。


「くそっ!」


 咄嗟に木刀を横に振るが、その時には既に相手は懐まで潜り込み、お得意の体当たりを俺にぶつけてきた。


「ぐっ…このやろう!」


 後ろに下がろうとするも、すぐ後ろは草むらであり、奴らのテリトリーだ。それに、足場が悪くて動けな


いだろう。

 ここも足場が良いとは言えないが、草むらの中よりはマシだろう。

 幸い、あまり勢いの乗った体当たりでは無かったので、大して体制は崩されていない。向こうもここまで生い茂った草の中で全力疾走はできなかったのか。

 だが、その代わりに野犬は体当たりをかました後すぐに草むらへと入ってしまい、俺は反撃ができなかった。これはかなり厄介だぞ。


「どこにいる…?」


 先程出てきた辺りを向いた時、背後から音が聞こえ、次の瞬間背中に衝撃を受ける。

 今回は耐えきれず、思わずそのまま前のめりに倒れ身体を地面に強く打ち付けてしまった。

 いってぇ…かなり効いた。

 身体を起こし周囲を見るが、犬の姿は草に隠れて見えなかった。

 このままじゃなぶり殺しになるだけだ。

 その場で素早く、しかし酔わない程度に回って奴らの姿を探す。

 いた。

 落ち着いて周囲を見れば、草の動きで奴らがどこにいるのかは分かる。

 良し!


「やれるぞ!」


 一直線にこちらへと向かってくる草の動きを見つけ、間合いに入って来た瞬間に木刀を上から打ち込んだ。

 だが、手応えが無い。


「外した?…しまった!」


 咄嗟に横に避けたのだろう。野犬が牙を光らせこちらへと飛びかかってくる。

 何とかしようにもこちらは木刀を勢いよく振り下ろした状態。避けようがない。

 だが、野犬の牙が俺の腕に食い込む直前、何かが相手の横腹にぶつかり、そのまま吹き飛ばした。


「な、何が?」

「Fuck! 手間かけさせるんじゃねぇ、Beginner!」


 野犬を吹き飛ばしたのは男の蹴りだった。

 男の蹴りを喰らった野犬は、地面に叩きつけられたあと動かなくなり、光って消えた。

 一撃だって?

 驚き、俺は男の姿を見る。

 男はまた、新たに現れたカーネイア・ハウンドに強烈な蹴りを喰らわしていた。

 その蹴りは、勢いもさることながら、男が履いている全体に金属製の鋲が付いたブーツによって威力が高められているようだ。


「ぼうっとしてんじゃねぇ! まだまだ敵はいるんだぞ!」

「っ、分かっている!」


 男を見ている場合ではない。すぐ近くに敵が来ている。

 まだだ。今打ち込めばさっきの二の舞。

 それに正眼じゃ駄目だ。昼間の時を思い出せ!

 近づいてくる草の揺れに焦らず、上段に構えてギリギリまで引きつける。

 あと少し…今!


「せいっ!」


 今度は手応えありだ。

 草陰から野犬がよろよろと出てきて、そのまま倒れて光になる。

 よし、この調子でいこう。

 すぐさま背後を向き、こちらへ飛びかかってきた野犬をバックラーで弾き、次の敵を仕留めるべく上段を構えていった。


 そこから数分の間カーネイア・ハウンドの群れと奮闘することとなった。

 俺は苦戦はしたものの、何とか大きなダメージを負うことなく切り抜ける事ができた。

 だが、正直やばかった。

 1人なら確実に死んでいただろう。

 今生きているのは、そこで水を飲んでいる男がいたからということは、悔しいが認めなければならないだろう。


「…ありがとう、助かった。あんたが居なかったら俺は死んでたよ」


 なんとか、素直にお礼が言えた。

 だが、こっちがお礼を言ったっていうのに、男は反応せずに水を飲んでいる。

 おい、何とか言えよ!

 こっちがもう一度言葉を出そうと口を開けた時、男は被せるように言葉を挟んできた。


「お前、何かやってたのか?」

「…? ああ、一応剣道を昔」

「なるほど、ケンドーね。それであんな馬鹿みたいな戦い方してたのかよ」

「ば、馬鹿とはなんだ! これでも必死にだな…」

「必死にやった結果があれだろ?」


 男の冷ややかな目にこちらは何も返せなかった。

 確かに、男に比べれば俺は大してカーネイア・ハウンドを倒せてはいない。

 男は俺の倍近く倒していたはずだ。

 初心者だからって言い訳はできない。俺は初心者でも問題ないといってここまで来たのだから。


「…一体どこが馬鹿な戦い方だったって言うんだ?」


 悔しい、悔しいが、ここは素直に聞いておくべきだ。


「簡単な事だ。Haundみたいな等身が低い奴に上から殴りかかるなんざ、実戦でやる事じゃねぇ。まだ我流の奴の方がマシな戦い方してるぜ」


 …まったくもってその通りだった。


「ここにはケンドーのルールなんざ存在しねぇんだ。Sportやりてぇなら現実でやるんだな」


 そうだ、ここでの戦いでわざわざ上から相手を攻撃する必要なんて無かった。

 どうしてそんな単純な事に気付かなかったのか。

 久し振りに木刀を握って、剣道を思い出していた。だからだろうか。

 なんだっていい。とにかく、これで改善点は分かった。


「…次はもっと上手くやってみせる」


 決意を新たに前を見ると、男は既に休憩を終わらせ出発していた。

 いけ好かない奴だ。いけ好かない奴だが…悪い奴ではないのかもしれない。

 そういえばまだ名前を知らないのだな、と思いながら、俺も足を進めていった。


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